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必要・十分条件問題に関する考察
先日Twitterで必要・十分条件に関する問題の考え方について書きました。
必要十分条件の解き方の基本フォーマットの提案。
— Sho Nishimura (@ShoNishimura4) January 6, 2023
記号と日本語の話を切り分けをベースにする。
①まずは記号に関して。
「A⇒B」のとき矢尻が必要、矢本が十分、「必要」や「十分」の意味は一旦無視して、矢印の向きに対して名前がつく、とする。 https://t.co/mKZbZUzB0I
連ツイで書いたこと、字数制限のために言葉不足もあったと感じたため、この内容をnoteにもまとめておきたいと思います。
必要・十分条件問題とは
必要・十分条件問題とは以下のようなものです。
$${x=1}$$ であることは$${x^2=1}$$であるための$${\Box}$$条件である。
これは最も簡単な内容の一つですが、この問題を苦手とする生徒は非常に多い印象があります。
その理由は、この問題は2か所の問題の本筋とは関係のない間違いやすいポイントがあるからです。
「必要条件」、「十分条件」という言葉の定義
言葉の定義は以下の通りです。
$$
A \Rightarrow B が成り立つとき
\\AをBが成り立つための十分条件、\\BをAが成り立つための必要条件という。
$$
このとき、命題Aと命題Bには以下のような集合の関係があります。
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Aはリンゴ、Bは果物のようなグループとして考えるとよいでしょう。
よくある覚え方は、AはBになるために十分満たされる条件だから十分条件、BはAになるために必要とされる条件だから必要条件と覚えさせるケースが多いようです。
私はこの覚え方が混乱が生じる第一原因だと考えています。
必要、十分は意味を考えない「名前」と捉える
$$
A {\Rightarrow} B
$$
このときに、矢元側を「十分条件」、矢尻側を「必要条件」というように、まず意味を考えずに名前としてとらえることにします。
基本的に矢尻の有無で名前が決まる、とするわけです。
必要や十分という日用語を数学で用いる場合、本来の意味とはややずれたものになるケースがあります。
今回の必要、十分も日常で使う場合とぴったりと一致するというわけではありません。
(有理数や複素数など、こうした翻訳の齟齬がしばしば発生します)
そのため意味を深読みせず、あくまでも矢尻の向きだけで必要、十分を定めるということにします。
日本語の特徴による過誤を無くす
次にこの問題をミスする要因の第二の要因を排除します。
それは日本語の読み間違いによるミスです。
まずは主語、述語に印をつけ、修飾語を()で囲みます。
$${\underline{x=1}}$$ (であること)は($${x^2=1}$$であるための)$${\underline{\Box}}$$ 条件である。
こうすると、今回の場合は$${x=1}$$のことを聞きたい($${x^2=1}$$のことではない)ことがわかります。
日本語の場合、「AはBの○○条件である」を「Bであるための○○条件はAである」、「BであるためにはAは○○条件である」といった語順の入れ替えが頻繁に、意図せずに行われます。
その結果、問題においてA、Bのどちらを聞きたいのかが見えにくくなるケースが多々あるわけです。
それを防ぐために、明確にA、Bのどちらのことを問いたいのかをしっかりと可視化するという作業を行います。
矢印の向きを決定する
その後、A、Bの条件を抜き出し、右向き、左向きのどちらが成り立つかを確認していきます。
$$
{x=1} {\Rightarrow} {x^2=1} or {x=1} {\Leftarrow} {x^2=1}
$$
今回の場合は、右向きは真、左向きは偽ですので、$${x=1}$$が十分条件であり、問題の解答も十分条件となります。
問題の内容に集中できていない受験生は多い
実はこうした条件の名前の間違いと日本語の読みの間違いは、生徒を見ていると比較的頻繁に発生しています。
特に学力中位層以下の場合はその傾向が顕著です。
一方で最後の論理構成はそれほど間違いが多いわけではありません。
もちろん、近年の共通テストなどでは難しい問題もあるため単純ではありませんが、この間違いについては説明を聞いたり、解説を読んだりすれば大抵の場合は正解にたどり着けます。
ところが、意外と多いのがその前段階で勘違いをしている結果、わかっているのに正解にならないケースなのです。
そうした間違いを防ぐ意味で、私はこの必要、十分条件の問題に関しては条件の名称と日本語の語順に注意を向ける解き方を初学者には勧めています。
さらに言えば、数学教員の多くは、論理構成の中身には興味があるが、こうした言語的な観点での過誤に関しては無頓着な人が多いように思います。
共通テストに対する数学教員の忌避感もこのあたりが原因なのかもしれません。
しかし、実際の生徒は数学の専門家ではありません。
(そしてそうなる予定もない。)
数学をツールとして使う人を選別する意味の試験としては、共通テストの今日の傾向を「本質的ではない」と批判するのはあまりに視野が狭いのではないかと私は思うのです。