見出し画像

前略 松本人志様【後編】



ひとは父親よりも、時代に似る
    ―――ギー・ドゥボール



▼▼▼1Q84の深田保▼▼▼


『1Q84』という村上春樹の小説がある。
14年前に読んだので、詳細に間違いがあるかもしれないが、
記憶とウィキペディアを頼りに、
その内容を紹介する。

天吾という主人公は、
青豆という女性に出会う。
青豆は元「証人会」という宗教に心酔した母に育てられた、
今で言う「宗教二世」だ。
宗教という暴力に精神的に虐待され、
人間生を剥奪されそうになった過去を持つ。

現在、彼女は「殺し屋」をしている。
身体を鍛え、
依頼主の依頼に応え、
特殊な針を頸椎の間に刺すことで、
証拠を残さず人を殺す特殊技能を持っている。
殺す相手は大抵DVの加害者や、
女性や子どもを性的に搾取する男性だった。

青豆の依頼人の老婦人は、
虐待、特に性的に虐待された女性のシェルターを運営している。
老婦人の最後のターゲット、
つまり「ラスボス」は、
深田保という男だ。

深田保は「さきがけ」というカルト宗教の指導者で、
「リーダー」と呼ばれている。
天吾が途中出会うもうひとりの女性、17歳の「ふかえり」は、
深田保の娘で、父から強姦された。

深田保は組織的に少女と性的に交わる儀式をしている情報を、
DV被害者を救う篤志家の老婦人は知っており、
「女性の敵」であるところの深田保を、
青豆に殺害させようとしている。

僕の記憶違いでなければ、
青豆と深田保が対峙するシーンがある。
深田保は、どんなゲス野郎なのかと思うが、
巨体の彼は、全身に悲しみをまとっており、
『地獄の黙示録』のカーツ大佐のように、
生きている1秒、1秒が、全身を針で刺されるような痛みなのだ、
というような意味のことを口にする。

教団が暴走していることは分かっている。
性的上納システムがその一部であることも分かっている。
17歳の実の娘を強姦することも、
一夫多妻のコミューンを維持していることも、
すべてが異常だということは、
聡明な深田保には分かっている。
しかし「システム」がそれを止めることを許してくれない。
一刻も早くこの苦しみを終わらせてほしい。

早く、誰かが私を殺しに来てほしいと待っていた。


ここから先は

10,382字

¥ 199

NGOの活動と私塾「陣内義塾」の二足のわらじで生計を立てています。サポートは創作や情報発信の力になります。少額でも感謝です。よろしければサポートくださいましたら感謝です。