「他人の視線がこわい」のは性格の問題ではなく、社交不安症(視線恐怖)かも
他人や周りからの視線が気になりすぎて、不安や恐怖すら感じている人は少なくありません。
人見知りや内気な性格の人も同じような気持ちを持つことが多いかもしれませんが、友人や家族と正常なコミュニケーションができていれば、多くの場合は問題ないと考えられます。
しかし、そうでないケースもありえます。
例えば、「誰かを不快にしていないか」「自分は変なことをしていないか」と自分の言動を過度に気にして日常生活がままならないなどの支障が出ているとしたら、社交不安症の一歩手前かもしれません(「視線がこわい」というのは社交不安症の症状の1つで、視線恐怖と呼ばれます)。
どのように対処すればいいのか、病院に行ったほうがいいのかと悩んでいるとしたら、まずは社交不安症がどんな病気なのかを知ることが大切です。
今回はその参考になる本として、『「他人の目が気になる・こわい」から抜け出す』(著:松本一記/吉永尚紀、翔泳社)を紹介します。
本書は社交不安症がどういう病気で、どのように対処すればいいのかを学べる本です。そもそも他人の視線を感じる場面で生じる恐怖や不安は、人間の自然な反応です。なので、それらをまったく感じなくすることを目指すのではなく、上手にコントロールすることが大切です。
「相手を不快にさせてしまうかもしれない」と不安になる
「また人前で失敗したらどうしよう」と不安になる
「今日のあの言動はよくなかった」と1人反省会を何度もしてしまう
こうしたことに覚えのある方は、社交不安症について理解を深めるだけでも少し前向きになれるかもしれません。
本書から「第1章 なぜ他人の視線が気になる・こわいの?」のパートを一部紹介しますので、参考にしていただければ幸いです。
「視線がこわい」って?
日常生活のなかで「他人からの視線がこわい」と感じている人はたくさんいます。この「他人からの視線がこわい」という感情を、本書では「視線恐怖」と呼びます。
全国の10代後半から40代の男女614名を対象におこなった調査では、「人から注目されると思うと怖くなったり、とまどったりする」と答えた人は約半数の283人(46.1%)でした。
若いときに「視線がこわい」と感じる状態が長く続くと、対人関係を築くことが難しくなりますし、長くつきあえる友人や恋人をつくるきっかけを失うかもしれません。
読者の方のなかには、すでに仕事や日常生活でストレスを抱えている方もいるでしょう。
他人の目線や自分自身の目つきなどをこわいと感じることは、視線恐怖の特徴です。不安なときには、さまざまなからだとこころの不安症状が出てきたりします。
もし何かについて非常に強い恐怖を感じたり、「どうなってしまうのだろう」と考えてしまい、不安症状に長い間悩まされていたりするのであれば「不安症」という病気かもしれません。視線恐怖は、不安症のなかでも社交不安症という精神疾患にあてはまります。
「不安」が日常に支障をきたしていると黄色信号
不安は誰でも感じるものですし、不安が生じること自体は異常でもなんでもありません。初対面の人と話すときや、上司との面談のとき、大切な取引をするときに、他人の視線に対して神経質になるのはごく自然なことです。
一方で、いつも視線を気にしたり、誰かが自分のほうを見ていないかと不安に思うことで日常生活に支障が出始めているなら黄色信号です。また、他人と目が合わないように人が多い場所を避けたりしているのであれば、あなたはきっと強い緊張と恐怖を感じていると思います。
もし、このような状態であれば「軽度の不安症」の可能性があります。不安症は放置せずに、適切な対処をすることが推奨されています。
不安は誰もが感じる基本的な感情ですが、信頼している人や利害関係のない人にまで恐怖を感じるのであれば、それは問題だといえます。実際に差し迫った脅威がないにもかかわらず、過剰な不安が発生する『脳のバグ』が生じているのです。
他人の視線がこわいと社交不安症?
