新世界より [貴志祐介]
分からないことが多いまま終わってしまった。
ホラーやオカルト、からミステリーへ派生した貴志祐介氏の作品としては珍しいSF小説。構想30年と言われるだけあってのボリューム。
SF大賞を受賞しつつもミステリー大賞も受賞しているようだったりして、中身的にはSFの衣を被ったミステリーやオカルト小説と言っても過言ではないでしょう。
話は、主人公の渡辺早季の手記として記述されている内容そのものなので、渡辺早季の知り得る事実のみがそこに記載されています。第三者視点がないので、知り得ない事実も多く、消化不良感は拭えません。ちょっとスケールが壮大すぎる。
また壮大すぎて先読みがしやすいのも事実。「なにこれスゴイ」という驚きとかよりも「そうなるか…」とか「そもそもの話が何もないのか…」みたいな落胆が大きかったです。面白かったというよりかは、よく思いついて、よく書き続けたなと言うのが個人的な印象です。
読み終わったときに感じたことは「AKIRA」です。
そもそも呪力をもった起因がよく分かりませんでした。書いてあったのかもしれませんが、記憶にはありません。科学的に実証されて観測されたことによって呪力を持った人が増えたような描写はあるんだけれども。観測以前と観測後で事態が異なっていることの違和感が拭えない。
呪力が発生したコトにより人間社会のバランスが変わったこと、戦争があったこと、主戦場たる東京はえらいことになっていることは結果としては分かります。主戦場や超能力といった内容は AKIRA を彷彿とさせますというか、なかなか似ています。AKIRA か?
そこで辛くも生き延びた人間は結局バケネズミにされていたわけですが、人間たちよりも人間らしすぎたので「人間だよな…」という疑念はかなり始め辛い抱いていました。まさにその通りになってしまって、残念です。
ただ、呪力を持った人間、バケネズミを作った人間、サイコバスターを作った人間、もろもろエゴがスゴイ。手記を書いている渡辺早季をはじめとする覚も将来に対するエゴがスゴイ。人間たるものは…というコトを言わしめんがために 1,500ページあるのかと思うとSFとしての締めくくりとしてはちょうどいいとも言えます。
ただ、呪力。発生原因も分からなければ、彼らが愧死機構を考えついて、遺伝子に組み込んだという能力。これも呪力なのか?呪力ヤバすぎない?
という発想と共に生まれる「教育のヤバさ」。あまりの呪力がヤバすぎることが起因して、徹底した教育がなされています。ボノボの生態系まで借りてきて営みまで操作している時代です。ここまで徹底的に子どもの頃から教育と制約をかけることで、思考も行動も制限して管理可能な社会が備わっています。1984とか目じゃないです。
ヤバイ能力を持つことの責任を社会として作り出した結果だと思います。ここの発想はエグくて凄いなと感心しきりです。舞台設定はホントに考え抜いた結果だろうなと言うことがよく分かります。
そういった時代背景と舞台から生まれた結果が、たった一人の子どもによる反逆と復讐です。圧倒的すぎます。圧倒的すぎる。強すぎる力を持ったことで、弱くなり得る。
設定と描写の細かさ、人をあざ笑うかのような内容などをもっても SF っぽいなと思うところではあるんですが、作者のクセだろうか、話の進行がとてもミステリーっぽいと言うなかなか曲者の小説でした。
手記という題材でスタートしたので、主人公が絶対に死なないという安心感が強すぎて、ちょっと物足りなかったのかもしれません。
新世界ゼロ年という前日譚がまだ終わっていないようなので、これが完結することを祈って。