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『サキの忘れ物』 -津村 記久子- を読んで

あらすじ

何かに夢中になることができない高校中退の千春が主人公。

病院併設の喫茶店でアルバイトをしている彼女は、常連客の女性が忘れた外国人作家「サキ」の短編集を手に取り…。

本を読む習慣のなかった千春ですが、この本との出会いが彼女の人生に小さな変化をもたらし始める。

表題作をはじめ、奇妙で心に響く全9編が収録された短編集。
読者を日常の中の非日常へと誘います。



感想

津村記久子さんの『サキの忘れ物』は、日常と非日常が絶妙に交差する短編集です。

主人公・千春が「サキ」の短編集に触れることで、少しずつ世界が広がり、新しい視点を得ていく様子が描かれています。

この過程は、本を読む楽しさや他者との出会いの大切さを再認識させてくれます。

全編を通して感じるのは、どの物語にも漂う不思議な空気感と、丁寧に描かれる人々の心理描写です。

特に「サキの忘れ物」や「河川敷のガゼル」は、日常の小さな出来事を通じて登場人物が一歩踏み出す姿が温かく胸を打ちました。

一方で「ゲームブック」のような少し遊び心のある作品では、選択肢を追いながら物語に参加する楽しさを味わえました。

津村さんの文体は地に足のついた安定感がありながらも、どこか幻想的で、不穏さと安心感が同居しています。

この絶妙なバランスが、読者に心地よい余韻を与えてくれる理由でしょう。どの短編も一読では終わらず、読み返すたびに新しい発見があります。


どんな人におすすめか

  • 日常の中に非日常を求める方
    どこか現実の延長にあるような不思議な物語が、日々の生活にちょっとした刺激を与えてくれます。

  • 短編小説が好きな方
    9つの物語それぞれが異なる魅力を持っており、短編集ならではの多彩な世界観を楽しむことができます。

  • 静かに心が温まる本を探している方
    温かさと切なさが入り混じった物語たちが、そっと心に寄り添ってくれるでしょう。

『サキの忘れ物』は、一冊でさまざまな感情や視点を味わえる短編集です。心に残る不思議な読後感とともに、日常にちょっとした光を灯してくれるような作品です。

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