運動モビリティとワーキングメモリには関係がある!
ワーキングメモリとは,一定時間,脳内で情報を保持しながら,同時に情報を処理する能力のことです.例えば,複雑な計算を暗算することなどが挙げられます.ワーキングメモリは日常生活において,とても重要な脳の機能なので,向上させたり,高いレベルを維持することはとても重要です.
過去の記事でも紹介しているように,運動によって様々な脳の機能(例えば実行機能)が向上することが多くの研究によってわかっています.それに伴って,高齢者での認知症の予防や,子どもの学力向上など,身体機能のみならず様々な運動の良い効果が明らかになっています.
多くの研究が,有酸素運動能力や筋力などと認知機能の関係を検討し,関連があることを報告しています.しかしながら,多くの研究において,運動がワーキングメモリを向上させることを証明できていません.
しかしながら,今回紹介する論文は,運動の巧みさ(モビリティ)に着目し,ワーキングメモリとの関係を検討しています.
Kawagoe & Sekiyama (2014) Visually encoded working memory is closely associated with mobility in older adults, Exp Brain Res
この研究の目的は,高齢者における運動の巧みさとワーキングメモリの関係を明らかにすること.
方法
実験参加者;68-88歳の高齢者53人
ワーキングメモリ課題;N-back課題 (画面に表示されている画像がN番目前と同じかどうかを判断する課題 : 例えば,N=2の場合,2個前と同じかどうかを判断). 3種類実施(位置,数字,顔)
モビリティテスト; TUGテスト(椅子からたち上がり3m先のマークで折り返し椅子に再度座る課題)
手先の器用さ ; PEGテスト (20個のペグをできるだけ早く裏返す課題)
結果
TUG (モビリティ)は全てのワーキングメモリ課題成績と関係があったが,PEG(手先の器用さ)は位置のワーキングメモリ課題成績のみにしか関係がなかった.
今回の研究は,高齢者におけるワーキングメモリは運動技能(モビリティ)と親密な関係があることを明らかにしました.多くの研究が,運動は認知機能を向上させることを明らかにしていますが,その多くは有酸素運動能力や筋力などを対象にしていましたが,運動技能においても,認知機能(今回はワーキングメモリ)と関係があることが明らかにされました.
特に日本では高齢化社会に伴い,認知症リスクの軽減はとても重要な課題です.今回の研究はその解決策になりうる発見でしょう.特に運動技能との関連はとても重要だと思います.なぜなら,有酸素運動能力や筋力を向上させるような強度では運動できない高齢者においても,運動で認知機能向上を促すことができる可能性があるからです.もし,高強度で運動できる場合であっても,怪我のリスクが少ない運動処方で認知機能改善や認知症予防を可能にできる可能性もあります.