見出し画像

教育費無償化は社会のためにある──多子世帯限定政策への一考察


大学無償化の閣議決定

先日、多子世帯の大学無償化が閣議決定されました。現在の政治状況を鑑みると、ほぼこのままの状態で正式に政策として施行される可能性は極めて高いと思われます。

具体的には子供を3人以上扶養している世帯において、その第1子に対して大学の授業料にあたる70万円/年の支援が得られるというものです。これは支給ではなく、授業料から減免される形で補助が行われるため、この金額よりも低額な大学の場合は無償化になり、それ以上の場合は減免になるという形をとっています。

学費無償化には賛成

私自身の立場としては、基本的に高等教育の学費に関しては無償化すべきであるというスタンスです。その理由は受益者負担の原則を重視するためです。

こう聞くと、では無償化に反対のはずではないか、という反論を受けるかもしれませんが、そうではありません。なぜならば高等教育を含む教育の真の受益者は教育を受ける当人ではなく、あくまでも国家、あるいはその個人が属する集団だからです。

例えば医師となる学生がいた場合、その人物が医師となって恩恵を受けるのは誰でしょうか。普通に考えればその医師から治療を受け、快癒し、日常生活へと戻れるようになった患者側です。もちろん医師そのものが他の職業よりも高額な収入(といっても割に合わないぐらいでしか高くはない)を受け取っていることは事実です。しかしそれはその当人の努力などを総合的に含めた報酬であって、仕事の対価として受け取ったものに過ぎません。

国立大学の医学部などは、医師教育のための費用の多くを国庫に依存しています。私立大学との学費の差は明らかで、現状においても無償化されているに近い状態です。そうした費用が拠出される理由は、社会の要請によって医師が必要とされているからです。教育を受ける人材はその中で教育を受けたにすぎず、決して不当に利益を得たわけではないのです。

現代の日本社会においては大学教育を受けた人材が必要とされています。そうした社会の要請がある以上、その受益者は社会全体のはずです。当然ながら大学教育は原則無償とし、個人負担を可能な限り下げるべきではないでしょうか。

今回の無償化には微妙な立場

では、今回の多子世帯大学無償化についての立場を問われると、諸手を上げて賛成するとは言えないのが正直な感想です。

たしかに無償化されるという結果自体は決して反対すべき事ではないのですが、その政策の方向性に賛成をしかねるからです。

今回の「多子世帯」限定の措置は明らかに少子化対策や子育て支援の一環として行われたものです。しかしそれは受益者負担の原則には沿わない政策なのです。あくまでも教育は個人負担するが、それを子育て支援のために政府が肩代わりしますよ、では趣旨が大きく異なるということです。このままの方向性で行く限りは、高等教育無償化が完全に実現することはないでしょう。

国民国家において、国民、市民を育てることは国家の義務であり、国民側からすればそれこそが憲法に保障された重要な権利であり義務でもあります。そしてその最低限の教育が高等教育に移ってきた、というのが現代の日本という国家の状況なのです。

小手先の人気取りや福祉政策として教育費無償化を行うべきではない、と個人的には強く感じるのです。今回の政策は多子世帯を救うというポピュリズムの皮を被っているだけで民主主義の原則を破壊する暴挙にしか見えないのは私の気のせいでしょうか。今後の行く末を見守りたいと思います。

いいなと思ったら応援しよう!