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米国の地方で見たファミリービジネス、夢と楽しさ隆々と承継

 青森県八戸市を中心に広く読まれている地元紙「デーリー東北」。同紙の人気コラムで複数の寄稿者が執筆する『私見創見』を2020年から約2カ月に1度のペースで書いています。
 第14回は2022年10月17日付から。米国の東部〜中部の3カ所を取材する機会があり、そこで見た日本と米国の地方企業が味わっている大きなギャップと驚きについて書きました。
(※掲載時の内容から一部、変更・修正している場合があります)

2022年8月下旬、十数年ぶりに米国を訪れた。日本の大手建設機械メーカーの取材案件だった。今回の取材旅行を通じての収穫は、アメリカの地方部の豊かさを再認識し、各地でファミリービジネスの力強さを実感したことだ。

日本から米東部ボストンへ飛び、ピッツバーグ、アトランタと大都市の空港を移動した。ただ、取材先は大型の建機を実際に売買・使用している現場だったので、各空港から車で1〜2時間はかかる小さな町ばかりを訪問した。

最初のニューハンプシャー州ミルフォードで訪れた建機ディーラーのC社は、40代の4代目社長が従兄弟や親戚とともに経営している。機械好きの牧場主だった曽祖父そうそふが1960年代にトラクターを買ってから農機の修理・販売業を始め、徐々に建機へと事業を拡大。今や同州と近隣3州で建機販売やレンタルを手がけ、全米でも上位に入る建機ディーラーとなった。

ミルフォードは花こう岩の採掘場などが多い土地柄で、昔から大型建機の需要が大きいという。さらに大都市のボストンに近いので、農場整備や建設事業が拡大し続け、工事業者向けの販売が拡大してきた土地だ。

人口が約1万人というミルフォード。国道沿いには住宅が並ぶが、その周囲は針葉樹林が多い小さな街だ。しかし、地元ショッピングモールでは午後11時になってもスポーツバーに若者やシニアが集まり、1人40ドル(円安になり約6000円)ほどで飲食を楽しんでいた。日本の地方ではあまり感じられない全世代的なにぎわいや豊かさがあるように思えた。

米バイデン政権は2021年秋、国際競争力の強化を目的に道路や鉄道などの公共交通機関などを整備する1兆ドル規模の「インフラ投資法」を成立させた。この影響により、全米で建設業界が勢いに乗っているようだ。

次に訪問したオハイオ州ベルモントに本社を置く建設機械ディーラーのR社は、社長が「今は油圧ショベルなどが足りず、数カ月〜1年待ちの状態。中古の引き合いも多く、レンタルにも矢のような催促がある。これが数年は続く」と明るい表情で説明した。

R社も1983年にファミリービジネスとして創業した企業だが、少し普通の家族経営と毛色が異なる。同社長はR社に倉庫整理係として入社。徐々に手腕を認められて「ほぼ全ての部署・業務を経験」しながら、マネジャーとして頭角を表した。その後に米リーマンショックのあった2008年にオーナー一族から株の取得を持ちかけられ、仲間と一緒に会社を買収したという。

“子飼いの番頭”が事業承継し、全部門に精通した強みを活かして社内を抜本改革。近隣の州で他のディーラーを買収し、今ではオハイオ州の近隣7州に約30拠点を構えてビジネスを急拡大させた。

R社の本社があるベルモントも人口は数千人規模しかない小さな街だが、ファミリービジネスを継承しながらうまく強化・拡充し、開発資源の多いオハイオ州や隣接州で建機を売りまくっている。

取材に関与した日系の建機メーカーには250台を発注済みで、同社長は「新しい時代にふさわしい、デジタル技術で安全や作業効率を高める新車を入れる」と期待を込めていた。

そのR社の社長は、幼馴染おさななじみで同級生だった2人の経営幹部(副社長、営業部長)と一緒に経営を切り盛りする。その3人は近くの湖にそれぞれ別荘を持っており、週末や休日になると家族でそこに出掛けてマス釣りやボートクルージングを楽しんでいるという。

「この差はなんなのか」――。我が国の有力な地方企業は、一様に後継ぎ問題に悩み、いかに事業承継するかに頭を痛めている。それなのにアメリカのファミリービジネスは、もちろん全てではないだろうが裕福でゆとりがあり、将来への夢を描いて経営に向かっているのだ。

家族経営、同族企業というと国内でも古くさいイメージを持たれがちだが、世界的なリーディング企業にもファミリービジネスは多い。近年では長期的な視点で事業を持続させられ成長力も高いと再評価されている。

米国でもウォルマートやフォード・モーター、ナイキ、穀物大手カーギルなど、地方発祥の大手有力企業は多い。今回の取材を通じて、米国ではそれが小さな町の地元密着型ビジネスでも隆々と、夢と楽しさをもって承継されている様子が強くうかがえた。

米MITスローン経営大学院の研究では家族経営の事業が3代目まで到達する企業は15%、4代目では2〜3%と少ない。続かせるカギは各世代でいかに新しい事業を創生できるかだという。

日本の地方企業も負けてはいられない。


(※初出:デーリー東北紙コラム『私見創見』2022年10月17日付、為替レートや社会状況・経済環境については掲載時点でのものです)

【後記】この米国出張で取材したのは日立建機グループの米国本社とその顧客である地方企業の経営者でした。同社グループの情報誌『TIERRA+』Vol.138(2022年11月号)で記事化されています。


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