書籍紹介|イスラーム文化、井筒
まず、この本は国際文化教育交流財団の記念講演を書籍化したもの。非専門家向け。世界観、考え方、性格について書いている。副題「根底にあるもの」の通り。歴史や、具体的生活にはほとんど触れない。
全体は大きく分けて3つの内容に分かれる。1.イスラム全体、2.スンニー派、3.シーア派と神秘主義(スーフィズム)。そして、これらの考えがぶつかりながらコーランの基につながるダイナミズムがイスラーム文化の特質。以下、それぞれの内容についてのトピックを挙げてみた。
イスラムの性格。遊牧民ではなく商人の宗教。イスラーム学はコーラン解釈学。神への絶対帰依と主従関係。因果律を認めない。個人の怖れを信仰とするメッカ期と、栄光・感謝を信仰とするメディナ期に分かれる。
イスラーム法。スンニ―派。来世至上価値の上での現実主義。人間肯定的。現世を正しく生きるための法。法すなわち宗教まで作り上げた。制度的。部族・血縁に基づくアラブから、信仰に基づく新たな共同体への転換。
内面。シーア派(特に12イマーム派)と神秘主義。コーランをはじめ、全ての事物・現象は暗号。真意は表に出ていない。真意を見つけられる人が内面的預言者。俗なる現世にぴたり重なった、聖なる不可視の世界がある。スーフィーは修業によって神と一体になる。神は超越でなく偏在。「我こそは真実性」「私は彼だった」。我があると神と対立する。自我を捨てる、ただし忘我ではない。
以上が内容。さて、本書を読むかの判断のために情報提供を少し。
「はじめに」にも書いてある通り、「すぐ誰にでも目につく表面に現れた姿」には触れていない。つまり、なぜ女性が肌を隠すとか、ハラールって何だとか、コーランの内容は何だとか。そういうことも書いてあるんだが、神が言ったから、になっちゃう。
また、ムハンマドの生涯とか、宗教や教団としての成立の歴史にいても少ない。本題の中に埋め込まれている程度。
だから、今どきの ”教養として" とか "お客さんにイスラム信者がいるから" とか、イスラム教の教義や生活をさらっと知りたい人は何も役立たんと感じると思う。ただ、イスラムのニュースを見て "まあ、根底にはこういう考えがあるからね" と、通ぶりたい人には使えるかも。
じゃあどう読むかというと、この本を読んだ上で、具体的・個人的な面も見ていくとか、その逆が良いと思う。もっと言えば交互に読むと良い。私自身、10年以上ぶりに読み返しましたが、また発見がある良い本でございました。
井筒俊彦著(1991)イスラーム文化、岩波文庫、233p、660円+税