ほうれん草と小松菜のゆで方 #5
我が家はほうれん草や小松菜をよく食べる。ゆでるときにはいつも真剣だ。なぜなら彼らが最も美味しくなる瞬間が、いつ来るかわからないからだ。その瞬間を見極めようと、水を張ったボウルと菜箸を持って、鍋を凝視している必要がある。
以前忙しく働いていた時、それが面倒で、スーパーマーケットの惣菜コーナーでほうれん草のごまあえを買った。 見た目に色が濃すぎて、あまり美味しそうではないと思ったが、予想通り全く美味しくなかった。
まず何よりゆですぎである。惣菜コーナーのものは、どのスーパーのものでも例外なくゆですぎだ。
次に水が出ている。葉物は、ゆでてから時が経つと、いくら絞っても思った以上に水が出るものである。
ゆですぎ、そして水が出ているほうれん草、それが和え衣と一緒になってネチャネチャする。生きていたものが好ましくない姿になり、かわいそうだ、と思った。
私が敬愛する佐藤初女さんが、菜葉などをゆでるときの加減を、「透明になった時が一番美味しい」と言っていた。お湯の中に沈めた後、茎のところの透明度が上がり、葉先が青々としてくる瞬間がある。その時に素早く引き上げ、冷たい水で冷ますののだ。
これは他の野菜をゆでるときや、炒める時にも同じようなことが言え、透明になる瞬間を逃さないように調理すると、野菜たちが最も生き生きとしていて美味しく仕上がる。
この「透明」というのを初女さんは「いのちのうつしかえ」と表現していた。生き物から私たちがその生命をいただくのである。
先日友人が、ほうれん草のゆで時間がわからない、というので、上記のことをLINEに書いて送った。そうしたところ、「そうかー、これまで何分ゆでれば良いか、ということばかり考えていたけれど、五感を使うのね!」というリアクションがきた。
なるほど!現代社会では、料理も情報から仕入れるのが当たり前になっていて、体で教えてもらうものではなくなっているんだ!ということに気づいた。
冒頭のスーパーの胡麻和えも、「何分ゆでる」というマニュアルに沿った結果の産物であろう。人間と同じように、同じ種類のほうれん草だって一つ一つの個性があるのはずで、ゆで時間が一緒などということはあり得ない。そのことに気付けないほど、日本の隅々まで、都市化は進んでいる。
先日お料理の先生に、「子供にどうやって料理を教えたら良いですか?」と尋ねたところ、「台所をチョロチョロしている時に、その時作っってるものを教えるといいわよ」とおっしゃるので、最近10歳の上の子に対し、彼が台所周りにいる時に、料理のコツをちょこちょことつぶやいている。自分の食事が作れるというのは、人生を豊かにし、心を癒し、健康な体をより長く維持することを可能にする。また人に作ってあげればその人たちを喜ばせ、彼らが集まってきて、友人にも困らないだろう。生きる基本を学ぶことは、勉強と同じくらい大事なことだと思う。彼が大人になるまでに、料理は五感で作るもの、ということが伝わればうれしい。
ーほうれん草のゆで方(カッコ内は小松菜)ー
※初女さんと江戸懐石近茶流、家庭料理の先生に習ったやり方をミックスしてます。
・たっぷりと水を溜めた桶でほうれん草(小松菜)をよく洗う
・細かい泥や砂つぶは、熱湯に入れると取れるので、気にしすぎなくても大丈夫(小松菜の場合は、根元を逆にし、十文字に包丁を入れておく)
・大きめのボウルに、冷たい水をたっぷり張っておく
・大きめの鍋にたっぷりのお湯を沸かし、ひとつまみの塩を入れて、沸騰したところにほうれん草(小松菜)の根元を入れ、20秒ほど待つ
・葉先まで沈める。この時、お湯はずっと沸いたままの状態にする
・少し待つと茎の透明度が上がってくる。ひっくり返して少し待つ
・綺麗な透明になったな、葉先の色が濃くなったな、と思ったら手早く水を張ったボウルにとる
(・小松菜の場合は、手を冷水に浸して茎を指先でつまみ、柔らかさを確かめる。ぎゅっと摘んでも凹まなかったらまだ硬いので、もう少し。ほうれん草よりゆで時間は長くなる)
・流水の下でよく洗う
・何度か水を変えて、洗い、5分以上冷水に浸す。ほうれん草には硝酸が含まれ、尿道結石の原因になるから。(小松菜は水に浸して置いておく必要はない)
・簾に巻き、ゴムやひもで縛って立てておく
日本人の食と祈り Webサイト
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