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対話の深度と問題解決|空間デザイン
竣工は2015年とけっこう前に設計を担当した案件の話ですが、この案件を通して、空間づくりのあり方を大きく左右する「企画」に参画する面白さやむずかしさを学んだので、あらためて振り返ってみようと記事にしました。
場所は兵庫県豊岡市にある、名の知れた温泉の街「城崎温泉」
観光客が浴衣を着てそぞろ歩きをする目抜通りから一本裏手に入った静かな場所に立つ旅館の改装のお仕事でした。
一歩踏み込んだ対話
知人の紹介があり視察に行きました。
対象となるのは中価格帯のお宿で、古くなった客室を現代的なデザインにして欲しいという依頼内容でした。
要望や予算、現地の状態を鑑みても問題のない、むしろやりやすい仕事でしたが、話の鱗片からこの改装が経営的に良いのかどうかを迷われているように感じました。
そこで少し踏み込んで、経営戦略の話をお聞きしたところ、様々な問題があることがわかりました。
それは「シーズンビジネスゆえに季節労働者に運営を頼っているが、年々働き手が減っていること」「運営規模と客室数のバランスが悪く、稼働させていない客室があること」といった「主に人手不足とそれに起因するサービスの質の話でした。
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アイデアの元になった「街」のコンセプト
他にも色々と問題はありましたが、一部は空間デザインで解決できるのではないかと感じました。
そう感じたのは問題の内容だけでなく、クライアントからお聞きしたこんな話があったからです。この街には「駅は玄関、道路は廊下、七つある外湯が風呂で、旅館は寝るところ」という、街全体で訪問客をもてなそうというコンセプトがある。
まち全体の共生を考えた素敵なコンセプトです。
このことばに可能性を感じたところで初回の対話は終了。
空間デザインで解決できる問題
ここまでの話を持ち帰り、本来の依頼内容とは離れ、かつ事業内容に踏み込む内容になる提案を考えました。
それは「室数のおよそ半分を、部屋の大きさを半分に分割し(つまり部屋は増える)一室あたりの定員を減らした「素泊まり」のドミトリーにする。「改装しない部屋も含め、部屋食を取りやめ、ダイニングをつくる」というものでした。
こうすれば部屋の布団を敷いたり、食事を運ぶ手間がなくなり、人手が余ります。その余剰を他のサービス向上に向ければ良いのでは?と考えました。
また、今でこそ「インバウンド」という言葉は一般化し多くの外国人が来日していますが、改装した時期はその鱗片が見え始めた時期であり、もともと学生の旅行先としても人気だったため、手軽な値段で過不足のないサービスを売りにする宿があれば人気が出るのではないかと考えたのです。
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デザイナーを「使い倒す」
最後に私はこの案で、街のコンセプトをひとつ増やしました。
それは「街に点在する食事処をみんなの食堂ととらえる」ということ。
食堂以外の機能が街に飛び出しているのだから、食堂も同じ考えで良いのではと。
そうすると、素泊まりの宿にも楽しみ方が増えると考えたのです。
後日、恐る恐るこの案を提示したところ、最初は驚いた面持ちのクライアントも、次第に乗り気になってくださり、この後はもちろん活発な対話がありましたが、最終的にこの案で改装をすることになりました。
空間デザイナーはその肩書きの響きから、設計だけを専門としていると思われています。しかし、様々な業種のクライアントとの仕事を経験し、空間のアイデアについては当然のように日常的にリサーチを行なっている経験があります。
ですから、経営コンサルタントとまでは行きませんが、空間を活用した新しいサービスの開発の仕事には向いていると思います。
そもそも、設計要件をきっちりとつくるのは専門家ではない事業主にはむずかしいことです。ここをまず理解しておかなければならない。
クライアントのリクエストが必ずしもその事業に適当ではないこともありえる。だから、要件定義を一緒にやりましょう、というくらいの感覚で一旦ゼロベースに立ち返り対話をしてみるのもアリではないかと思います。
事業に絶対の自信を持っている方には嫌らがれるし、こちらの意見が明後日の方向で失敗する怖さもあります。けれども、一度信頼関係がつくられ、事業内容に関連する相談をされるようになると、ひと味ちがった空間づくりができ、より楽しくなりますよ。
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![笹岡 周平 |空間デザイナー/株式会社ワサビ 代表取締役](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/91568957/profile_b5b2be48a2b9382bc8d43f6f2d6c986d.png?width=600&crop=1:1,smart)