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【2022年に読んだ小説をふりかえる】9月から12月末まで……つまり完結編
👆の続きです。ついに最後、完結編です! なお「よい」と思った小説のタイトルの横には
◎:とてつもなくおもしろかった!
☆:マーベラス! 年間ベスト級!
がついていますが、完全にしゅげんじゃの好みと主観なのでそういうもんだという前提で受けとってください。あとそもそも「年間ベスト級が妙に多くないか?」という疑惑もありますが、細かいことは気にしないで!
それではやっていきます。
シャーロック・ホームズとシャドウェルの影
読了。「ホームズが宇宙的恐怖に遭遇する!」的マッシュアップ作品。ホームズ周辺にじわじわと恐怖が忍び寄るような話かな……と期待して読んだけど実際には映画的な活劇ものだった。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) September 9, 2022
"シャーロック・ホームズとシャドウェルの影 "(ジェイムズ ラヴグローヴ, 日暮 雅通 著)https://t.co/klYwcZrwxz pic.twitter.com/tNuJUt5s9A
シャーロック・ホームズとクトゥルフ神話のマッシュアップということで「おもしろそうだぞ!」と読んでみたやつ。ただ正直に書くけど恐怖ゼロでしたね……クトゥルフであればジワジワ来てなんぼだと思うんだけど。個人的な感想は「盛りあがりに欠けるハリウッド映画風の活劇もの」なんですが、ネットでいろいろ見た限り口コミ評価は上々なのでたぶん好きな人にはたまらないのではないかと思います。
◎ 屍の王
読了。腐臭ただよう悪夢のような物語。現実と、この物語自体と、作中小説と、それぞれの境が曖昧で読者を不安にさせる仕掛けが巧み。とてつもなくグロテスクな物語だけど、すらすら読ませてしまう筆致がすごい。おもしろかったです。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) September 16, 2022
"屍の王 (角川ホラー文庫)"(牧野 修 著)https://t.co/ats9Sm2sq3 pic.twitter.com/V2YBNc4QYT
個人的に「恐怖」という読書体験には可能性を感じていて、恐怖表現を学んでいきたいと常々思っている。なので必然的にホラーっぽい小説を読む機会が増えるんですが……ほとんどの場合、僕が鈍感なこともありまったく怖く感じないし、グッともこない! そんななかでこの「屍の王」は数少ない「おお……」と思わせるホラーだった。すごく参考になる恐怖描写。なおストーリー的にはいっさい救いがない系です!
ちなみに過去、同じように「おお」と感じたのは、舞城王太郎の「淵の王」。偶然にも両方とも「~の王」というタイトル。こっちは救いとカタルシスがある。評価するなら☆。お勧め。
☆ 空を切り裂いた
読了。「悪夢のような物語」は数あれど「悪夢そのものな物語」はなかなかないと思う。第二章まではそういう感覚が続き「おお」と唸りながら読んだ。おもしろかったです。「ゴッホ!」は反則……。初飴村行だったけど他のもこんな感じなのかな?
— しゅげんじゃ (@_shugenja) September 22, 2022
"空を切り裂いた"(飴村行 著)https://t.co/8JCTzo6ryu pic.twitter.com/NNq9vehHl5
初飴村行。連作短編もの。めちゃくちゃおもしろかった……。まじでなんなんだろうねこれは……となった。独特の言語センスで物語が展開されていき、ちょっとこれは真似できないなと思わされた。先の「屍の王」が「悪夢のような物語」だとしたら、こっちは「悪夢そのものの物語」という感じがした。そしてなんと言っても第二章「曳光 エイコウ」のラスト。「おいおいおい、なんだこの小説……」と思わず唸ってしまった。「ここでそういうオチ持ってくる!? 正気か!?」となってしまった。なんかもう衝撃でしたね……。「恐怖に笑いを放りこんでくるのやめてください!」という感じで脳がバグる。それでバランス取れてるのまじですごいよ……。
そして飴村行の「粘膜シリーズ」を森とーまさんから勧められて、どっぷりと飴村行沼にはまっていくのである……。
◎ 粘膜人間
ひとまず『粘膜人間』まで読了。めちゃくちゃおもしろいんだけど、読み終わって「粘膜人間とはいったい……?」となっている。とりあえず『粘膜蜥蜴』を読もう……。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) September 23, 2022
"粘膜シリーズ【4冊 合本版】 『粘膜人間』『粘膜蜥蜴』『粘膜兄弟』『粘膜戦士』 (角川…"(飴村 行 著)https://t.co/liTiq7vmrk pic.twitter.com/v5AdSxFwU5
