本編よりも充実しているかもしれない解説と訳者あとがき〜オスカー・ワイルド 『サロメ』
オスカー・ワイルドの『サロメ』本編は全体の1/3くらい。
それに、翻訳者の平野啓一郎氏の訳者あとがき、解説(田中裕介氏 青山学院大学准教授)と、宮本亜門氏のよせ書き等で構成されている(光文社古典新訳文庫の『方丈記』のような構成)。
本編以外の内容の濃さ、ボリュームもあわせて読みたい、楽しみたい一冊になっている。
ワイルドといえば『サロメ』のような作品を書くひとが?と、その意外さでびっくりの名作『幸福な王子』のこともあるけれど
解説でくわしく語られる人間オスカー・ワイルド、作家(芸術家)オスカー・ワイルドの複雑な人間性、生活、事情を知ることができるのも本書(この新訳)の刊行意義だろう。
『オスカー・ワイルドで学ぶ英文法』の表紙のような優雅さはぜんぜんない。
この新訳版は、宮本亜門氏からの依頼(舞台のための)にこたえる形で実現したそう。
舞台のための戯曲として書かれていることもあってか、ボリュームの面も含めてコンパクトで読みやすい(戯曲であってもシェイクスピア作品のようにもっとボリューミーなものはあるけれど)。
平野啓一郎氏の細部に気を配った(とはいえ、彼はその作家としての「自我」を満たすのは、あくまでも小説であり、この翻訳はそれにくらべると楽しんで、思い切ってやれたそうな)翻訳も功を奏している。
おおもとのヒントというか、元ネタは聖書にあるとはいえ、ワイルドによる、ワイルドなりの意図、創作もふんだんに込められていて、これはこれ。
フローベールの『三つの物語』所収の『ヘロディアス』と読み比べるのもおもしろい(ワイルドが本書を書くのに参考にしたサロメもののひとつ)。
光文社古典新訳文庫シリーズにおいては、例によって例のごとく、解説や訳者あとがき等もふくめて楽しめる、堪能すべき(しないともったいない)作品。
本書を読んだことで、ギュスターヴ・モロー(のサロメ作品)やオーブリー・ビアズリーの挿絵についても、また見かたが変わるのもおもしろい。
わたしのような浅学、とくに古典文学、美術にうといものからすると、こうした「あの」古典をこうして「読破」(破るというほどには到底読めていなくとも)したという体験は、なんともうれしいもの。
光文社古典新訳文庫、いい仕事してるなぁ。
ありがたい。