森へ飛んでゆけるSAKEができました。 『森のSAKE〜クロモジ仕込み〜』
これまでちゃんと新作について経緯をまとめてこなかったことを反省し、このたび世に放つクロモジのSAKEについてはちゃんと書きたいと思います。
と、気軽に書き始めたら長くなりました・・・。
気になる部分だけでもかいつまんで読んでいただけたら幸いです。
『森のSAKE〜クロモジ仕込み〜』概要
まず先に『森のSAKE〜クロモジ仕込み〜』がどういうSAKEなのか。
簡単に言えば、米と米麹でつくったモロミがまだ元気なうちに、裁断したクロモジを投入して一定の発酵期間をとって仕上げたSAKEです。
クロモジの爽やかな香りがして、とてもリラックスできるSAKEだと思います。吟醸香と合わさって、ラムネのような感じもします。
アフターテイストとして少しスパイシーさも感じます。
ちなみに、一切圧搾していないドブロクバージョンと、搾った澄み酒バージョンがあります(ドブロクバージョンが先行して発売となります)。
目を丸くしてもらうために
ある日、視察で蔵にいらした農業関係の御一行。その中の1人のオジサマが、あきらかに退屈そうな顔をしていました。まあ、視察旅行って、自分が興味あるところばかり行くわけではないから、その気持ちもわからないではない。
がしかし、このオジサマがクロモジSAKEのモロミの香りを嗅いだ瞬間、目をまん丸くしまして、テンションも爆上がりしまして
「わー、なんですかこれは!? 香りスゴイ! 今日買えるんですか!?」
と。
まだタンクの中にあるので買えるわけないのに、無理やり買っていこうとしました。闇酒じゃないんだから・・・ダメです!(笑)
しかしあきらめがたいそう悪く、お帰りになるまでに3回も「買えないんですか?」と尋ねてきました(笑)
これはですね、嬉しいんですよ。
これがあるからやめられないんですよ。
僕にとって酒づくりをしていて最も嬉しい瞬間というのは、人が目を丸くする様子を目撃することなんです。
クロモジSAKEはまさにそんなお酒になったようで、嬉しくなったと同時に、ホッと安堵しました。
だって、クロモジって、木ですからね。
どういうSAKEになるのか不安だったのです。
さっきのオジサマみたいな例もそうですが、もう5年以上前に、東京駅で体験したことも鮮明に覚えています。
僕は当時、新潟県酒造組合の需要振興委員として、東京駅構内に構えられたブースに立っておりました。そこに70歳代と思しき女性が近づいてこられましたので、「新潟のお酒です。試飲いかがですか?」とお声がけしたところ、驚くことにその方は
「私はこれまで日本酒を飲んだことがないの。どうも苦手な気がしてね」
とおっしゃいます。
失礼ながら、そのお歳まで日本酒を口にしたことがないというのは逆にスゴイことだと思いました。そこで僕は申し上げました、「そういう方にこそ飲んでいただきたい。このお酒ならきっと美味しく飲めると思います」と。すると女性は「そう?」と半信半疑ながら試飲カップを手にし、ひと口飲み、すかさず目を丸くしておっしゃいました。
「ほんとね、こんなにサラッとしていて美味しいのね。こんな歳だけど、日本酒を飲めてよかったわ〜」
これなんですよね。
いつもではないけれど、時折こういう経験ができるから、酒蔵をつくっちゃったんだろうな〜という気がします。
だから「!」があるお酒を常に生み出したいんです。
発見、驚き、心動かすエトセトラ。
LAGOON BREWERYのモットーにしている
「感激できる、多様なおいしさ」
というのはそういうことなんです。
素材選びの考え方
LAGOON BREWERYは設立当初、輸出用の日本酒づくりと並行してドブロクを始め、続いて、麹のみでつくる全麹酒をやりました。
初めて副原料を用いた酒づくりをしようと思った時、採用した素材はトマトでした。それは現在『SAKEマルゲリータ』として定番化しています。
なぜトマトを採用したのかというと、それは蔵のある地元・新潟市北区が農業が盛んで、とりわけトマトが名産だからです。とっても自然な成り行きです。
僕はどちらかというと、売れそうだな〜とか、旬だしな〜とか、そういう考えではなくて、自然なご縁で巡り合った素材を使いたいと思っているんです。
先日発売された雑誌『RiCE』の取材でも答えましたが、クラフトサケブリュワリー協会がいうところのクラフトサケって、使える原料の選択肢が無限なので、僕にとっては自由すぎて苦しいんです。少し制限があったほうが脳が働く気がするんですね。
なので、両手で包み込める範囲の選択肢の中で酒づくりをしたいと思っていて、自然なご縁で巡り合った素材に対し、うちの酒・蔵・技術はどう寄り添えるかを考えていくほうが性に合っているなと思っています。
なぜクロモジを選んだのか
話がだいぶ遠回りしましたが、じゃあなぜクロモジ? ということなのですが、これはもう1年以上前でしょうか、しばしば飲みにいく新潟のとある料理屋で、女将さんが「これ知ってる?」といってクロモジのお茶を出してくれたのです。
和のハーブ「クロモジ」・・・高級な和菓子を食べるときとかに出てくる楊枝に使われてるような・・・そんな認識しか僕にはありませんでしたが、とても香りが良くて、うっすらとキレイなピンク色の美味しいお茶でした。
「へ〜、こんな木でお茶ができるんだ〜、ふ〜ん」と、ホロ酔いの僕が感心していると
「これお酒づくりにも使えるんじゃない?」
と女将さん。
確かに!
