「共通テスト」の対策は「自学力」を高めることが最も効果的ではないか、という仮説
2023年度の共通テストが終了しました。
数学の平均点が20点以上上がったり、理科の得点調整が入るなど今年も波乱の結果になりました。
しかし、英語や数学の基本的な方針は変わらず、文章読解能力を含めた教科学力の確認、という方向性で一致しているようです。
さらに地歴などにもその基本方針の傾向がより鮮明に表れるようになりました。
数学の問題が「現代文」化しているという批判
一昨年度から繰り返しなされている批判が、数学の問題が「現代文」化しているというものです。
太郎や花子のやり取りや状況説明の多い問題文など、冗長な問題設定の文章を読み取ることは数学の本質的な学力を問う試験として相応しくない、というのが理由です。
これに関しての私の意見は以下の記事にまとめています。
これは推測でしかありませんが、そもそも共通テストが純粋な「数学力」を問う気がないのではないか、という印象を受けています。
さらに言えば、共通テストの目標は教科ごとの到達設定よりも、教科をまたいだ基本方針の方が上位に位置付けられているようにも思います。
「センター試験」と「共通テスト」の対策は全く異なる方法論でとらえるべき
これまでの方針と全く異なる「共通テスト」の対策はどのようにすればよいのでしょうか。
これまでのセンター試験は教科ごとにセンター対策を行うことが最善の策と考えられていました。
もちろん、共通テストにおいてもそれぞれの教科の特性や出題方法に対する「慣れ」の部分では有効な手法ではあります。
しかし、共通テストには教科をまたいだ基本方針が上位概念として存在すると仮定すると、教科ごとの対策とは異なる手法を考える必要があるでしょう。
そして、その対策の内容を考えるには、先ほどの共通テストの基本方針に立ち戻る必要があります。
「共通テスト」の基本方針と求める能力
言うまでもないことですが、共通テストの基本方針は以下のようなものです。
平成21年告示の指導要領というのは「生きる力」をスローガンとし、思考力・判断力・表現力の育成を目的としたものとなっています。
現行の指導要領は平成29年告示のものですが、「生きる力」というスローガンは変わらず、そこに「主体的・対話的で深い学び」という概念を付加したものとなっています。
そして「主体的・対話的で深い学び」の実現に対し、「言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力の育成」という手法が指導要領の中にも挙げられています。
そして、現行の共通テストの出題方針は教科を問わず、明らかに「言語能力」、「情報活用能力」、「問題発見・解決能力」を意識したものになっているのです。
つまり、共通テストを解くためには、文章を読み取り理解した上で、情報を整理しそれを利用する能力を高め、実際の問題を発見したり解決する経験を積むことが求められるということです。
そして、これらの能力を高める最もシンプルな手法が「自学力」を高めるということに尽きるのです。
文章を読んで試行錯誤する機会を意図的に設定する
「自学力」の定義は様々ですが、シンプルに自分で学習する能力とします。
その場合、これらの能力を高める手法は自分で教科書や参考書を読み、不明点を考え、質問し、解決をするという経験の積み重ねが求められるでしょう。
一方で、効果が低いのはこれまでのように授業を受け、説明を聞いたうえでやり方をトレースして覚えるという手法です。
特に、近年は問題分析と動画授業のオンデマンド化によって、必要な授業を受講するだけでそれなりに得点の向上が見られるようになっていました。
(とはいえ自分で多少は演習しないと無理ですが、自己解決よりも模倣に重点がおかれがちだった)
つまり、講義主体の授業や説明に依存し、自分で学習する経験をしていない生徒を排除する方針とも言えます。
そのため、授業や学習マネジメントにおいては、いかに文章を読んで試行錯誤する場面を作るかが求められるようになっていると言えます。
「数学」の授業には説明は不可欠だが
私が担当する「数学」の場合、こうした理想論と現実との乖離が激しい科目の一つです。
残念ながら、読んで理解できる人は高校レベル以上の数学においてはそれほど多くありません。
どうしても「説明」をする場面は必要となるでしょう。その上で、いかに「説明」を減らし、どの程度自分で試行錯誤する場所を作るか、どの地点から手を放し試行錯誤するタイミングにするか、ということが授業を構成するためのポイントとなるように思います。
「説明好き」がなる職業なのに、「説明」を我慢しなければならない矛盾
私も含めて、教員という仕事を選ぶ人は「説明好き」な人が多い印象です。
予備校の講師は教員に輪をかけてその傾向が強いでしょう。
たしかに、分かりやすい説明ができて、生徒が理解したり、高得点を取ったりすることは何物にも代えがたい喜びがあります。
教員という職業のやり甲斐や醍醐味がそこにあると言っても過言ではないでしょう。
しかしそれと矛盾するように、「共通テスト」対策においてはそれをいかに我慢するか、が求められているように感じるのです。