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#陸上部
長編小説『老人駅伝』⑩
十一月九日。流石に昼間でも寒さを感じ、朝は言うまでもない。布団から出れなくなる季節だ。残念ながら、老人となった私には関係ないがな。暑かろうか寒かろうか目が冴えてしまい、動き出すしかないから。
私はベッドから降り(妻はもう起きて走ってやがった。あいつ、やばすぎないか)、ジャージに着替えた。水を飲み、その場で軽くジャンプ。もう痛みは全くない。私の足の痛みは、怪我と呼んでは怪我に失礼なレベルの些細な
長編小説『老人駅伝』⑨
目が覚めると、痛みを感じた。痛みで目が覚めたのかもしれない。年と共に、疲労が抜ける速度も遅くなる。体中が痛くて、重くて、だるくて、ベッドから起き上がる気が起きなかった。だが、若者と違って二度寝する気分にもならない。全身が痺れて動けないまま、天井を見つめる。
そういう時、私は無意識に自分に問いかけていた。
「このまま死ぬか?」
もう一度目をつぶって深淵に落ちれば、死ねるような気がした。
前に
長編小説『老人駅伝』⑧
老人が悪態をつきながらも、人生の終盤に駅伝を選び、若者たちと切磋琢磨していく話。
1話はこちら↓
初回から三人増えただけなのに、賑やかさは五倍増しのように感じた。
「私、別に馴れ馴れしくするつもりはないわ。練習にはくるけど」
「わかった」
「悪いけど、髪を染め直す気もないから!」
「わかっとるって!」
何やらぐちゃぐちゃいう高橋望。口を開けてみたら、高校生という感じが全面に出て、見た目と
長編小説『老人駅伝』⑦
老人が悪態をつきながらも、人生の終盤に駅伝を選び、若者たちと切磋琢磨していく話。
1話はこちら↓
駅伝は一区から襷を繋いでゴールを目指す。一区の選手がゴールまで突っ走ることはできない。二区をすっ飛ばして一区から三区に襷を渡すことはできない。当たり前だ。私は、生まれてから急に六十五歳になったわけではない。色々なライフステージを経て、六十五歳になった。当たり前だ。ただ何故か、それを忘れてしまう
長編小説『老人駅伝』⑥
老人が悪態をつきながらも、人生の終盤に駅伝を選び、若者たちと切磋琢磨していく話。
1話はこちら↓
川外勇也と陣在太花には猛烈なアタックをする気になっていた私だが、いくら打倒内石を掲げていても、もう一人練習にこない高校生女子、高橋望にはグイグイと行けない自分がいた。JKというネームバリューに押されているのだろう。冴えない老人が面識のないJKを校門で待ち伏せしようものなら、変態犯罪者として逮捕はも