【Art Project 2023】「芸術祭」と「教育現場」の関係について(SACPの実践から②)
芸術祭の現場では、作家が作品をつくり発表するだけでなく、教育やその他の現場との連携のプログラムも数多く行われています。
「さいたまアーツセンタープロジェクト2023(SACP2023*)」では、「アウトリーチプログラム」として、市内5つの小学校と連携し、作家との制作の時間をつくっています。
昨今の教育現場では、STEAM教育という教育が実践されています。STEAMとは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた教育概念で、 技術革新が進み人工知能の影響で世の中が大きく変化する中で生まれ、人工知能、IoT(Internet of Things)などの、急速な技術の進展により社会が激しく変化し、多様な課題が生じている今日。文系・理系といった教科の枠にとらわれず、各教科等の学びを基盤としつつ、領域横断的に様々な学びを活用、応用しながらそれを統合し、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく資質・能力の育成を目指して行われています。
ここでのポイントは、Artが「美術」ではなく、「芸術・リベラルアーツ」である点です。教科的な範囲での「美術」ではなく、S、T、E、Mとの幅広い関連が目指されています。
もともと「ART」は、ラテン語の「ARS(アルス)」に由来し、「技術」や「資格」「才能」といった幅広い意味がある言葉でした。その中の「技術」の意味の中には、「人の手を施して装飾する」という意味があり、そこには医術や建築工学、学問も含まれていました。(この時点では、建築も「ART」の中に含まれていました。)「ART」にはこのように、様々な意味がありましたが、産業革命以降、科学力を駆使して実用的なものをつくる技術を「technology・テクノロジー」とし、「ART」は、装飾や美的なものを創造する技術に対して分けて使われるようになり、本来の意味を狭めていきます。
そして、明治期の日本に「リベラル・アーツ」の輸入がきっかけで「ART」が輸入された時、「ART」は「芸術」と翻訳されました。(リベラルアーツは、「すべての人間が持つ必要がある技芸」とされ、ギリシャ・ローマ時代に理念的な源流を持ち、ヨーロッパの大学制度において中世以降、19世紀後半や20世紀まで、実践的な知識・学問の基本と見なされた自由七科を指します。具体的には文法学・修辞学・論理学の3学、および算術・幾何(幾何学、図形の学問)・天文学・音楽の4科で構成されています。)日本に輸入された「芸術」は、狭義の意味で捉えられた「芸術観」として、今日に至ります。
その中で、地域で行われる芸術祭やアートプロジェクトの現場では、様々な人々の生活の現場で展開されることが多く、狭義の意味での「芸術観」だけでは、その人たちと齟齬や誤解が生じてしまうことが多々あります。
そのような現場での経験から、
教育の現場での今日的な課題に対応するための実践、STEAM教育、地域で展開されるアートプロジェクト等における「ART」は、狭義の意味での「芸術観」のみで実施されるものではなく、さまざまな領域を横断する「ARS(アルス)」の感覚で実践し、今日に合ったそれぞれの現場での「芸術観」を、関わる人たちでつくれたら素敵だと考えています。
前述した「ART」のもつ本来の意味も共有していくことで、現場での理解や関わりしろの広がりも生み出せると思い様々な方とのコミュニケーションを大切に活動しています。
プログラムに参加した子どもたちが表現活動を通して、自分自身の興味や関心を深められれば嬉しいです。
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●「さいたまアーツセンタープロジェクト2023*」について
「あなたのライフスタイルにアートを。」をあいことばに、日常生活のなかで、誰でもアートに参加する習慣を生み出す「アーツセンター」を創造するプロジェクト。2019年から約120ものプログラムを実施してきた経験をいかし、創造性・リアル・対話のある場を大切にしながらワークショップ、レクチャーや展示を行う。「展覧会プログラム」は、建物が登録有形文化財に登録している料亭からアーティストが集うギャラリーまで市内8ヵ所で展開される。場所×アートとのマッチングにも注目。また、「ウィークデーアーツプログラム」では水曜・金曜・土曜に音楽やアートに触れられるプログラムを用意。8月より先行プロジェクトとしてプログラムを展開する。
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●さいたま国際芸術祭2023
2023.10/7-12/10
●SACP2023✳︎
●参考:中之条ビエンナーレ2019での教育現場での実践