社交不安症とは「他人と交流する必要のある場面や自分が注目されるような場面で、強い緊張と不安が生じることを特徴とする精神疾患」です。スピーチやプレゼンをするときに決まって強い緊張や不安があるのであれば、社交不安症かもしれません。
他人と交流する場面(以下、社交場面)で強い恐怖を感じるあまり、他人との交流を避け続けていると、極端な場合引きこもり状態になってしまうこともあります。かなり重症になってから初めて精神科を受診する人が多いことも社交不安症の特徴です。
では、そもそも不安とはなんでしょうか。不安は、一般的には「未来に対する心理的な不確実性や危険に対する感情的な反応」のことをいいます。たとえば「プレゼンが失敗するかもしれない」と思っている人がいるとします。
「プレゼンを失敗する」とはなんとも曖昧です。プレゼンテーターが上手に発表していても、聴衆はそもそも興味がないかもしれません。失敗は万事を尽くしても起こりますし、特別な準備をせずとも運がよくて成功することもあります。
自分自身がコントロールできないものを心配することはまったくの無駄ですが、まだ失敗するかどうかわからない不確実な状態だからこそ、不安が生じてしまう人がいるのです。
このような人は、失敗が非常に悪い結果を引き起こすと強く信じる傾向にあります。
「プレゼンを失敗したら、上司は自分に失望して評価が下がり最悪の場合クビになる」というふうに考えてしまうのです。
脳は、不安なときに思いついた複数の思考を結びつけ、現実であると判断する特徴がありますから、単に「プレゼンを失敗する」のではなく、「プレゼン失敗=上司の評価が下がる=クビ」という思考が不安を生み出してしまうのです。
次に、不安を感じた際に生じる心理的および身体的反応、感情や行動の変化について紹介します。
心理的反応……将来の出来事や結果がわからない状況に対してこわいと感じたり、恐ろしい出来事が起きると確信してしまいます。視線恐怖を持つ人は、目線が合うかどうかわからない状況に恐怖を感じ、睨まれたり冷たい目線を向けられたりすると確信することがあります。
身体的反応……からだの変化は、個人差が大きいです。主な不安症状は、心拍数が増える・呼吸が浅くなる・呼吸のピッチが上がる・筋肉が緊張する・からだや手が震える・声が高くなる・発汗する・頭が真っ白になるなどです。
感情の変化……はっきりと「こわい」「居心地が悪い」と感じることがあります。精神的な苦痛のレベルは高く、その対象を「不快」と感じたり、その対象がある状況にいることが「つらい」と認識したりします。
行動の変化……不安な状況や恐怖を感じる対象から逃れようとする「回避行動」をたびたびとります。一時的に不安は減少しますが、長期的に見ると不安は持続します。
社会的な側面への影響……社交場面で不安を感じると、交流自体が難しくなることがあります。他人への過度な気遣いが生じて相手の話が頭に入ってこなくなったり、自分の振る舞いに自信が持てなくなったりしてしまいます。
不安症は最も身近であり、かつ最も軽視されている精神疾患のひとつです。そのなかでも社交不安症は特に発症する人が多く、全人口の13人に1人は一生のうちに診断を受ける可能性があるといわれています。
「日常生活で困ることはあまりないけれど、視線恐怖がなければもっとパフォーマンスを発揮できる」「もう少しリラックスして生活をおくることができる」という方は、社交不安症と診断されないレベルの「社交不安」を持っているといえるでしょう。
社交不安症はどのように診断される?
社交不安症は、社交場面や人前に出る状況になると恐怖と不安があらわれることが特徴的なこころの病気です。精神科医の診察で、次のすべてがあてはまる場合に社交不安症の診断が検討されます。
6か月以上にわたり、1つまたは複数の社交場面で強い恐怖や不安が見られる
苦手な状況ではほとんどいつも社交不安が生じる
他人に否定的な評価をされることに恐怖を感じる
感じている不安や恐怖が実際の危機と釣り合っていない
社交場面を避けるようになったり、居心地悪く感じながら耐えている
重大な苦痛もしくは日常生活に大きな支障がある
社交場面で不安や緊張を感じることはよくあります。一方で、社交不安症の場合は、恐怖からなさまざまな不安症状が出てきます。これらの症状によって日常生活に明らかな支障が出て、そういった状態が6か月以上続くことが社交不安症の特徴です。
社会人の場合、繁忙期で残業が続いたり、仕事のトラブルでストレスを抱えたりして、一時的に他人の視線がこわいと感じるときは、おそらく社交不安症とは診断されないと思います。
人見知り・内気な性格と社交不安症は違うの?
社交不安症は、内気な性格とも異なります。内気とは、社会的に控え目な性格のことで、謙遜したり目上の人に従順だったり遠慮したりする行動形式として表現されます。
しかし、内気な人は、他人との交流に支障が出ることはありません。内気な性格だと自覚していても、友人がいたり、家族と仲良く過ごしたりしていて、不安が仕事の邪魔になることはありません。アメリカの調査では、自分の性格を「内気だ」と感じている人のうち、社交不安症の診断基準を満たすのは18%で、大部分は満たしていませんでした。
視線恐怖を持つ人が、必ずしも社交不安症とは限りません。しかし確実にいえることは、社交場面で強い緊張や不安を感じているのであれば、程度に個人差はあるものの、あなたに「社交不安」は存在しているということです。