『うつくしが丘の不幸の家』 -町田 そのこ- を読んで
あらすじ
海を見下ろす静かな住宅地「うつくしが丘」。
そこに建つ築21年の三階建ての一軒家を購入し、1階を美容室に改装して新しい生活をスタートさせた美保理と譲。
しかし、その家が「不幸の家」と呼ばれていることを地元の住民から知らされ、二人の期待に暗雲が立ち込めます。
この家に関わる5つの家族の人生が時を遡るように描かれ、住む人々が抱える葛藤や、そこから見出す希望が紡がれます。
不幸と呼ばれる家で人々が得たものとは何だったのか――
読むほどに「幸せ」の意味を考えさせられる心温まる物語です。
感想
町田そのこさんの語る「不幸の家」は、ただの舞台装置ではなく、それぞれの家族のドラマをつなぐ象徴そのもの。
この物語は章を追うごとに時代を遡りながら、住人たちの心の動きと、その結末を追いかける斬新な構成が魅力的でした。
各家族が経験する出来事には胸が締め付けられる瞬間があり、それでも最後には希望の光が見えるのが素晴らしい。
「不幸かどうかを決めるのは家ではなく、自分次第」というテーマが何度も心に響きます。
とりわけ、美保理と譲の夫婦が隣人の信子と心を通わせる場面には、他人との支え合いがいかに大切かを感じさせられました。
また、初代住人の植えた枇杷の木が時間を経て実を結び、その果実が最後に語る静かな物語には深い余韻が残ります。
どの家族もさまざまな試練を乗り越えながら、新しい一歩を踏み出していく様子に、読後はじんわりとした感動が広がります。
どんな人におすすめか
家や場所がもたらす人間ドラマに興味がある人
人生の悩みや挫折を抱えた経験がある人
希望と癒しの物語を求めている人
複数の登場人物が交錯する群像劇が好きな人
「不幸の家」と呼ばれる場所で、住人たちがそれぞれの「幸せ」を見つけるこの物語は、心に静かな勇気と温かさを与えてくれる一冊です。