そこで一気に目が覚め、クロモジと米でつくるSAKEのイメージも一気に湧き上がってきたのです。
ただ、蔵を立ち上げたばかりの頃だったので、すぐには製造に着手できず、構想ができてから1年ほどが経った2022年秋、ついにクロモジの調達に向け動き出しました。
クロモジ採取の旅
11月下旬、新潟県の栃尾地区の山に入りました。栃尾は雪深い場所なので、あと数週間もすれば入ることができなくなるタイミングです。
もちろん単独で山に入って採取できるものではなく、NPO法人の「UNE」さんにご協力いただきました。UNEさんは女将さんから飲ませてもらったクロモジ茶の加工を、クロモジを採取するところからやられているNPOさんです。他にも宿泊や特区免許でのドブロク造りなど様々な事業をされているのですが、ここでは紹介しきれないのでよかったらHPをご覧ください。特に「うねご飯」、オススメです!
さてさて、クロモジ採取の続きです。
クロモジは日本の固有種で、本州を中心に広く自生する貴重な森林資源です。比較的平坦な場所にクロモジばかりが群生している場所もあるらしいのですが、新潟ではそうはいかず、山に入り、急な斜面を登りながらクロモジを探し、採取する必要があります。これはかなりの重労働です。
クロモジはその名の通り黒いです。樹皮が黒い煤のようなものでコーティングされているのですが(擦ればある程度は取り除ける)、形状は一帯に生えている他のクスノキ科の植物と大差ないので、黒の存在感とオーラを感じ取って探していきます。
冗談でなく、ほんとにオーラのようなものを感じます。
最初はどれがクロモジなんだか分からなくて、似たような木を1本1本掴んでは香りを嗅ぎ確かめていましたが(嗅げば明らかにわかる)、次第に花のつき具合や色やちょっとした形の違いから遠目にもわかるようになってきて、宝探しみたいで楽しかったです。
クロモジを見つけて大きさが適当なものであれば、小型のノコギリで切って採取します(枝の太さが10円玉の直径にも満たないような小さすぎるものは資源保護のため採取しない)。
ノコギリをあてますと、その瞬間にフワ〜っと良い香りが森に放たれます。同時に、五感が鋭くなりました。あの現象には感激しかなかったです。自分の中の野性と人間性が呼び起こされる感覚もしました。
重労働には違いないですが、こうして採取したクロモジでSAKEづくりできる喜びを早くも噛み締めました。
斜面を登りながら探して採取するだけならまだ良いのですが、ある程度まとまったらそれらを担いで斜面を下り、トラックに載せ、再び斜面を登って探していく、といった繰り返しはなかなかシンドイものがありました。
この作業を朝から夕暮れまで繰り返し行いました。
疲れはありましたが、いただいたクロモジが車に載っていたため、良い香りに包まれながらの帰路となり癒されました。
なお、この日採取したクロモジはUNEさんがお茶に加工したり某・薬用◯命酒さんやジンのメーカーさんに販売されます。
SAKEに使うクロモジは乾燥したものを使ったほうが良いという判断から、僕自身で採取したクロモジはすべてUNEさんにお預けし、およそ1年前に採取され乾燥が進んだクロモジを分けていただきました。
いよいよクロモジでSAKEづくり
明くる日、持ち帰ったクロモジは、細か過ぎる枝を取り除いてキレイにしました。そしてさらに細かく裁断してからSAKEのモロミに入れます。細かい作業は気が遠くなるようでした。
まず想定量の半分のクロモジをモロミに入れました。
(クロモジ入りモロミの写真はうっかり撮り損ねました・・・)
モロミからはちゃんとクロモジの香りがして、吟醸香と合わさってラムネのようなニュアンスも感じました。すごく爽やかなんです。
時間が経過しても香りは衰えず、思っていたよりもしっかりするので、強すぎるよりは控えめな方が良いと判断し、もう半分は投入せず。
発酵期間を経てまずドブロクとしてボトリング、次に圧搾して澄み酒をボトリングしました。
下の写真は澄み酒同士の比較なのですが、右のボトルがうっすらピンク色になってるの分かりますか? お茶がそうだったように、澄み酒にしてもピンク色になるようです(ドブロクはピンクになってない)。
ただ個体差があって、一様にこのような色にはなっていません。空気にたくさん触れるとピンクになるようです。
和ハーブ『クロモジ』の魅力とは
