人は大人になるたび弱くなるよね『FALL/フォール』 (映画感想文)
ネタバレします。
嫌だったら即退散を!
とはいえ、人は大人になるたび強くなるもの、と信じていました。
若い頃は。
大人になるほど、知恵も経験も増えて、死をも恐れぬ強靭な存在になってゆくのだろうと。
だけど、やっぱり、浅香さんが歌うとおり、弱くなってゆくもののようです、大人になるたび、人というものは。
自分が大人になればなるほど、そう、実感します。
私は歳を重ねるほどに「高い場所」に恐怖を感じるようになりました。
若い頃は全然平気で、高層ビルの屋上やジェットコースターなんてイエイイエイ!だったのですが、今では恐怖心が胸のうちの半分以上を占めてしまいます。
子どもの頃から、飛ぶ夢をわりと頻繁に見るんです。
平泳ぎの要領で手足を動かすと、うまく空気に乗れる瞬間があって、そのまま手足をかき続けるとより上空へ浮かんでゆける。これが私のいつもの飛ぶスタイルなんですけど。
若い頃は、まさにピーターパンのごとく自由に飛び回っていました。
でも、近頃では、あまり高度を上げると恐怖を感じちゃって「高度を下げよう」という判断をしたりしています、夢の中の私。
人の目線の高さで飛んでたこともありました。邪魔。歩け。
そんな私に『 FALL /フォール』です。
地上600メートル以上の鉄塔の頂上に女子2人が取り残される、というワンシチュエーション・サバイバルスリラーです。
もう、一番の売りはとにかく「高い」ってこと。
東京スカイツリーと大体同じ高さです。スカイツリーも真下から見上げると「なんか頂上あたりに魔王とか住んでない?」っていう異次元の高さを感じますもんね。
で、タイトルも『 FALL /フォール』なわけですから、そんな高みから落ちそうなシーンが連続します。そのたびにお尻のあたりが「ザワザワ」します。むしろこんな映画、お尻を「ザワザワ」させるためだけの映画です。そして、若い頃はそんな「ザワザワ」感覚が大好きだったので、この手の映画は「私のための映画!」と真っ先に観に行っていました。「ザワザワ」も人生に必要なひとつの栄養分のような気がしていたんです、あの頃は。
その名残で、今でも、この手の映画が公開されると思わず観にいってしまいます。
でも、今は、もう、圧倒的に、不快さが勝つ。
「ザワザワ」するたびに、なんでこんなに「ザワザワ」させるの!ってイライラしました。
物語としては映画の冒頭で、クライマー夫婦と妻の親友の3人で、岩壁をクライミングするのですが、旦那が滑落して亡くなっちゃうんですね。で、一年経っても妻は立ち直れない。そんな妻を親友が鉄塔登りに誘うんです。
妻は「嫌だ。無理だ。自信がない」って断ります。そりゃそうです。ロープの留め具が崖から外れて落ちてゆく旦那を間近で目撃したわけですから。一生高所恐怖症でも誰が文句を言えるでしょう。いいよ、全然、低いところでゆっくりやっていけば。私なら、そう慰めるでしょう。
なのに、この親友は「恐怖心に打ち勝たなきゃ乗り越えられないよ!」とか言って説き伏せるんです。
私、嫌いです。こういう人。
しかも、この親友は「デンジャーD」と名乗る「危険なことに体当たりする系」のYou Tuberなんです。だから「恐怖心に打ち勝て!」と親友を諭す一方で「あんなとこ登ったら絶対バズるっしょ!」という思いもあるんです。
私、嫌いです。こういう人。
まあ、こういう人がいないとホラーやスリラーは成り立たないので仕方ないですけどね。沈着冷静で常識的な人ばかりだと、やっぱりこの塔は危なそうだから登るのはやめにして、帰りにおいしいソフトクリームでも食べて帰ろう、という映画になってしまいますから。
結局、高さへの恐怖と、登場人物へのイライラで随時不快な映画でした。
だけど、その原因は完全に私側にあるわけで、ワンシチュエーション・サバイバルスリラーとしては、かなり良くできた作品と思います。
「ザワザワ」したい方は、ぜひ。
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