そしてまんまと粘膜シリーズにはまっていく……。グロくてエロいので人は選ぶと思うけど、めちゃくちゃおもしろい! 粘膜人間、これがデビュー作とは思えないほど素晴らしいテンポ感と独特の言語センスで、デビュー作からこういう天才性を感じさせたのは今まで読んできたなかでは舞城王太郎の「煙か土か食い物」ぐらいだった気がする(って、またしても舞城王太郎だ)。
ちなみに Tweet で「粘膜人間とはいったい……? 物語にそれらしきものは出てこなかったが……?」と混乱していたが、その後、作者のインタビューなどを読んで「粘膜人間」というタイトルにはほとんど意味がなさそうという理解を得た……。
◎ 粘膜蜥蜴
『粘膜蜥蜴』読了。おもしろかった! が、オチが予想通りだったのでサプライズ感はなかった……個人的にはやや『粘膜人間』の方が好きかも。続いて『粘膜兄弟』を読む……。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) September 24, 2022
"粘膜シリーズ【4冊 合本版】 『粘膜人間』『粘膜蜥蜴』『粘膜兄弟』『粘膜戦士』"(飴村 行 著)https://t.co/5MrOv9QIO9 pic.twitter.com/V2AE4CBnCl
衝撃のラストという前評判だったけど「いやいや、けっこう序盤でわかるよね、このオチ」という感じだったのでそういう点ではやや肩透かし感はあったかな……。ただ独特の言語センスと独特の世界観は健在で、文句なしにおもしろかったです!
◎ 粘膜兄弟
『粘膜兄弟』読了。テンポのよい会話劇が楽しい、しかし読後感はもの悲しい……そんな物語だった。『粘膜人間』『粘膜蜥蜴』と同一世界だと明示されたのもうれしい。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) September 26, 2022
"粘膜シリーズ【4冊 合本版】 『粘膜人間』『粘膜蜥蜴』『粘膜兄弟』『粘膜戦士』"(飴村 行 著)https://t.co/OoJIBkTtgI pic.twitter.com/8C90OHffjb
これすごくおもしろかったな……。粘膜シリーズで描かれる世界が同一のものだと明確になり、世界観に深みが出てきた感じがあった。あとキャラクター造詣も素晴らしく、会話のかけ合いも楽しい。戦争での戦闘描写も迫力があり、飴村行、器用だなと素直に思ってしまった。視点人物が固定されていることもあって粘膜蜥蜴より没入がしやすかった。粘膜シリーズのなかではこの「粘膜兄弟」が一番好きかもしれない!
粘膜戦士
『粘膜戦士』読了。短編集なので長編作ほどの読み応えはないものの『粘膜人間』や『粘膜兄弟』のスピンオフ的エピソードがうれしい。おもしろかったです。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) October 1, 2022
"粘膜シリーズ【4冊 合本版】 『粘膜人間』『粘膜蜥蜴』『粘膜兄弟』『粘膜戦士』"(飴村 行 著)https://t.co/Vc0In5PQXO pic.twitter.com/m7QGm321eW
シリーズを読んできた人たち向けのおまけのような短編集。「粘膜人間」や「粘膜兄弟」に出てきた登場人物たちのスピンオフ短編があり、ファンにとってはうれしい作品でありましょう。
そこに、顔が
読了。SFみもあるホラー。特に序盤はちょっととっ散らかっている感がありなかなか入りこめなかったな……全編を通じて醸し出されている不気味な雰囲気はとてもよかったです。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) October 10, 2022
"そこに、顔が (角川ホラー文庫)"(牧野 修 著)https://t.co/LC8J6Za4WT pic.twitter.com/uf5Kz2zPso
そのまま「粘膜探偵」に進もうかと思っていたけど、飴村行ロードを進む前に読んでた「屍の王」がよかったので(先述)、同じ牧野修のホラーものをワンクッション挟んでおこうかなと思って読んだやつ。でもこっちは……そうでもなかったな……。つまらないわけではないです。
◎ 粘膜探偵
読了。おもしろかった……! 探偵と題されてはいるけど探偵要素は物語の本質ではなく、伝奇的神話と作者特有の失笑ぎりぎりを突く独特のユーモアの融合にこそ、この物語の本質と凄みがあると感じた。とにかく言語センスが凄い。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) November 4, 2022
"粘膜探偵 「粘膜」シリーズ"(飴村 行 著)https://t.co/GyCT845tov pic.twitter.com/dyG4ploH2K
探偵と題しているけど、ぜんぜん探偵してねーじゃん! と思わずつっこんでしまった。でもめちゃくちゃおもしろかったです! Tweet にも書いたとおり伝奇的恐怖神話と失笑ギリギリのユーモアが絶妙に融合していて、テンポよく進んでいくのが本当にすごい。飴村行、天才では……。最後の展開は賛否あると思うけど僕はかなり好きですね。若干ネタバレになっちゃいますが、覚醒からの無双はロマン!