最後に・・・古くから人を魅了してきたクロモジとは何なのか? という疑問に対してまとめておきたいと思います。
まず香り。
爽やかでフローラルなクロモジの香りは「リナロール」という成分が主な含有成分だそうです。リナロールは心落ち着く香りが特徴で、ラベンダーやローズウッド、ベルガモットなどにも含まれる、アロマテラピーで人気の香り成分で、鎮静・抗不安・抗菌・抗炎症作用などの効用が期待できるそうです。
いや〜、ほんと、落ち着きますもん、この香り。
また、クロモジは古くから生薬としても活用されているようで、生薬名は「烏樟(うしょう)」。芳香性健胃薬として胃腸の働きをバランスよく整える効能や、急性胃腸炎や下痢などへの効き目が確認されているんだとか。他にもリラクゼーション効果、痰を除き咳を鎮める作用、一時的に血圧を下げる作用も確認されているとのこと。すごすぎ。
さらに抗菌・抗ウイルス作用、抗酸化・抗糖化作用があることも認められているんだとか。
※抗酸化作用・抗糖化作用
http://www.toukastress.jp/webj/article/2017/GS17-27J.pdf
なので、クロモジのSAKEを飲めばリラックスできて抗菌・抗酸化作用があって胃腸まで元気に!?
期待できますね・・・!
森へ飛んでゆこう
まあ、そうした効能は置いておいて、単純に香りが良くおいしいSAKEになったという自負がありますので、ぜひこの和ハーブの魅力がSAKEに乗って国内外に広まってほしいなと、そう願っている次第です。
クロモジにノコギリをあてた瞬間、森の中へ放たれたあの香り。
その香りをひとたび嗅げば、あっという間に森の中へと飛んでゆけます。
その感覚を皆さんもぜひ体感してみてください。
発売は・・・来週くらい?(^_^;)
準備がんばろう。
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(以下、2月24日更新)
取扱店一覧
『森のSAKE〜クロモジ仕込み〜』が発売となりました!
お取扱店は以下のとおりです(2月24日現在)
※在庫状況はお店によりますので心配な場合は直接お店までお問い合わせください。
東京都
<千代田区>
・甲子屋酒店
・キャリカーズトーキョー
<文京区>
・伊勢五本店 千駄木店
<江東区>
・Sake Shop & Bar 海琳堂
・深川醗酵所
・いまでや 清澄白河
<墨田区>
・IMADEYA SUMIDA
<中央区>
・IMADEYA GINZA
<港区>
・浅野日本酒店HAMAMATSUCHO
・水橋(SAKE MIZUHASHI)
<品川区>
・桑原商店
<渋谷区>
・未来日本酒店&Sake BAR @渋谷パルコ
<目黒区>
・伊勢五本店 中目黒店
<世田谷区>
・発酵デパートメント
・信濃屋 ワイン館
・キャリカーズトーキョーウエスト
<中野区>
・VINSY
<豊島区>
・こだわりや ISP店(池袋ショッピングパーク店)
千葉県
<大網白里市>
・浜田屋酒店
<千葉市>
・IMADEYA 千葉本店
・IMADEYA 千葉エキナカ
神奈川県
<川崎市>
・地酒本舗 小島屋
・こだわりや 川崎アゼリア店
<藤沢市>
・こだわりや 辻堂店
新潟県
<新潟市・中央区>
・地酒防衛軍 吉川酒店
・中善酒店
・酒のよしや
<新潟市・西蒲区>
・岸本商店
<村上市>
・地酒の店たむら(瀬波温泉)
<阿賀野市>
・片山商店
<佐渡市>
・山田屋 喜右エ門
<長岡市>
・五十嵐酒店
<十日町市>
・て~ぶるくろす
青森県
<十和田市>
・遠田酒店
秋田県
<湯沢市>
・小川屋酒店
富山県
<氷見市>
・酒のスーパーマックス
兵庫県
<神戸市>
・浅野日本酒店SANNOMIYA
沖縄県
<読谷村>
・ナガハマ 88
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LAGOON BREWERY Inc.
代表 田中 洋介
< Website > https://www.lagoon-brewery.com/
< Online shop > https://lagoonbrew.official.ec
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