【総評】第85回アカデミー賞
こんばんは。今回は『アルゴ』が作品賞を受賞した第85回アカデミー賞について書いていこうと思います。
第85回アカデミー賞について
最多ノミネートはスピルバーグ監督作『リンカーン』の12ノミネート、そして最多受賞はアン・リー監督作『ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日』の4受賞です。
記録としては、『世界にひとつのプレイブック』のジェニファー・ローレンスが史上二番目の若さで主演女優賞を受賞しました。『愛、アムール』で候補に挙がったエマニュエル・リヴァは史上最高齢でのノミネートとなりました。
また主演男優賞は『リンカーン』のダニエル・デイ・ルイスで、三度目の主演男優賞受賞は史上初です。
『ジャンゴ 繋がれざる者』で助演男優賞を受賞したクリストフ・ヴァルツは第82回で同じタランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』でも助演男優賞を受賞しており、同じ監督の作品で二度同部門を制するのは史上初でした。
音響編集賞は『007 スカイフォール』と『ゼロ・ダーク・サーティ』が票数が同数となり同時受賞となりました。一つの部門を二つの作品が同時受賞するのは珍しいことです。
また衣装デザイン賞は白雪姫を題材とした『スノーホワイト』と『白雪姫と鏡の女王』の二作品が同時ノミネートされました。後者の衣装デザインを手がけた石岡瑛子は前年に没しており、死後のノミネートとなりました。
またこれは今となっては特筆すべきことではありませんが、オーストリア映画であるミヒャエル・ハネケ監督作『愛、アムール』が作品賞を含む5部門でノミネートされ、今年の『ドライブ・マイ・カー』と同じようにそのうち外国語映画賞のみ受賞しました。
10作品の選定
さて、個人的ランキングの対象とする10作品を決めたいと思います。
まずは作品賞ノミネートされた9作品
『アルゴ』
『ゼロ・ダーク・サーティ』
『リンカーン』
『ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日』
『レ・ミゼラブル』
『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』
『世界にひとつのプレイブック』
『ジャンゴ 繋がれざる者』
『愛、アムール』
は確定とします。
そして残り1つは作品賞ノミネートされていない作品のノミネート数を並べてみると
5ノミネート 『007 スカイフォール』
4ノミネート 『アンナ・カレーニナ』
3ノミネート 『ホビット 思いがけない冒険』『ザ・マスター』
2ノミネート 『フライト』『スノーホワイト』
ということで、『007 スカイフォール』とします。
よって対象作は
『アルゴ』
『ゼロ・ダーク・サーティ』
『リンカーン』
『ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日』
『レ・ミゼラブル』
『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』
『世界にひとつのプレイブック』
『ジャンゴ 繋がれざる者』
『愛、アムール』
『007 スカイフォール』
の10作品とします。
個人的ランキング
10位 『レ・ミゼラブル』
受賞 : 助演女優賞(アン・ハサウェイ)、録音賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞
ノミネート : 作品賞、主演男優賞(ヒュー・ジャックマン)、歌曲賞(「サドゥンリー」)、美術賞、衣装デザイン賞
アン・ハサウェイのあの歌唱やエポニーヌの雨の中での絶唱は素晴らしかったです。それについて文句を言うつもりはありません。
しかしそれは役者たちがよかったからであり、あくまで映画としてみるとやはりトム・フーパーはミュージカル演出というものをあまり分かっていないと感じました。その後の『キャッツ』の失敗にも繋がることですが、一つ一つのシーンはいいのにその繋ぎが下手で、結局テンポが悪くなってしまってる部分が多々みられます。
9位 『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』
受賞 : なし
ノミネート : 作品賞、監督賞、主演女優賞(クヮヴェンジャネ・ウォレス)、脚色賞
これに関してはそんなに悪く言うつもりはないです。良い映画だと思います。ただ、このタッチが後述する『ライフ・オブ・パイ』と似ている部分があり、相対的にみてあまり印象に残らなかったというのが正直なところです。一言で言うとタイミングが悪かった。
サンダンス映画祭から出てきた作品で、小品ながらマジックリアリズムとも言える不思議な世界観を形成しておりとても良い作品です。主演の難しい名前の子も素晴らしいですしね。
8位 『アルゴ』
受賞 : 作品賞、脚色賞、編集賞
ノミネート : 助演男優賞(アラン・アーキン)、作曲賞、音響編集賞、録音賞
作品賞を受賞した作品ですが、ベン・アフレックが監督賞にノミネートすらされなかったことで大いに物議を醸しましたね。
設定や話は面白いのですが、その語り口や演出にこれといった特徴がなく、「ベン・アフレックが監督した嘘のような本当の話」という以上のものをあまり感じませんでした。
7位 『ゼロ・ダーク・サーティ』
受賞 : 音響編集賞
ノミネート : 作品賞、主演女優賞(ジェシカ・チャステイン)、脚本賞、編集賞
これは『アルゴ』と逆のような印象で、作家性あふれる硬派な社会派サスペンスなのですが、肝心の話があまり面白く感じませんでした。
ただやはり高レベルな作品であることに間違いなく、少なくともキャサリン・ビグロー監督作品としては『ハート・ロッカー』より本作の方が好きです。
