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【2022年に読んだ小説をふりかえる】9月から12月末まで……つまり完結編

👆の続きです。ついに最後、完結編です! なお「よい」と思った小説のタイトルの横には

◎:とてつもなくおもしろかった!
☆:マーベラス! 年間ベスト級!

がついていますが、完全にしゅげんじゃの好みと主観なのでそういうもんだという前提で受けとってください。あとそもそも「年間ベスト級が妙に多くないか?」という疑惑もありますが、細かいことは気にしないで!

それではやっていきます。

シャーロック・ホームズとシャドウェルの影

シャーロック・ホームズとクトゥルフ神話のマッシュアップということで「おもしろそうだぞ!」と読んでみたやつ。ただ正直に書くけど恐怖ゼロでしたね……クトゥルフであればジワジワ来てなんぼだと思うんだけど。個人的な感想は「盛りあがりに欠けるハリウッド映画風の活劇もの」なんですが、ネットでいろいろ見た限り口コミ評価は上々なのでたぶん好きな人にはたまらないのではないかと思います。

◎ 屍の王

個人的に「恐怖」という読書体験には可能性を感じていて、恐怖表現を学んでいきたいと常々思っている。なので必然的にホラーっぽい小説を読む機会が増えるんですが……ほとんどの場合、僕が鈍感なこともありまったく怖く感じないし、グッともこない! そんななかでこの「屍の王」は数少ない「おお……」と思わせるホラーだった。すごく参考になる恐怖描写。なおストーリー的にはいっさい救いがない系です!

ちなみに過去、同じように「おお」と感じたのは、舞城王太郎の「淵の王」。偶然にも両方とも「~の王」というタイトル。こっちは救いとカタルシスがある。評価するなら☆。お勧め。

☆ 空を切り裂いた

初飴村行。連作短編もの。めちゃくちゃおもしろかった……。まじでなんなんだろうねこれは……となった。独特の言語センスで物語が展開されていき、ちょっとこれは真似できないなと思わされた。先の「屍の王」が「悪夢のような物語」だとしたら、こっちは「悪夢そのものの物語」という感じがした。そしてなんと言っても第二章「曳光 エイコウ」のラスト。「おいおいおい、なんだこの小説……」と思わず唸ってしまった。「ここでそういうオチ持ってくる!? 正気か!?」となってしまった。なんかもう衝撃でしたね……。「恐怖に笑いを放りこんでくるのやめてください!」という感じで脳がバグる。それでバランス取れてるのまじですごいよ……。

そして飴村行の「粘膜シリーズ」を森とーまさんから勧められて、どっぷりと飴村行沼にはまっていくのである……。

◎ 粘膜人間

そしてまんまと粘膜シリーズにはまっていく……。グロくてエロいので人は選ぶと思うけど、めちゃくちゃおもしろい! 粘膜人間、これがデビュー作とは思えないほど素晴らしいテンポ感と独特の言語センスで、デビュー作からこういう天才性を感じさせたのは今まで読んできたなかでは舞城王太郎の「煙か土か食い物」ぐらいだった気がする(って、またしても舞城王太郎だ)。

ちなみに Tweet で「粘膜人間とはいったい……? 物語にそれらしきものは出てこなかったが……?」と混乱していたが、その後、作者のインタビューなどを読んで「粘膜人間」というタイトルにはほとんど意味がなさそうという理解を得た……。

◎ 粘膜蜥蜴

衝撃のラストという前評判だったけど「いやいや、けっこう序盤でわかるよね、このオチ」という感じだったのでそういう点ではやや肩透かし感はあったかな……。ただ独特の言語センスと独特の世界観は健在で、文句なしにおもしろかったです!

◎ 粘膜兄弟

これすごくおもしろかったな……。粘膜シリーズで描かれる世界が同一のものだと明確になり、世界観に深みが出てきた感じがあった。あとキャラクター造詣も素晴らしく、会話のかけ合いも楽しい。戦争での戦闘描写も迫力があり、飴村行、器用だなと素直に思ってしまった。視点人物が固定されていることもあって粘膜蜥蜴より没入がしやすかった。粘膜シリーズのなかではこの「粘膜兄弟」が一番好きかもしれない!

粘膜戦士

シリーズを読んできた人たち向けのおまけのような短編集。「粘膜人間」や「粘膜兄弟」に出てきた登場人物たちのスピンオフ短編があり、ファンにとってはうれしい作品でありましょう。

そこに、顔が

そのまま「粘膜探偵」に進もうかと思っていたけど、飴村行ロードを進む前に読んでた「屍の王」がよかったので(先述)、同じ牧野修のホラーものをワンクッション挟んでおこうかなと思って読んだやつ。でもこっちは……そうでもなかったな……。つまらないわけではないです。

◎ 粘膜探偵

探偵と題しているけど、ぜんぜん探偵してねーじゃん! と思わずつっこんでしまった。でもめちゃくちゃおもしろかったです! Tweet にも書いたとおり伝奇的恐怖神話と失笑ギリギリのユーモアが絶妙に融合していて、テンポよく進んでいくのが本当にすごい。飴村行、天才では……。最後の展開は賛否あると思うけど僕はかなり好きですね。若干ネタバレになっちゃいますが、覚醒からの無双はロマン!

