『方舟』 -夕木 春央- を読んで
あらすじ
山奥にある地下建築で起こる極限のサバイバルミステリー。
主人公の柊一は友人や従兄と共に地下施設を訪れ、そこで偶然出会った家族と一夜を過ごすことに。
しかし、翌朝の地震によって方舟の出口が岩で塞がれ、さらに水が流れ込み、施設が徐々に水没し始める。
状況は刻々と悪化し、彼らに残された時間は約1週間。そんな中で殺人事件が発生し、「誰か一人を犠牲にすれば全員が助かる」という決断を迫られることに。
生贄には犯人がふさわしい――この状況下、彼らは犯人を突き止め、脱出することができるのか。
感想
『方舟』は、ただの閉鎖空間での推理劇を超えた、心理的な緊張感が全編にわたって描かれた作品。
ミステリーとしての巧妙なトリックももちろん魅力ですが、この物語の核は、極限状況における人間の本質を深く掘り下げている点にあります。
水没が迫る中で、次第に追い詰められ、犯人探しを進める登場人物たちの心理描写が秀逸でした。
特に、物語が進むにつれて徐々に明らかになる犯人の冷徹な思考や、行動の裏にある「動機」の恐ろしさは読者の想像を超えるもので、読み終わった後も強烈な印象が残りました。
また、物語は主人公・柊一の一人称視点で進行しますが、彼の素直な感情や自己分析がリアルに描かれ、一緒に閉じ込められたような没入感を味わえました。
物語のラストでは、全てが明かされる瞬間の衝撃が絶妙で、その結末には思わず鳥肌が立ちました。
犯人が追い詰められる過程も見事で、最後まで引き込まれました。何度も緊迫感が高まり、一気に読み進めてしまいました。
どんな人におすすめか
『方舟』は、サスペンスやミステリー好きな方にはもちろん、極限状態での人間心理に興味がある方に特におすすめです。
閉鎖空間でのサバイバル要素と、巧妙なトリック、そして圧倒的なラストの展開が絡み合い、読者を飽きさせない展開が続きます。
ミステリー作品で驚きの結末を求めている方や、人間の暗い部分に触れるようなストーリーを楽しみたい方にぴったりの一冊です。
また、複雑な心理描写が特徴的なこの作品は、単なる推理ではなく「なぜその行動を取ったのか」といった深いテーマにも触れており、考えさせられる部分が多いため、心に残る作品を求める読者にもおすすめです。
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