見出し画像

アカデミー作品賞、個人的ランキング②(80位~71位)

みなさんこんばんは。
今回は前回の記事に引き続き作品賞ランキングをお届けしようと思います。
80位~71位までをご紹介します。

80位 『恋におちたシェイクスピア』(第71回・1998年)

13ノミネート、7受賞
受賞 : 作品賞、脚本賞、主演女優賞(グウィネス・パルトロウ)、助演女優賞(ジュディ・デンチ)、ミュージカル・コメディ映画音楽賞、美術賞、衣装デザイン賞
ノミネート : 監督賞、助演男優賞(ジェフリー・ラッシュ)、録音賞、撮影賞、メイクアップ賞、編集賞

他のノミネート作品
『エリザベス』(7ノミネート、1受賞)
『ライフ・イズ・ビューティフル』(7ノミネート、3受賞)
『プライベート・ライアン』(11ノミネート、5受賞)
『シン・レッド・ライン』(7ノミネート、0受賞)

 これに関しては普通に面白いと思います。脚本が素晴らしく、シェイクスピア時代の美術や衣装が素晴らしい。主演のグウィネス・パルトロウが輝いていて主演女優賞も納得です。
 しかしながら作品賞にふさわしいかと言われると疑問です。なぜ作品賞をとれたかというと、対抗の『プライベート・ライアン』と同じ戦争映画の『シン・レッド・ライン』で票が割れたからとも言われています。実際監督賞は『プライベート・ライアン』のスピルバーグが受賞しました。そしてそれ以上にこれがミラマックス作品であるということです。今更言うまでもないですがワインスタインの力が大きく働いたのでしょう。一番それが顕著に表れているのがジュディ・デンチの助演女優賞でしょう。わずか4分の出演時間ながらオスカーを獲得できたのはハーヴェイ・マジックだと言われています。
 エンターテインメントとしては面白いですが、作品の質としては『プライベート・ライアン』の方が遥かに優れているし、歴史ものとしても『エリザベス』の重厚さには及ばないと思います。

79位 『地上最大のショウ』(第25回・1952年)

5ノミネート、2受賞
受賞 : 作品賞、原案賞
ノミネート : 監督賞、編集賞、衣装デザイン賞(カラー)

他のノミネート作品
『真昼の決闘』(7ノミネート、4受賞)
『黒騎士』(3ノミネート、0受賞)
『赤い風車』(7ノミネート、2受賞)
『静かなる男』(7ノミネート、2受賞)

 この回は非常に面白く、まず最多受賞作品が『悪人と美女』の5受賞で、この作品は作品賞にはノミネートされていません。そして監督賞も『静かなる男』のジョン・フォードにいきました。
 本作はおそらく監督のセシル・B・デミルに対する功労賞であろうとされています。前回の『オリバー!』と同じパターンですね。もう一つの要因としては『真昼の決闘』と『静かなる男』で票が割れたから、とも考えられています。
 ただ、僕としては本作、そんなに悪い作品だとは思っていません。ジョン・フォードやフレッド・ジンネマンには及ばないにしても、サーカスという題材を魅力的に描き、役者たちを的確に演出していると思います。『アニーよ銃をとれ』のベティ・ハットン、『ベン・ハー』のチャールストン・ヘストン、『素晴らしき哉、人生!』のジェームズ・スチュアートら豪華スターのアンサンブルがこの作品を面白くしています。
 サーカスという題材が下品だとしてこの作品を叩く人もいますが、サーカス=下品という偏見に基づいた考えでありそれには賛同できません。
 もちろん作品賞としてはどうか、映画史に残る名作『真昼の決闘』『静かなる男』を負かすほどかというのはありますが、普通に楽しめる作品でした。

78位 『戦艦バウンティ号の叛乱』(第8回・1935年)

8ノミネート、1受賞
受賞 : 作品賞
ノミネート : 監督賞、主演男優賞(クラーク・ゲーブル、チャールズ・ロートン、フランチョット・トーン)、脚色賞、作曲賞、編集賞