人間狩り

これはレコメンドされてきたからなにげなく読んだやつ。2018年の作品なんだけど、なんかネット描写がゼロ年代感あり今どきっぽくない感じがした。なおしゅげんじゃ氏はしたり顔で「プロの技」とか Tweet してるけど、作者のデビュー作だった模様です。

◎ 真夜中のたずねびと

短編集。ジャンルのくくりとしてはホラーになるかもだけど、超常的存在は基本出てこない。人間の得体の知れなさや、自分だけではどうしようもできないなにかによって狂わされていく、そんな人の様が描かれていく。でも人間の複雑さ、奥行きみたいなものが丁寧に描写されていて、そこに救いがありとてもよかったなと感じた。人間を軽く扱ってない。これは作劇上、意外とできないことであってすごいなと思う。勉強になりました。

十三夜の焔

おもしろかったけど、わりと落ち着いた熟年読者層向けの筆致……みたいなものを感じたかな。

◎ (新装版)メルキオールの惨劇

初平山夢明。冒頭、けっこうぶっ飛んだ描写があり「お、これは」と思ったんだけど、読み進めるにつれ、斜に構えつつ冗長な文体が鼻について「これを読みつづけるのはしんどいかも……」となってしまった。が、それでも読んでいくとどんどんとおもしろくなっていき、気がつくとめちゃくちゃ惹きこまれていた! 物語のセットアップ、舞台装置が巧みだなと思った。主人公含めて、すべての登場人物がどこか一抹の影というか、物悲しさを抱えている、そんな人物造詣もすごくよいなと思った。平山夢明の他作品もいずれ読んでみたいと思いました。

よぎりの船

うーん、なんだろうな。描こうとしているイメージは壮大でグッとくる要素があるんだけど。Tweet にも書いた通り、視点人物がどんどんと人間性を喪失していく状況のなかで、たとえば『巨大な水色のビーチグラスのよう』だとか『幅は二〇メートルほどある』だとか『いつだったか古代・出雲大社のCGによる想像図をテレビで見たが』だとか、理知的で卑俗な描写が唐突に出てくるので「うーん」と渋い顔になってしまう。視点人物、そんな風にものを見て考えることができる状態なんだ、みたいなしらけが出ちゃうんですよね。なんか変だよなって。あとこれは個人的な好みの問題でもあるんだけど、あからさまに不条理で理不尽な状況に陥ってるのに、それを淡々と受けいれていくだけの人物造詣はあまりにも受動的すぎてその点でも「うーん」と渋い顔になってしまう……。とりあえず作品紹介文の『「よぎりの船」はおそらく21世紀になって書かれた幻想文学のなかの最高ランクに属する作品です』は言いすぎではないかな……。

秋雨物語

貴志祐介の新作短編集。前回取りあげた「我々は、みな孤独である」よりなぜかこっちの方が口コミ評判よいんだけど、そうなのかなー。僕は違うんだけど……と思ってしまった。もちろんこっちもおもしろかったんですが……。ちなみに「我々は、みな孤独である」もそうだったけど、人間存在の不確かさ、曖昧さに起因する恐怖を貴志祐介は描きたいのかな……と思ったりもした。

☆ まほり 上・下

2022年最後の読書がこれ。これはすごかったな……。なにがすごいって、相当な素養が作者の側に無いと書き得ない内容だったから。テキストの扱いや視点、距離感にアカデミックなバックボーンを感じさせる。主人公は社会学をやってる学生なんだけど、社会学といえば特にSNSでは「不要な学問」「胡散臭い」「左翼っぽい」みたいな意見をよく見かけるわけだけど、この物語で描かれているテキストや情報の扱いを見ていればそれらの意見がいかに雑なのかがよくわかる。学問をなめてはいけない……。小説としては「限界集落ホラー」あるいは「都市伝説風ホラー」と見せかけておいて、丁寧に地域の史料をあたり、民俗学的考察を進めながら謎を解明していくミステリーになっている。文献などを読み解いていくパートはさながら新書レベルの学術書を読んでいる感覚があり、かなり人を選ぶ気がする……が、幸いなことに僕は楽しめました。なおそこで登場する大量の文献、すべてが創作なのだからぶったまげてしまう。すごすぎ。主人公とヒロインの関係性が微笑ましく、読んでいて応援したくなってくる。また伝奇風味の怖さもジワジワと来る感覚があり、エンタメとしてもかなり巧いなと思った。そしてラスト。オチとしては予想がつくものだけど、その描かれ方、短いなかに圧縮された描写が素晴らしく、とてもよい余韻が残った。2022年、最後に良いものを読みました。

そして2023年

初読書はこいつ。超おもしろかった。この「黒牢城」についても1年後、振りかえり記事で取りあげることになりましょう!

2023年はインプットもしつつ、よりアウトプットを増やしていく年としたいなー。

最後に

2022年に読んだ小説をながながと振りかえってきましたが、なんだかんだで一番おもしろいのはやっぱりニンジャスレイヤーです。

未読の方は第四部 AoM から読んでいくでも全然OK! なんといっても無料で読めてしまうのがすごい。みんなももっとニンジャしよう!

【おしまい】

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しゅげんじゃ
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