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公立実業高校の充実は現実的な政策となり得るか



公立工業高校の充実

先日、元官僚かつコメンテーターで有名な宇佐美典也氏が教育無償化に関して以下のようなポストをしていました。

現実に現場作業員が不足する状態が続いていること、また学問とは名ばかりの教育しか行わないBF大学に税金の投入がなされていること、維新が私立を含む教育費無償化という方針を持っていることへの批判のようです。

合理的のようだが

この考えは非常に合理的のように見えます。実際、現場の労働者不足は深刻で、工事作業が延期をしている現場も少なくないと言います。また日本語がまともに分からないような外国籍の労働者を雇用し、コンプライアンスという概念が全く存在しないような工事を行う業者もあるといいます。

その点で考えれば、工業高校と実業教育を充実させて高卒労働者を増やす政策は決して間違いではないでしょう。

そう、それを望む人がそれなりの数、存在すればの話です。

地方と大都市の違い

地方においては工業高校はエリートではないものの、堅実な進路選択であるという印象があります。

TBS News DIG 熊本県公立高校入試2025

上図は先日発表された熊本県公立高校の一般入試の倍率ですが、県庁所在地かつ政令市の熊本市にある公立工業高校の倍率は決して低くありません。

熊本市以外の地域の工業高校も学科によって差がありますが、1倍を超えるところも多く存在します。ちなみに都市部以外の普通高校の倍率は0.1倍を切るところもありますが、工業系はそれと比較するとかなり人気です。

2024 年度入試 東京都立高校希望状況

一方上図は東京都の工業高校の志願倍率の抜粋データです。人口にかなりの差があるにも関わらず軒並み1倍を切っています。ちなみにリンク先にはありますが、都内のほとんどの普通高校は1倍を超えています。

大都市住民は高卒就職を望まない

この現象は明らかに首都圏などの大都市に住む層が工業高校という進路選択を望んでいない、ということを意味しています。

それもそのはずで、東京都の大学進学率はすでに7割を超えています。

これは東京の高校生や保護者にとって大学に進学する選択がスタンダードであり、高卒就職を考える方が例外となったということを意味しています。親世代の多くも大卒就職をしている層が大半を占めているのは間違いないでしょう。

一般にほとんどの家庭において、親は子供を自身の学歴以上の状態で社会に送り出したいと考えています。両親ともに高卒ならば高卒以上に、大卒ならば大卒以上にという希望は確実に存在します。そして家庭内の教育環境や会話もそれを前提としているため、子供自身もその選択こそが基本でありスタンダードなものだと認識して育つことになります。

したがって、大卒家庭が大半である東京などの大都市において、工業高校に進学することは親の知らないレールであり、その選択をリスクと考える家庭が半数以上であるということになるのです。

価値観は容易に変化しない

残念ながら工業高校にいくら投資をし広報活動を行ったとしても、首都圏の中学生や保護者が工業高校へ進学をしたい、させたいと考えを変える可能性は極めて低いでしょう。

地方都市においてはその効果は十分に見られるかもしれませんが、母数が少ないこと、また実際には大学進学希望と工業高校希望の家庭では分断が発生しており、その比率が大きく変わるのも難しいように感じます。

ここで確認しておくと、技術者の養成という点において工業高校の存在意義、社会的価値は歴史的にも、そして現在においても極めて高いのは間違いないということです。

また地方における労働者の供給機関として今でも厳然たる地位を占めているのも事実です。

ただ、その一方で首都圏などの大都市ではそうしたプレゼンスを失いつつあるように見えます。そしてそこに公金を投入したとしても、人間の価値観は容易に変化するものではないでしょう。

上から目線の指摘

引用元のポストには賛成の言葉が並んでいます。しかしその多くは工業高校とそこへの進学を望む層とそれを選択肢として考えすらしない人たちの乖離に対する解像度が低いように見えます。

またそうした高卒採用を行う現業企業の多くは昔気質の社風であることがほとんどです。現代の学校で育ち、権利意識が高く自由を謳歌した生徒がそうした企業で修業できるかどうか、ここもまた難しいのではないでしょうか。

だからこそ、宇佐美氏のこのポストは間違った指摘ではないが、一方で民衆の感情を無視した合理的なエリートの実効性の低い提案に過ぎないと感じるのです。

工業系大学への支援

個人的にはこの代替案として、技術者不足などの問題の解決は、専科の工業大学の充実と無償化だと考えています。

特に私立を含む工業系大学でJABEEなどの外部機関の認証を受けた大学の無償化を優先して行えば、大学を前提とする層と技術者不足に悩む現場の双方の需要を満たすことも可能なのではないでしょうか。

少なくとも、歴史の針を巻き戻して産業教育振興による工業高校の重点化よりも実効性は高いのではないかと思うのです。

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