人間狩り
読了。リーダビリティが高くさらっと読み終わった。プロの技。おもしろかったです。一方でタイトルから想像されるような狂気や歪みは一切なく理知的でよくも悪くもすべてが整合性とれていて特に深みはない。あとネットの描写に平成みを感じた……
— しゅげんじゃ (@_shugenja) November 6, 2022
"人間狩り"(犬塚 理人 著)https://t.co/J0vbhafobw pic.twitter.com/aFdjagv7Cr
これはレコメンドされてきたからなにげなく読んだやつ。2018年の作品なんだけど、なんかネット描写がゼロ年代感あり今どきっぽくない感じがした。なおしゅげんじゃ氏はしたり顔で「プロの技」とか Tweet してるけど、作者のデビュー作だった模様です。
◎ 真夜中のたずねびと
読了。救いようのない「人の業」をテーマにした短編集。けっこう陰惨で残酷な状況が描かれ続けるが、恒川光太郎が描くとおぞましいはずの光景がどこか詩的で神話性を帯びたように感じさせるのが不思議。いろいろと勉強になりました。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) November 7, 2022
"真夜中のたずねびと"(恒川光太郎 著)https://t.co/cFSlH2M1Aw pic.twitter.com/a7NbgTf3DL
短編集。ジャンルのくくりとしてはホラーになるかもだけど、超常的存在は基本出てこない。人間の得体の知れなさや、自分だけではどうしようもできないなにかによって狂わされていく、そんな人の様が描かれていく。でも人間の複雑さ、奥行きみたいなものが丁寧に描写されていて、そこに救いがありとてもよかったなと感じた。人間を軽く扱ってない。これは作劇上、意外とできないことであってすごいなと思う。勉強になりました。
十三夜の焔
読了。月村了衛の最新刊ということで読んでみた。以前読んだ『コルトM1851残月』に比べるとだいぶ落ち着いた、渋い展開が続く。大きな流れに翻弄されながらも矜持を貫き続けるふたりの男の生き様。おもしろかったです。
— しゅげんじゃ (@_shugenja) November 16, 2022
"十三夜の焔 (集英社文芸単行本)"(月村了衛 著)https://t.co/MLOaSloYh2 pic.twitter.com/cuYQDfHDic
おもしろかったけど、わりと落ち着いた熟年読者層向けの筆致……みたいなものを感じたかな。
◎ (新装版)メルキオールの惨劇
読了。初平山夢明。冒頭の描写に惹かれて読み始め、冗長な文体に辟易し「これは not for me かも」となり、だが尻上がりにおもしろくなっていき、最終的には「平山夢明めちゃくちゃすごいな!」となった。おもしろかった!
