浮遊体〜駱駝の徒然草〜
その物体は、ふわふわしている。
あっちにいったり、こっちにいったり。
浮いたり沈んだり、大きくなったり、小さくなったり。
くっついたり、離れたり。
形は定まっていない。
尖る時もあれば、丸くなることもある。
掴んだと思えば、するりと抜けていってしまうことだってある。
これは、僕だ。
興味の方向はころころと変わり、気分の浮き沈みもある。態度も、環境によって、大きくなったり、萎縮したりする。
性格も、尖る時もあれば、丸くなる時だってある。
僕は、どんな形で、どんな大きさで、どこに向かっているのだろう。
僕自身でさえ、未だにわからないでいる。
存在自体は20年以上しているのに、僕という正体が未だに掴めないでいる。
ふわふわとそこにいるうちに、色んなものを吸収した。むりやり吸収させられたものもある。
だいたいは、外に出ていってしまった。いくらか残っているものもあるかもしれないが、僕を変化たらしめるものには、なっていない。
僕はこのまま、ふわふわと形も場所も定まらずに、消滅するのをただ待つばかりなのだろうか。
そう気づいた時、僕の心は少し動いた。
表面が動いた、というより、心の仕組み、歯車の部分がガキン、と動いた。
嫌だ。
僕は、僕がここにいた、こういう形で、こういう大きさで、どこに向かっていった、というのを知って欲しい。
少しでも、僕が居たという軌跡を残したい。
だが、形も見えない浮遊体が、そんな大それたことが言えるだろうか。
たしかに僕は形のない浮遊体だ。
だけど、それを動かす歯車がようやく動き出したのだ。
僕は様々な刺激をうけ、様々な形を経るのだろう。
水流で形が変わる土砂のように、色んな傷も増えるだろう。
それでいいのだ。
その傷も、僕なのだから。
そう思ったとき、僕という浮遊体は、楽しい方向へ向かい始めるのだ。