他のノミネート作品
『乙女よ嘆くな』(2ノミネート、0受賞)
『踊るブロードウェイ』(3ノミネート、1受賞)
『海賊ブラッド』(2ノミネート、0受賞)
『孤児ダビド物語』(3ノミネート、0受賞)
『男の敵』(6ノミネート、4受賞)
『噫無情』(4ノミネート、0受賞)
『ベンガルの槍騎兵』(7ノミネート、1受賞)
『真夏の夜の夢』(3ノミネート、2受賞)
『浮かれ姫君』(2ノミネート、1受賞)
『人生は四十二から』(1ノミネート、0受賞)
『トップ・ハット』(4ノミネート、0受賞)

 この回もなかなか珍しく、本作は作品賞しか受賞していません。一応最多ノミネートではあるのですが、監督賞や主演男優賞、脚本賞など主要部門は全て『男の敵』が受賞しています。また本作は主演男優賞に3人ノミネートされ、これはこの部門唯一の記録です。
 本作はとにかく悪役チャールズ・ロートンの独壇場!憎まれ役を顔、体型、言動全てで体現していて素晴らしい。事実上の主演であるクラーク・ゲーブルもいいのですが、ロートンに喰われている感は否めません。
 正直あまり記憶になく、実話ベースですが物語としては大したことないという印象です。ただ作品賞らしい大作感はあるかな、といった感じです。

77位 『失われた週末』(第18回・1945年)

7ノミネート、4受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、主演男優賞(レイ・ミランド)、脚色賞
ノミネート : 撮影賞(白黒)、編集賞、作曲賞

他のノミネート作品
『錨を上げて』(5ノミネート、1受賞)
『聖メリーの鐘』(8ノミネート、1受賞)
『ミルドレッド・ピアース』(6ノミネート、1受賞)
『白い恐怖』(6ノミネート、1受賞)

 本作はカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞し、作品賞もとった最初の作品です。現在までだと『マーティ』(1955年)、『パラサイト 半地下の家族』(2019年)の計3作品しかありません。この回はかなり分散していて、複数受賞したのが本作と、作品賞ノミネートされていない『緑園の天使』しかありません。
 本作は主演のレイ・ミランドがとにかく酒を飲むだけです。その演技は素晴らしいのですが、名匠ビリー・ワイルダーにしてはそこまで優れた作品ではないように思います。これよりも『サンセット大通り』や『情婦』の方が断然好きですね。
 ただやはりアルコール中毒を演じたレイ・ミランドはリアルでよかったですし、演出もこれだけの話を退屈させずに観させるのは流石ビリー・ワイルダーだと思います。今ならアルコール中毒の映画って死ぬほどありますが、1945年ですからね。挑戦的な作品であることは間違いないでしょう。

76位 『ハート・ロッカー』(第82回・2008年)

9ノミネート、6受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、音響編集賞、録音賞
ノミネート : 主演男優賞(ジェレミー・レナー)、作曲賞、撮影賞

他のノミネート作品
『アバター』(9ノミネート、3受賞)
『しあわせの隠れ場所』(2ノミネート、1受賞)
『第9地区』(4ノミネート、0受賞)
『17歳の肖像』(3ノミネート、0受賞)
『イングロリアス・バスターズ』(8ノミネート、1受賞)
『プレシャス』(6ノミネート、2受賞)
『シリアスマン』(2ノミネート、0受賞)
『カールじいさんの空飛ぶ家』(5ノミネート、2受賞)
『マイレージ、マイライフ』(6ノミネート、0受賞)

 この回は色んな意味で歴史に残る回になりました。まず作品賞ノミネートが第16回以来66年ぶりに10作品へ拡大されました。これは前年圧倒的な絶賛で迎えられた『ダークナイト』が「アメコミ映画だから」という理由で作品賞候補から漏れたことへの打開策と言われています。
 またキャサリン・ビグローが初めて女性として監督賞を受賞しました。キャサリン・ビグローは『アバター』ジェームズ・キャメロンと元夫婦であり、そういった意味でも注目を集めました。実際作品賞を争ったのは革新的な映像表現で特大ヒットを記録した『アバター』と、女性監督が描くイラクでの爆弾処理班を描いたシリアスな『ハート・ロッカー』の一騎打ちでした。
 ただ個人的には本作も『アバター』もそんなにすごいとは思っていません。『アバター』は確かに3Dという新しい技術で極上の映像美を創出したことは評価に値しますが、物語としては凡庸です。本作はひたすらシリアスなだけで作品として面白いとはあまり思えませんでした。確かにキャサリン・ビグローの硬派で重厚な演出は素晴らしいですが、個人的には『ゼロ・ダーク・サーティ』の方が好きです。