— しゅげんじゃ (@_shugenja) November 23, 2022
"(新装版)メルキオールの惨劇"(平山夢明 著)https://t.co/YFYqtI8zXZ pic.twitter.com/xpP9k7U37Z
初平山夢明。冒頭、けっこうぶっ飛んだ描写があり「お、これは」と思ったんだけど、読み進めるにつれ、斜に構えつつ冗長な文体が鼻について「これを読みつづけるのはしんどいかも……」となってしまった。が、それでも読んでいくとどんどんとおもしろくなっていき、気がつくとめちゃくちゃ惹きこまれていた! 物語のセットアップ、舞台装置が巧みだなと思った。主人公含めて、すべての登場人物がどこか一抹の影というか、物悲しさを抱えている、そんな人物造詣もすごくよいなと思った。平山夢明の他作品もいずれ読んでみたいと思いました。
よぎりの船
読了。短編なのでサクッと読める。「なに目線だよ」という批判を覚悟で書くと、すごく惜しい作品だなと感じた。いろいろあるけど、たとえば視点人物が徐々に人間性を喪失していく流れのなかで情景描写が極めて理知的で卑俗であったり(文字数
— しゅげんじゃ (@_shugenja) November 28, 2022
"よぎりの船"(小田雅久仁 著)https://t.co/8Vwx5E0brS pic.twitter.com/AohoemE4d7
うーん、なんだろうな。描こうとしているイメージは壮大でグッとくる要素があるんだけど。Tweet にも書いた通り、視点人物がどんどんと人間性を喪失していく状況のなかで、たとえば『巨大な水色のビーチグラスのよう』だとか『幅は二〇メートルほどある』だとか『いつだったか古代・出雲大社のCGによる想像図をテレビで見たが』だとか、理知的で卑俗な描写が唐突に出てくるので「うーん」と渋い顔になってしまう。視点人物、そんな風にものを見て考えることができる状態なんだ、みたいなしらけが出ちゃうんですよね。なんか変だよなって。あとこれは個人的な好みの問題でもあるんだけど、あからさまに不条理で理不尽な状況に陥ってるのに、それを淡々と受けいれていくだけの人物造詣はあまりにも受動的すぎてその点でも「うーん」と渋い顔になってしまう……。とりあえず作品紹介文の『「よぎりの船」はおそらく21世紀になって書かれた幻想文学のなかの最高ランクに属する作品です』は言いすぎではないかな……。
秋雨物語
読了。貴志祐介の最新刊。ホラー短編集。ベタかもしれないけど最後の『こっくりさん』が一番好きかも。あと『フーガ』に出てきた霊能者が貴志の過去作『我々は、みな孤独である』に出てきた霊能者と外見完全一致。オレでなきゃ見逃しちゃうね……
— しゅげんじゃ (@_shugenja) December 16, 2022
"秋雨物語"(貴志祐介著)https://t.co/xE3aAoxTeP pic.twitter.com/NgVc6dyTv1
貴志祐介の新作短編集。前回取りあげた「我々は、みな孤独である」よりなぜかこっちの方が口コミ評判よいんだけど、そうなのかなー。僕は違うんだけど……と思ってしまった。もちろんこっちもおもしろかったんですが……。ちなみに「我々は、みな孤独である」もそうだったけど、人間存在の不確かさ、曖昧さに起因する恐怖を貴志祐介は描きたいのかな……と思ったりもした。
☆ まほり 上・下
上下巻読了。すごい小説。「物語る」という行為についての物語。博覧強記の作家は数あれど、ここまで「テクスト」と真っ向から向きあってる小説はないのでは。裕と香織の関係性含めてエンタメとして成立しているのもすごい。ラストの余韻もよい!
— しゅげんじゃ (@_shugenja) December 24, 2022
"まほり下"(高田大介著)https://t.co/mCYRG7OwzY pic.twitter.com/Ssv7vXKjOc
2022年最後の読書がこれ。これはすごかったな……。なにがすごいって、相当な素養が作者の側に無いと書き得ない内容だったから。テキストの扱いや視点、距離感にアカデミックなバックボーンを感じさせる。主人公は社会学をやってる学生なんだけど、社会学といえば特にSNSでは「不要な学問」「胡散臭い」「左翼っぽい」みたいな意見をよく見かけるわけだけど、この物語で描かれているテキストや情報の扱いを見ていればそれらの意見がいかに雑なのかがよくわかる。学問をなめてはいけない……。小説としては「限界集落ホラー」あるいは「都市伝説風ホラー」と見せかけておいて、丁寧に地域の史料をあたり、民俗学的考察を進めながら謎を解明していくミステリーになっている。文献などを読み解いていくパートはさながら新書レベルの学術書を読んでいる感覚があり、かなり人を選ぶ気がする……が、幸いなことに僕は楽しめました。なおそこで登場する大量の文献、すべてが創作なのだからぶったまげてしまう。すごすぎ。主人公とヒロインの関係性が微笑ましく、読んでいて応援したくなってくる。また伝奇風味の怖さもジワジワと来る感覚があり、エンタメとしてもかなり巧いなと思った。そしてラスト。オチとしては予想がつくものだけど、その描かれ方、短いなかに圧縮された描写が素晴らしく、とてもよい余韻が残った。2022年、最後に良いものを読みました。
そして2023年
初読書はこいつ。超おもしろかった。この「黒牢城」についても1年後、振りかえり記事で取りあげることになりましょう!
2023年はインプットもしつつ、よりアウトプットを増やしていく年としたいなー。
最後に
2022年に読んだ小説をながながと振りかえってきましたが、なんだかんだで一番おもしろいのはやっぱりニンジャスレイヤーです。
未読の方は第四部 AoM から読んでいくでも全然OK! なんといっても無料で読めてしまうのがすごい。みんなももっとニンジャしよう!
【おしまい】
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