更に言えばジェシカ・チャステインは今年ようやく『タミー・フェイの瞳』で主演女優賞を受賞しましたが、本当であれば本作で受賞すべきだったというくらいの名演をみせていると思います。
6位 『愛、アムール』
受賞 : 外国語映画賞
ノミネート : 作品賞、監督賞、主演女優賞(エマニュエル・リヴァ)、脚本賞
ミヒャエル・ハネケが二度目のパルムドールを獲得し、外国語映画にも関わらずその勢いのまま主要部門まで食い込んできた本作、もはや「崇高」なレベルにまで達した傑作でしょう。主演のジャン=ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リヴァ、そしてイザベル・ユペールの存在感は素晴らしく、なるほどこれはアカデミー賞にも食い込んでくるわなという作品です。
素晴らしい作品であることには間違いないのですが、ハネケは個人的にあまり好きな監督ではなく、いささか話を作り込みすぎる、ガチガチに固めすぎる監督だと思っています。個人的には多少緩くても何かが突出している映画の方が好きなので、本作もそこまでノれませんでした。
5位 『007 スカイフォール』
受賞 : 歌曲賞(「スカイフォール」)、音響編集賞
ノミネート : 作曲賞、録音賞、撮影賞
言うまでもなく007シリーズの作品ですが、『アメリカン・ビューティー』『1917 命をかけた伝令』のサム・メンデス監督、『ブレードランナー2049』『ショーシャンクの空に』などのロジャー・ディーキンス撮影という最高の人材を揃えたことで史上最も美しいアクション映画を作り上げることに成功しました。
実はこの作品は今回の10作品の中で一番最後に観た作品で、何も分からず『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』を観て、後追いでダニエル・クレイグ版ボンドだけ観ました。
本作は正直言ってそれまでの二作とは段違いの完成度ですね。マカオのシーンや終盤炎に包まれる屋敷のシーンは息をのむほどの美しさでした。シリアス方向に振り切った007の最高峰と言っていいだろうし、アクション映画としての質も歴史を塗り替えるほどの完成度でしょう。
4位 『世界にひとつのプレイブック』
受賞 : 主演女優賞(ジェニファー・ローレンス)
ノミネート : 作品賞、監督賞、主演男優賞(ブラッドリー・クーパー)、助演男優賞(ロバート・デ・ニーロ)、助演女優賞(ジャッキー・ウィーヴァー)、脚色賞、編集賞
ワインスタイン・カンパニー制作・配給の作品です。これまでワインスタインがてがけた作品はあまり好きでないと書いてきましたが、本作に関しては例外的にかなり好きです。
いわゆるラブコメではあるのですが、演者たちのアンサンブルが最高でとても楽しめました。単なるラブコメではなく、精神病だったり配偶者との死別であったりとそれぞれが抱える問題、トラウマを克服していくという話が一風変わった味を出していて面白いです。
デヴィット・O・ラッセル監督の役者を最高に輝かせる演出が光り、ジェニファー・ローレンスは最高にいいですね。
3位 『ジャンゴ 繋がれざる者』
受賞 : 助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)、脚本賞
ノミネート : 作品賞、音響編集賞、撮影賞
タランティーノ監督作の中では本作が一番好きです。キャストも最高、南北戦争直前のアメリカ南部を再現した美術や衣装も最高、展開も痛快でエンディングも最高!これ以上映画に望むものはないというカタルシスにあふれた作品でした。
ディカプリオはこれまでのイメージとは異なる悪役を迫力たっぷりに演じていて素晴らしかったです。助演男優賞でノミネートされてもよかったと思うのですが…
2位 『リンカーン』
受賞 : 主演男優賞(ダニエル・デイ・ルイス)、美術賞
ノミネート : 作品賞、監督賞、助演男優賞(トミー・リー・ジョーンズ)、助演女優賞(サリー・フィールド)、脚色賞、編集賞、撮影賞、作曲賞、録音賞、衣装デザイン賞
この回最多ノミネート作品、そしてスピルバーグ監督作品です。
いやー、もう参りましたとしか言えない作品ですねこれは。ここまでのクオリティのものを出されたら降参するしかない。全てが高いレベルにあり、話も社会派であり今にも通じる面白さがあります。
ダニエル・デイ・ルイスの三度目の主演男優賞も納得の素晴らしい演技、トミー・リー・ジョーンズのベスト・パフォーマンスと言っても過言ではない演技はもちろん素晴らしいです。撮影も陰影をくっきりとつけた美しい撮影、美術や衣装の再現度の高さには唸らされます。どれをとっても一級品。文句なしの名作でしょう。スピルバーグ恐るべし。
1位 『ライフ・オブ・パイ / トラと漂流した227日』
受賞 : 監督賞、作曲賞、撮影賞、視覚効果賞
ノミネート : 作品賞、脚色賞、歌曲賞(「Pi's Lullaby」)、音響編集賞、録音賞、美術賞、編集賞
ダントツで1位です。もうとにかく画面が美しい。これを劇場で観ることができなかったのは本当に悔しい。そして画面が美しいだけでなく、物語としても深いというのがいいですね。物語を語ることという意義の本質まで突きつけてくるような作品だと思います。
映画的完成度として、クオリティとしては『ゼロ・ダーク・サーティ』や『愛、アムール』、『リンカーン』と変わらないと思うのですが、好きな監督であることもあり忘れられない一本です。おそらく生涯忘れない一本になるでしょう。
ということで今回は第85回アカデミー賞について書きました。
読んでいただきありがとうございました!
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?