「アポリア あしたの風」いとうみく著
この作品は、先に紹介した「はだしのゲン」ほどではないかもしれないが、震災や津波のもたらす被害をオブラートに包むことなく描いているのも強烈だった…具体的な描写に触れることは避けるけど、仮に自分の住む地域が被害に遭った際に想定されうる、けれども想像したくない光景が広がる感じというのかな…。
あることがきっかけで引きこもりになってしまった中学生の主人公が、母親と生き別れになった後に、見ず知らずの人たちと避難生活を送る中で成長していく物語…確かにそういうあらすじが一番しっくりくるとは思うけど、個人的には「現代社会」に「突然経験などしたことのない、未曾有の災害」が降りかかることを描いている印象で、それがたまたまヤングアダルト向けに引きこもりの少年を視点にして描かれているという感じもあるし、時と場所が変われば誰もが「主人公」になりうる物語でもあるのかなと…。その意味では、他人事ではなく自覚的あるいは一人称的視点(なんて表現したらいいのか分からずイミフな表現になってしまう…)に読み進めることができるし、何も自身のことだけでなく…被害後に避難生活を見ず知らずの人間と送ることの難しさに向き合う作品でもあると思う。
なんだろう、冒頭辺りだと主人公が完全に「絶望を見た後の碇シンジ」を思わせる引きこもりっぷりではあるのだけれど、自分も引きこもり体質だから結構分かるんだよなぁ…。恐らく人によっては「情けない」とか「子供っぽい」という印象を主人公に抱いてしまうのかもしれないが、思春期特有の意固地っていうのかな…分からないではない、というか思いっきり経験してる側面あるよねって(笑)故に、引きこもりという自身の問題に加えて、外部から大災害というとんでもない困難がやってくるという意味では…この作品、実は物凄くハードモードを超えていく物語でもあるよね。
主人公が避難先で出会う、様々な事情を抱える人たちのエピソードも興味深い。あと、主人公が中学生ということもあって、子供にキツく当たってるエピソードもちょっと分かりみ感…っていっても、自分は別に同じ時期に子供が嫌いだったわけでもないけど(笑)案外、大人になるってことは子供との距離感やルールが明確になる時期だと思うけど、その意味で同じように「子供」として接している感じが中学生だなぁっていう…。
そして、エンディングが一番印象的だったのも確か…だけど、そこは実際読んで頂いたほうがいいと思うので、ここではあえて触れないことにします。一つ言えることは…残酷かもしれないが、決して悲観的ではないということかな。
余談ですが、使用させて頂いた画像…福島県郡山市で撮影されたものとのことです。作品の書影とも重なるし、何かこう…再起の力を感じる印象だったので、使用させて頂きました。