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花曇りの朝に、細やかな幸せと僅かの不幸を


シャツ一枚で陽光をいっぱいに浴びて、段々と新緑に染まるみずみずしい街になった。
幸福を体現したようなこの時間が何時迄も傍にいてくれればいいのに。
そうどれだけ切願しても、日々は淀みなく流れてしまうから、鬱屈で潰されそうなときはこの言葉を思い出す。

「人生を幸福にする為には、日常の瑣事を愛さなければならぬ。」

侏儒の言葉 / 芥川龍之介


羽衣ジャスミンの馥郁とした匂い、雨に濡れる躑躅の色彩、陽だまりに蹲う野良猫、まんまる太ったオムライス、無上の甘露味。

さらに芥川は、甘い幸福のためには苦さも必要だと言っていて、

コロコロのテープが上手く剥がせない、理不尽な上司、好きな人に振られる、傘を電車の中に忘れる、クレジットカードの支払明細、つまり堕地獄の苦痛。


たまさかに訪れる不幸があるからこそ、細やかな愛を倖せだと思って、健やかに生きることができる。

雨の日に花を買うみたいな。
曇った空に泳ぐ鯉の色彩に救われるような。

身に余る倖せはいらない、きっとその分たくさん泣いてしまうから。
ほんの少しの倖せだけでいい、微笑の一生でありたい。


禍福は糾える縄の如し

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