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『オルタネート』-加藤シゲアキ- を読んで


『オルタネート』-加藤シゲアキ-

あらすじ

高校生限定のSNSアプリ「オルタネート」が日常に溶け込んでいる現代の若者たちを描いた青春小説。

物語は三人の高校生を中心に展開します。調理部の部長・蓉は、料理コンテストでの失敗から再挑戦を決意するも、自らの進む道に迷いを感じています。

一方、居場所を求める尚志は高校を辞め、音楽家たちが集まるシェアハウスに飛び込む。そして、アプリ「オルタネート」に深い信頼を寄せる凪津は、運命の相手を探しながら現実と向き合います。

それぞれが抱える葛藤の中、文化祭初日に奇跡の瞬間が訪れる――10代の痛みや成長を、SNSがもたらす影響を絡めながら鮮やかに描いた新たな青春の傑作です。


感想

『オルタネート』は、SNSが日常の一部となった高校生たちのリアルな感情と成長を描いた作品で、SNSが持つ「便利さ」と「不確実性」の二面性が巧みに織り込まれています。

登場人物それぞれが異なる環境で異なる悩みを抱えているにも関わらず、物語は見事に調和し、一貫したテーマを感じさせます。特に、蓉の料理に対する情熱や尚志の音楽への挑戦、凪津の運命を信じる姿勢は、現代の若者が抱える「自己探求」と「不安」を象徴的に表現しており、共感できる部分が多いです。

また、三者三様の視点から描かれる構成も本作の魅力の一つです。各キャラクターの視点がバラバラにならず、それぞれの物語が独自のテンポで進みながらも交差し、読者を飽きさせません。

そして、終盤に向けて一気に物語が加速し、文化祭でのクライマックスに至る流れは、圧倒的な疾走感があります。特に「祝祭」での展開は、読者に息をつかせぬ勢いで物語が駆け抜けるため、まるで自分もその場にいるような体験が味わえます。

本作が特に優れている点は、SNSがただの舞台装置ではなく、現代の若者にとっての「現実」と「仮想」の境界線を曖昧にするツールとして描かれていることです。アルゴリズムに頼ることで現実を見失う危うさや、自己表現と承認欲求の狭間に揺れる心理がリアルに描かれ、SNSの功罪を考えさせられる内容です。


どんな人におすすめか

『オルタネート』は、現代のSNS文化に興味がある方や、青春小説が好きな方に特におすすめです。

若者たちが抱える不安や葛藤に共感し、彼らの成長を見守りたいと思う方は、きっとこの作品に心を揺さぶられるでしょう。また、SNSの裏にある人間関係やアイデンティティの揺らぎをテーマにした作品なので、テクノロジーと若者文化が交錯する現代に生きる全ての世代にとって、考えさせられる部分が多い作品です。

テンポの良いストーリー展開と、個性豊かな登場人物たちの多様な物語を楽しみたい方、青春時代の煌めきと痛みを再体験したい方にはぴったりの一冊です。特に、「成長」と「変化」に敏感な10代の若者や、現代の若者の気持ちに寄り添いたい大人たちにおすすめです。

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