75位 『ドライビング Miss デイジー』(第62回・1989年)

9ノミネート、4受賞
受賞 : 作品賞、主演女優賞(ジェシカ・タンディ)、脚色賞、メイクアップ賞
ノミネート : 主演男優賞(モーガン・フリーマン)、助演男優賞(ダン・エイクロイド)、美術賞、編集賞、衣装デザイン賞

他のノミネート作品
『7月4日に生まれて』(8ノミネート、2受賞)
『いまを生きる』(4ノミネート、1受賞)
『フィールド・オブ・ドリームス』(3ノミネート、0受賞)
『マイ・レフトフット』(5ノミネート、2受賞)

 この回もなかなか物議を醸した回です。一番言われているのはスパイク・リーの『ドゥ・ザ・ライト・シング』が脚本賞と助演男優賞のノミネートのみに終わっていることです。壇上でキム・ベイシンガーが「本来は『ドゥ・ザ・ライト・シング』が作品賞にノミネートされるべきだった」と怒って言ったことは伝説ですよね。
 また、監督協会賞(DGA)にノミネートされず、アカデミー賞でも監督賞にノミネートされず作品賞をとった作品というのは本作と今年の『コーダ あいのうた』しかありません。
 ジェシカ・タンディ、モーガン・フリーマンの好演は微笑ましく、ハートウォーミングないい話ではあります。正直そんな悪くはないです。むしろ感動したくらいです。ただやはり白人の描く黒人描写だなという部分が引っかかります。同じく黒人問題を扱った『ドゥ・ザ・ライト・シング』の方がとるべきだったのではと思ってしまいます。

74位 『ビューティフル・マインド』(第74回・2001年)

8ノミネート、4受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、助演女優賞(ジェニファー・コネリー)、脚色賞
ノミネート : 主演男優賞(ラッセル・クロウ)、編集賞、作曲賞、メイクアップ賞

他のノミネート作品
『ロード・オブ・ザ・リング』(13ノミネート、4受賞)
『ムーラン・ルージュ』(8ノミネート、2受賞)
『ゴスフォード・パーク』(7ノミネート、1受賞)
『イン・ザ・ベッドルーム』(5ノミネート、0受賞)

 まずそもそもロン・ハワードという監督が苦手なんです。『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』はヒドいもんでしたし、『ハン・ソロ』は悪くないけど凡庸、『ヒルビリー・エレジー』はなんでこうなった?という唖然とする出来。職人監督としてもそんなに腕があるとはあまり思わないです。
 さて、まずこの回について書いておくと、最多ノミネートは『ロード・オブ・ザ・リング』で、13ノミネート、最多受賞は本作と『ロード・オブ・ザ・リング』の4受賞でした。またハル・ベリーが『チョコレート』で黒人として初めて主演女優賞を受賞しました。主演男優賞も『トレーニング・デイ』のデンゼル・ワシントンで、主演賞が両方とも黒人という初の出来事でした。
 本作、そんなに悪くはないです。普通に面白かったとは言えます。でもそれは原作がよくできているからだと思います。また原作、史実との相違が多数指摘されており、同性愛に関する描写をオミットしています。
 また妻側の描写に違和感がありました。彼女も頭がいいはずなのに、夫を支える妻としての役割しか描かれず、そんな簡単に夫婦愛として美化していいものなのか?というのが疑問でした。
 まあこの年は他の候補作が弱かったので本作はとるべくしてとったという感じですかね。『ロード・オブ・ザ・リング』は三部作目でとることが確定していたし、『イン・ザ・ベッドルーム』はミラマックス枠、『ゴスフォード・パーク』はおよそ作品賞らしくはない群像劇、『ムーラン・ルージュ』はそもそもそんなに評価が伸びていないミュージカル、それらに比べると硬派で正統派な本作は作品賞にふさわしいと言えるでしょう。

73位 『英国王のスピーチ』(第83回・2010年)

12ノミネート、4受賞
受賞 : 作品賞、監督賞、主演男優賞(コリン・ファース)、脚本賞
ノミネート : 助演男優賞(ジェフリー・ラッシュ)、助演女優賞(ヘレナ・ボナム=カーター)、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、撮影賞、作曲賞、録音賞

