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共通テスト直前期に、あえて“対策をしない”選択をする理由
共通テスト直前
共通テストまであと数日、世の受験生は追い込みに余念がない時期ではないでしょうか。もちろん受験生ほどには切迫感は無くとも、受験生同様にこの時期には学校や塾、予備校なども追い込みや最後の授業に熱が入る指導者も多いことでしょう。
かつてはこの時期、センター試験の直前期というのは過去問や予想問題を大量に解いて、解き方のフォーマットを頭と体の双方に叩き込むというやり方が主流でした。おそらく30代以上の大学受験経験者の多くはそうした経験をした記憶があるのではないでしょうか。
センター試験から共通テストへ
ところが昨年から、そして今年は本格的に私の授業ではこうした対策を一切行わないことにしました。その理由は明確で、そうした対策が共通テストの得点向上に寄与するとは到底思えない状況になっているからです。
ではなぜそうした状況になったのか、そのことに関して以下の3つを原因として私は考えています。
共通テストの難化
まず一つめは共通テストそのものの難化です。センター試験時代、多くの生徒にとってその問題は落ち着いて解けば解ける、仮に60分の試験を90分にすれば目標点に限りなく近づけられる、という性質の問題でした。
要は解答時間がハードルになっているだけだったのです。そのため反復練習が重要になっていました。似た傾向の問題やマーク式の解答方法を体に叩き込んだかどうかが得点に大きく影響していたのです。
ところが現在の共通テストは難度自体がかなり高く、高得点を狙えるはずの上位大学進学者ですら8割に満たないケースも少なくありません。一方で平均点は低下してはいるものの、かつてとそこまで差がありません。つまり誰もが解ける部分と誰も解けない部分が二極化しています。
以上のように、反復練習の意味が低下したことと二極化によって対策の意味が消失したのは間違いないでしょう。
思考問題の導入
共通テストにおいて新しく導入されたのが「思考問題」です。その場で条件を与えて試行錯誤するような問題をここでは「思考問題」として定義したいと思います。
この「思考問題」はどんな傾向のものがでるのか全く不明です。証明の順を追う形で出題されたり、太郎花子の掛け合いで出されたり、その形式は様々です。
さらにこの問題には一般教養的な知識の有無で有利不利に差が出るようなものも存在します。
そうした傾向や内容の問題に対して対策を行うのは、砂漠の中から砂金を見つけ出すようなものであり、現実には無意味です。少なくとも短期的な対策でどうにかなるような代物ではないでしょう。
共通テストの重要性の低下
また大学受験において共通テストそのものの価値が相対的に低下したという理由も存在します。そのため、受験生のレベル帯によってはほとんど受験者がいないということも珍しいことではないのです。
加えて昨今は推薦型や総合型など、得点力を問わない入試形式も多く、また難化による得点低下で偏差値下位の国公立大学では受験生の共通テストの点数が惨憺たる有様であることも珍しくありません。
共通対策に時間をとるよりも、記述試験での挽回を期した方が費用対効果のバランスが良いのは間違いないでしょう。
直前期に何を授業で扱うか
そうした状況のため、私は今年の高3の授業において共通テスト対策を一切行わないことを決めました。過去問や類似問題を時間を計って解かせる形式の対策授業を全く行っていないのです。
その代わりに行っているのが、全国の大学の過去問から取ってきた現実社会でも成り立つような実例をモチーフにした問題や、パズルや並べかえゲームなどを題材にした問題です。
こうした問題そのものは、おそらく同じ問題が共通テストに出ることはほとんどないでしょうし、直接的な効果は薄いでしょう。しかし思考過程そのものは非常に良い訓練になりますし、記述試験においても十分にその効果を発揮する対策です。
そして可能な限り、個別の対策に加えて問題を俯瞰してみる考え方を伝えるようにしています。その問題がそもそもどんな発想で考えられたか、出題者の意図、他分野や教科での考え方の活用に関してなどを捕捉で話しつつ、発想や着想に関して考えを巡らせることは思考力の鍛錬としては間違いないはずです。
「対策をしない」という「対策」
とはいえそれらは「共通テスト対策」と言えるほど試験形式に沿ったものではないでしょう。
ただ、逆に考えると、もはや何が出るかわからない以上、形式的な対策をしないことの方が、思考の固着化を防ぎ柔軟性を養うことも可能ではないかということです。
今年度の私の共通テストに向けての方針は「対策をしない」ということを「対策」とする、と言えるかもしれません。
もはや残すところ数日。この記事を読んでいる受験生におかれましては、無理をせず、体調を整えて試験に臨んでください。「対策をしない」という柔軟な心構えが、思いがけない結果をもたらすかもしれません。ベストとは言えないまでも、あなたにとってベターな一日になることを心から願っています。