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親友の死

はじめに

 私は、コミュニケーション能力には問題があるけど、たくさんの人達と関わり生きてきたように思います。ひとえに私を受け入れてくれた周りの人達の優しさなんだと思います。

 そんな私には、親友と呼べる存在が何人かいる。皆さんにも幼い頃から腐れ縁のように付き合ってきた友達はいるだろうか。私は、家族以外で一番長い付き合いの親友A(=以降A)がいる。本当にお互いに馬鹿なことをしてきたと思っている。

親友

 Aの他に小学生の時から仲良くなった親友B(=以降B)がいる。Bは、小学生の時に引っ越してきた。それから、私とAとBの三人で遊ぶ機会が多かった。

 中学生に進学すると、事情は話してくれないが、Bは不登校になってしまった。そして、卒業式の日にだけ登校して、居住地からかなり遠い市町村の高校に入学した。

 もちろん、長期間の休みになるとBは、実家に帰省する。その時には、AとBと私の三人で遊ぶことが非常に多かった。今でこそ言えるようなことをさんざんした。廃工場に忍び込んだこともあった。枯れ草で火遊びもした。夜の町を徘徊して歩いたりもした。路上で酒を飲んだりもした。本当にアホだな。

 そんな付き合いで、みんな高校を卒業してからは、年末に他のメンバーも集めて、10人くらいで親友Aの家を溜まり場にして遊び呆けていた。本当に楽しい時間だった。しかし、それぞれが遠方に就職したり、結婚する中で集まることがなくなってしまった。

 結果、最終的に地元に残ったのは、溜まり場にいた10人のうち、AとBと私の3人だけだった。幼い頃から腐れ縁なわけもあって、週に1度は、3人で何かをして遊んでいた。

 しかし、そんな日々も続かなかった。Bは、したい仕事の選択肢が地元に少ない為、引っ越すことになった。

 その頃、なぜかBは、哲学や宗教に興味を持ち出していた。後にわかったが、その頃、彼の祖父が亡くなっており、彼は家族の死に強いショックを受けていたようだ。しかし、私達には一切そういう素振りは見せなかった。

 その頃、彼は、私の部屋に来た時にも、『日常から精神へ』という仲野良俊という仏教学者の本が、たまたま置いてあったことがあった。それを見つけると、Bは私にその本のことをあれこれと尋ねた。私がいろいろと答えると「難しそうだからやめておく」と言って、私から借りようとはしなかった。

 AとBと私で、それぞれの明るい未来を願って、引っ越す前の最後の食事をした。そして、数日後、彼は、引っ越していった。

死んで帰って来た親友

 Bは、仕事で連休が取れると必ず帰ってきて、Aと私の3人で遊んだ。そして、10人いた仲間のうちの何人かは、結婚していった。その度、3人で結婚式には必ず出席していた。そして、3人のうちの誰が最後まで残るか?みたいな話をしたりしていた。

 数年が経過した。Bは、1週間後に地元に帰ることを私とAに連絡してきた。Aと私は、遊ぶ予定を考えて、その日の都合をつけておいた。

 数日後、突然、深夜にAから電話が来た。電話に出ると彼は泣いていた。話を聞くとBが遺体になって、地元に運ばれてきたとのことだった。

 AはBのご両親と面識があり、ご両親は彼に連絡をしてきたのだ。そして、聞いた言葉を信じられないまま彼は、Bの実家に行き、亡くなったBと対面した。そして、ご両親から友達に連絡をして欲しいと頼まれて、真っ先に私に連絡をしてきたのだ。

 電話では、どうにもならないと思い、深夜だったが、Aと会うことにした。そして、いろいろ話を聞いた。なかなか信じられないものだ。Bが横たわっている姿を見るまで信じることができない、そんな気持ちでいっぱいだった。そんなはずはない、だって、数日後に会うはずだったんだ。

 そして、お通夜の日には、私の家に友達数人が集まって、乗り合わせて、お通夜の会場に移動した。そうしたら、会場には、「XXの葬儀会場」とBの名前が書かれており、祭壇には、Bの写真が置かれていた。それでも、Bが死んだということを信じられない気持ちでいっぱいだった。

 本当は、こちらからお悔やみの言葉をBのご両親にかけねばならないが、ご両親の方から、私達にお通夜に来たことに対するお礼の言葉をかけてくださった。そんな中、気付くとお通夜の勤行が始まっていった。カーンという音がして、導師が発声した。それに続いて、配られた本を見ながら、みんなで声を出した。儀式が始まったのだ。

 私は、Bの死が信じられない中、お通夜が始まっていった。いや、私がBを死んだと認めていないのにもかかわらずお通夜が始まった、というような気持ちだった。すると、途中から涙が溢れてきた。声がでなくなってしまった。そして、となりを見ると、仲間たちはみんな泣いていた。そして、勤行は終わって、導師が法話をしていた。気付くと心が落ち着いたのか、涙は止まっていた。