他のノミネート作品
『ソーシャル・ネットワーク』(8ノミネート、3受賞)
『127時間』(6ノミネート、0受賞)
『トイ・ストーリー3』(5ノミネート、2受賞)
『ウィンターズ・ボーン』(4ノミネート、0受賞)
『トゥルー・グリット』(10ノミネート、0受賞)
『キッズ・オールライト』(4ノミネート、0受賞)
『インセプション』(8ノミネート、4受賞)
『ブラック・スワン』(5ノミネート、1受賞)
『ザ・ファイター』(7ノミネート、2受賞)

 本作も普通に面白いとは思います。ただ、作品賞とるほどか?というのは疑問です。先ほどのロン・ハワードと同じように、本作のトム・フーパーもあんまり上手い監督とは思いません。世界中を阿鼻叫喚に包み込んだ『キャッツ』は記憶に新しいでしょう。同じミュージカルである『レ・ミゼラブル』も成功はしましたが、あまり上手いとは思えませんでした。
 やはりこの回はどう考えても『ソーシャル・ネットワーク』がとるべきだったと思います。質的にみても明らかに『ソーシャル・ネットワーク』の方が上ですし、現代版『市民ケーン』という評が飛び出すほどでした。
 コリン・ファースが主演男優賞をとれたのはよかったですが、今語られるべき物語か?という意味でも質的な意味でも作品賞にはふさわしくないと思っています。

72位 『アルゴ』(第85回・2012年)

7ノミネート、3受賞
受賞 : 作品賞、脚色賞、編集賞
ノミネート : 助演男優賞(アラン・アーキン)、作曲賞、音響編集賞、録音賞

他のノミネート作品
『愛、アムール』(5ノミネート、1受賞)
『ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜』(4ノミネート、0受賞)
『ジャンゴ 繋がれざる者』(5ノミネート、2受賞)
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(11ノミネート、4受賞)
『リンカーン』(12ノミネート、2受賞)
『レ・ミゼラブル』(8ノミネート、3受賞)
『世界にひとつのプレイブック』(8ノミネート、1受賞)
『ゼロ・ダーク・サーティ』(5ノミネート、0受賞)

 本作は数少ない監督賞にノミネートされていない作品賞受賞作です。ベン・アフレックとキャスリン・ビグローの一騎打ちと思われていたところで両方とも候補漏れを喫し、本命不在となったことで『ライフ・オブ・パイ』のアン・リーが二度目の監督賞を受賞しました。ちなみにアン・リーは『ブロークバック・マウンテン』でも監督賞は受賞したが作品賞は『クラッシュ』に敗れており、未だに作品賞を受賞したことがありません。実力のある監督だと思うのでいつかは作品賞もとって欲しいのですが…
 さて、本作ですが実話ベースの硬派なつくりで、映画愛に溢れる作品です。ベン・アフレックは監督としてもなかなか腕があるなと思いました。驚愕の実話であり社会派サスペンスとして面白いのですが、なんとなく地味であまり印象に残ってないんですよね。

71位 『シマロン』(第4回・1931年)

7ノミネート、3受賞
受賞 : 作品賞、脚色賞、美術賞
ノミネート : 監督賞、主演男優賞(リチャード・ディックス)、主演女優賞(アイリーン・ダン)、撮影賞

他のノミネート作品
『女性に捧ぐ』(1ノミネート、0受賞)
『犯罪都市』(3ノミネート、0受賞)
『スキピイ』(4ノミネート、1受賞)
『トレイダ・ホーン』(1ノミネート、0受賞)

 これは、凡庸な西部劇かと思っているとそうではなく、女性の地位向上を絡めた意外な展開で、特に終盤は女性実業家として成功した妻の姿が描かれ、なかなか見応えのある作品でした。この時代にこの描き方というのはかなり進歩的なのではないでしょうか。演出もテンポが良くなかなか悪くないです。期待値はかなり低かったのですが、いい意味で思っていたものと違って非常によかったです。
 またインディアン(あえてこの言い方をしますが)の描き方も当時としてはフラットでよいと思います。
 ちなみに作品賞候補にあがった『スキピイ』は、コミック、グラフィック・ノベルを原作とする映画で初めて作品賞にノミネートされた作品なので気になっているのですが、残念ながら日本ではソフトが発売されておらず輸入盤に頼るしかなさそうです。

ということで今回は80位~71位までの作品を紹介しました。
読んでいただきありがとうございました!

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?