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読書感想『あなたはこうしてウソをつく』

阿部修士著


所詮脳の働き

恐らく悪い意味ではなく、嫌だな、と読んでいて思ったのは、当然ながら脳の働きによって僕たちはウソをついているというのがわかってくるからです。しかも、ウソをつく時は脳のこの部分が活性化しているなどの、ウソが脳のどの場所で生み出されるかも現在ではわかりつつあるのです。そんなにも研究が進んでいるとは。

感覚的には、ウソは自分自身で、他の誰にも理解できない自分だけのプロセスを経て生み出されるものだと感じているので、それが全員同じだよと言われると、下手したら自分のアイデンティティすら失ってしまいそうな身震いを感じました。

自分の中にだけしかないと思っていた、誰にも言わない感情のあれこれもまた、皆と同じ脳のどこどこでそういう感情が生まれるんですよ、なんて言われている気分で、自分自身がどこにいるのかが朧げになっていきます。

脳の話を読むと、こんな感じで毎回生きている価値を見失いそうになります。僕たちが鳥や虫を観察して統一的に、この種は繁殖期になるとこういう行動をとるだの、この種は不快感を示すときにはこうするだのとみなしているように、僕自身もまた大まかな「人間の行動」の中に分類される動きしかしていないんだと感じるんです。しかも、表面的な動きだけでなく、心の動きまで。

阿部さんの文章は非常にカジュアルで楽しいのですが、ホラー小説より読んでいて怖いです。

ウソが脳の働きに過ぎないとして

ウソが脳の働きに過ぎないとして、それに対して嫌だなと思うこと自体もまた脳が担っていて、僕も他の人間と同じ構造に基づいてただ動いている機械みたいなものなのだと恐怖を感じているのも脳の力だとしたら、やっぱり脳って無限の可能性を秘めているんじゃないか、と思います。

ウソと言っても、その中身は千差万別です。同じ部位が働いていても出てくるウソが違うということは、部位の中でさらなる細かいプロセスがあったり、脳が作られる過程で部位の形がちょっと変わっているが故の誤差があるのではないでしょうか。もしあったなら、そこが僕たちの個性、唯一性ではないかと思うんです。

うん、そうしましょう。また生きる希望が湧いてきました。

文系脳で考えていた、漠然としたもやの中から自分だけの感情を手探りで探す感覚とは異なりますが、やはり自分は自分で、世界で唯一の存在なのでしょう。

逆に、周りの人々が、同じ構造の脳を持っていると考えると、電車の中とかで大衆に対して感じていた嫌悪感が和らぎ、皆が仲間であるような優しい気持ちにもなってきました。

人類皆兄弟、ですね。

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