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再勉生活! キューポンで「無」から「実質」を創り出す《超・実質》

このシリーズはひと月以上間が空きましたが、前回に続き、米国のスーパーマーケットネタです。
また、再開した短編小説シリーズ「スーパー・やおいの困ったお客」との絡みでもあります。

昨日投稿した短編小説《三丁目の熊》には、スーパーのレジ係に餃子2割引きのクーポン券を5枚押し付け、
「2×5=10だから10割引きのはず!」
と言い張る、とんでもないオヤジが登場します。

いくらなんでもこんな人間は小説の中だけ、と思われるかもしれませんが、実は、米国での《再勉生活》中に、妻が目撃しています。

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米国に住んでいた頃、初め新聞は、有名コラムニストの連載がある、一流紙「Chicago Tribune」を購読していた。

「Toshi、それじゃ駄目だぞ、News Gazetteにしなくちゃ」
と真剣に忠告してくれたのは中国人の友人である。
「Chicago Tribuneじゃ広告がゼロだろう? それじゃクーポン(キューポン、と聞こえる)を使えないじゃないか!

「うーむ、どうやら名古屋で中日新聞を購読しないと折り込み広告で安売り情報を得られない、というようなものらしいぞ」
私たちは家族会議で話し合い、大学町のご当地紙「Champaign-Urbana News Gazette」に変えてみた。
すると、確かに、本誌にも、折り込み広告にも、スーパーマーケットやドラッグストアなどの巨大な広告に、バンソーコーが20% offだのファンタ1ダースが$2.69 offだの、切取線で区切られたcouponがぎっしりひしめき合っている。

「今日、偉大な主婦を見たわ」
ある日、夕食のテーブルで妻が言った。

なんでも、レジで彼女の前に並んでいたアジア系女性が、20%割引のクーポンを5枚出して、20% X 5=100%だから、この商品はタダになるはずだ、と強硬に主張していた、という。
もちろん、レジの女性は、使えるのは1商品に1枚だけなんです、とこれを拒否したが、
「それはおかしいではないか、ほら、ここには元の価格から20%オフと書いてあるだけではないか」
と延々とやり始め、妻は途中で諦めて他のレジに移ったということだった。

「多分、スーパーの入り口に置いてある折り込み広告から次々と切り取ったんでしょうけど……さすがにあそこまでやれんわ。ほんと、尊敬しちゃう
妻は半分あきれながらも、彼女が店を出る時にまだレジで粘っていたという、おそらくは留学生の妻であろう女性客に若干の敬意を表していた。

大学院生のResearch assistantは、当時月$1000ぐらいの給料をもらっていたが、これで一家3人4人が生活する留学生もある。そこでは、「形」より「実質」を重視する米国人の価値観をさらに超えた、「無」から「実質」を作り出す「超・実質」も、時に必要なのかもしれない。


〈初出:FC Report Vol.10 (2000)〉

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