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【読書感想文】『生殖記』朝井リョウ|共感と違和感が入り混じる

※ネタバレあり※

『生殖記』 - 朝井リョウ

なんとも、インパクトのあるタイトル

これもきっと面白い、タイトルからそう思った。
なぜなら、2021年に発売された『正欲』が
ドンピシャで好みだったからだ。

あらすじはこんな感じ

とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と二個体で新宿の量販店に来ています。
体組成計を買うため――ではなく、寿命を効率よく消費するために。
この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です。
単刀直入な最初の感想

https://www.shogakukan.co.jp/pr/asai_seishokuki/#


最初の感想


え、終わった。
読み終わっちゃった。
なんか終わりっぽい空気を醸し出しているな、
と思ったらほんとに終わってしまった。

(というのも、電子書籍で読んでるもんで、
良くも悪くもいま自分がどのへんを読んでいて
物語があとどれくらいあるのか、さっぱり分からないのです)

そのくらい、正直最後まで掴めない話だったかもしれない。


まず気になったのは、語り手の視点


主人公に宿る「生殖本能」が、この物語のそれ。

それが、物語の第三者的視点で登場人物について語っていくスタイル。

朝井リョウの作品をたくさん読んだことがあるわけではないけど、
色んな人物からの視点が描かれていることが多いのかなと思ったので、
なかなかに斬新かつ慣れない書き方だった。

個人的には、もっと登場人物の感情とか
そういうものが見てみたいなあと思ったりした。

この物語において、語り手が主人公の生殖本能なのは、なにかしら大きな意味を持っているんだと思う。

最後の方に、これからの時代は
「私」(語り手)、つまりは「生殖本能」が邪魔になるのではないか、なくなるのではないかという内容があった。
この考えは新しいなと思い、考えさせられた。

ただ、正直なところわたしは人工授精とか、
AIロボットが子どもを育てるとか、
子孫繁栄におけるこの世の発展?には
今のところ全く興味がないので、
このへんは一旦スルーしておく。

このあとは、印象に残ったこととか、
気づきとか考えとか。


皆と違う人生になるのが怖い


「私、もしかしたら、周りの友達と話が合わなくなるのが怖いだけなのかもしれない。自分だけみんなと違う人生になることとか、ずっと独りで生きていく可能性とか、そういう不安が、子ども欲しいに変換されてるだけなのかもしれない。命の話なのに、自分勝手すぎるよね」

『生殖記』より

主人公 尚成(しょうせい)の友達 樹(いつき)が言ったセリフ。

今の、25歳のわたしと、全く同じだと思った。

大学を卒業して、同棲する人や、結婚する人、
これからは子どもができる人だって周りに出てくる。

ライフステージが人それぞれどんどんズレていって、同じステージにいる人でないと、話が噛み合わない。

それは今も徐々に感じ始めていることで。

そうやってみんなと話が合わなくなることに、
焦りや劣等感を感じる。

なくてもいい。
なくても生きていけるのはもうわかってる。
でも。

みんなと同じでありたい。
だから結婚したい。
だって、その方が楽だから。

これが最近、まさにわたしが行き着いた考えだった。

他の人と違う人生を歩むことで
人から何か怪しげな目を向けられるのが
めんどくさいし嫌。

だったら適当にみんなの中に紛れ込んで、
ありきたりな楽しみを享受したい、みたいな。


自分と主人公を比べて


気づいたのは、わたしは尚成とは違うということ。

みんなに紛れる、という観点では
尚成も樹も、わたしも一緒だった。

尚成は人と違う。
彼は成長や発展を求めてないけど、
できる限り普通に装う。
その方が楽だから。
でも、絶対に自分の根本は曲げなかった。

尚成は、装うだけ。
本当は一緒でありたいなんて思ってない。

わたしはどっちかというと、彼の友達の樹の方。
装うだけじゃなくて、もはや一緒になってしまいたい。

それから、もう一つ尚成と違うと思ったこと。

尚成は、わたしから言えば向上心がない。
自分の意見を持たない。
ただ稼いで、生きられればいい。

自分のマイノリティ性が認められて、マジョリティの優位性がなくなっていくことを楽しみに生きている。
ただただ時間を過ごしている。

自分で何か変えようとか、もっと生きやすくしようとか、どこに行きたいかとかどうなりたいかとか、何にもないのが尚成。

尚成が上司に自分の意見を問われるシーンがあるんだけど、
あまりにも自分が無さすぎて、読んでてちょっとイライラしてしまった。笑

ああでも、こう言う人いるよなって思った。

そんな尚成を見て、
わたしは意外と、自分の意思持って生きて、行動してるんだなって思った。

ただ時間をやり過ごすだけの、
つまんなそうな尚成の人生を見て、
良かった、って思った。


「拡大、発展、成長のレール」に乗ること

やっぱりね、走っていたほうが楽なんですよ。“生産性がない人なんていません”が素敵な言葉として響く世界では、拡大、発展、成長のレールから降りられないよう自分で自分を追い込んでいるほうが、むしろ健やかに生きることができるのでしょう。

『生殖記』より

確実に、わたしはこのレールに乗ってる側だなと思ったりした。

この間転職したばっかりだけど、
次はどこを目指そうかな、
また何か新しいことがしたいな、
もっと楽しく生きるにはどうしたらいいかな
って毎日考えて、毎日試行錯誤してる。

「自分で自分を追い込む」ってほど、無理してるかな?
たぶん自分の意思でその「拡大、発展、成長のレール」の上を走り続けてる気がする。
だって、そっちの方が楽しいでしょ。
目指す方向があって、それに自分の足で向かう方が。
それに、自分が満足できるベクトルで少しでも人より上にいた方が、生きやすいのも知ってるんだよ。


この本を読んで、自分を理解し直した


ということで、この話の主人公には全く感情移入できませんでした、ということなのだけど、
まあ、感情移入した人も少ないのではと思う。

読んでいる間掴みどころがなくて、なんかモヤモヤした感じがしたのは、その自分との違いが原因かもしれない。

そういう意味では、読者も、尚成を取り巻く友達や同僚も、みんな同じ気持ちだったのかもしれない。
この人はなんなんだろう?っていう、理解できない気持ち。
分かるようで分からない。その性質が、考え方が、自分にとっては理解できないから。


という、結論なのかなんなのか分からないところに辿り着きつつ、
自分を再理解するきっかけになった本だった。
わたしは、この生き方でいいかもなあとも思った。

あとがき

今年の夏くらいからちょくちょく本を読むようになって、ずっと感想を共有したりしたいなあと思ってたので、ちょうどnoteをはじめたので書いてみた。
読書感想文、書くのむずいね。
書き方がわからん。
まあでも、なんでもいいか。

2024.12.21.

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