 会場からみんなで帰ろうとするとご両親は、通夜振る舞いの席に着いて、思い出話をして欲しいとお願いされた。そして、彼の話を仲間たちですることにした。

 しかし、その席には、Bの彼女さん(=以降C)がいた。私達が話していると途中からCさんも話に入ってきた。実は、Bは、自殺だった。そして、自殺の30分前に会ったのが、Cさんだった。Cさんは、Bがいつもと様子が違うのに気づいて、声をかけて、励まして、仕事に行った。それがBとCさんの最後の対面だった。Cさんが、仕事に行ってすぐに自殺していたわけだ。だから、それを悔やんで悔やんで話しながら泣き出した。明るい思い出話を私達はしたが、そのCさんの辛い涙で、すべてがかき消されてしまった。そんな場だった。

 その後、会場から私の家に移動して、みんなで私の家でお通夜のことを改めていろいろと話しをして、久しぶりに仲間で一晩を過ごした。いつぶりだろうか。でも、そこには、Bだけがいない。

 そして、翌日、乗り合わせて、葬儀に行った。お骨を一緒に拾いたかったが、家族に悪いと思って、火葬場を外から眺めて、彼が火葬されて、煙が上がったのを合図として、みんなでタバコに火を付けた。喫煙者の仲間たちは、彼が火葬され、煙になっていくのを見ながら、煙を吐いていた。Dは「このタバコの煙のように彼も天に登っていくのか。なんだか、遠い存在になっちゃうような気がする」とボソッと言った。

 そして、解散した。私は疲れていて、家につくと、すぐに寝てしまった。そうすると、夢の中にBがあらわれて、私にお礼を言っていた。しかし、こちらからの言葉には何一つ反応しない。なぜだ!なぜだ!と私は叫んでいた。。。そして、玄関のチャイムが鳴って目が覚めた。Bのご両親だった。実は、お骨を一緒に拾ってほしかったことや忌中引に参列して欲しかったという旨のことを言われた。そして、忌中引で渡すために用意していた引き物を持ってきてくださったのだ。

 引き物だけもらうのも気が引けたので、すぐに仲間たちに連絡をして、行けるメンバーで彼の実家にお骨が安置されている中陰壇でみんなで手を合わせて、改めて、ご両親に挨拶とお礼を言った。移動の途中、みんな、それぞれ家に帰ると寝てしまったという。そして、私と同じ様に「Bがお礼を言う夢を見た」と言うのである。非常に不思議だった。

 Bが亡くなってからもう七回忌が終わった。AとBと私の3人で話した、最後まで独身で残るのは誰か?ということは、まだ決択がつかないままだ。しかし、Aは、去年、生まれて初めての彼女ができた。どうも私が最後になりそうだ。いや、もしかしたら、Bと一緒で独身のまま生涯を終えるかもしれない。まぁ、そんなことはどうでもいい。あの日から三十歳にならないのはBだけだ。Bだけが時が止まっている。そんな感じがするよな。

親友の死とは何だったのか

 Bの死とは何だったのか?私にとっては、信じられないものだった。しかし、なぜか、儀式が始まった途端に涙が溢れて止まらなかった。あれは何だったのか。彼が亡くなってから、たびたび、お世話になった方のお通夜の際に浮かんでくる問いである。数年考えてきた。

 結論というわけではないが、今の自分はこんなように考えている。大事なBが死んだことを受け入れられなかった。しかし、お通夜の儀式が始まったことで、その現実を受け入れざるを得ない状況となった。いわば、私に対して、現実が突きつけられたわけだ。私の気持ちとしては、「生きていて欲しい」。しかし、現実には、死んでいる。その受け入れたくないけれども、受け入れざるを得なかった現実が、私に突きつけられた。その結果、私から溢れ出てきたものが、涙だった。現実を認めたくない私の気持ちの発露。そんな気がする。親友の死をなかなか認められなかったんだろう。そして、その涙を私に与えた存在は、死者である親友だ。

 不思議なもので、お通夜やお葬式や弔問に行きそびれたりした時に、香典を持って、弔問に伺う機会が何度かあった。そうすると、玄関での挨拶の時には、落ち着いていたように見えた方が、私がローソクに火を灯し、線香に火をつけて、焼香をする間に泣いている人が数名いた。

 その方々の流す涙と私の流した涙は、まるっきり違うものだとは思えなかった。涙は流そうとして流すものではなく、流れるものだ。あえて言い表せば、死者から貰った涙なんだと思う。私にとっては、死者からのプレゼントだ。そういう形で死者は、私にはたらきかけているのかな。死者は、生者の中にそういう形で生きているのかもしれない。火葬場の外でDが「このタバコの煙のように彼も天に登っていくのか。なんだか、遠い存在になっちゃうような気がする」と言った。しかし、実は、遠い存在どころか、近しい存在なのかもしれない。なんか不思議なものだ。

 Bの死は、私にこんなことを問いかけてきたのだ。死と儀礼と涙。

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シュカイ
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