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朗読のための古典怪談

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江戸・明治時代の古典怪談を、朗読用に現代語訳して書いたテキストです。どうぞお楽しみ下さい。
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2023年8月の記事一覧

食人鬼

食人鬼

今はむかし
夢窓国師という僧が
旅の途中美濃の国を通った
夕暮時その日の宿を探し歩いていると
丘の上に小さなあばら家を見つけた
それは
今にも崩れそうな庵であった

中にいたのは
一人の年老いた老僧であった
夢窓は一夜の宿を乞うたが
老僧は断った
かわりに隣の谷にある村を教えた

夢窓が行ってみると
それは十軒ほどの小さな村だった
村長の家に迎えられ
食事と寝床が用意された
夢窓は旅の疲れから

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安達ヶ原

安達ヶ原

いまは昔
奈良時代に入って間もない頃の話
陸奥国安達ヶ原をゆく一人の僧がいた
名を祐慶と言った
祐慶は修行のために紀州の熊野を出て諸国を巡っていた
このあたりは物寂しい野原である
すでに日は沈んでいる
宿を求めてあてどもなく歩いていると
大きな岩の穴を住まいとしている岩屋が目に入った
ほかに人が住んでいる家らしきものは見あたらない
あそこにしようと思い木の枝に覆われた入り口に近づき声をかけた
なか

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耳なし芳一

耳なし芳一

(小泉八雲『怪談』)

昔 むかし 
今から一千年ほど前
下関がかつて赤間ヶ関と
よばれていたころ

都を追われた平家一門は
ここ赤間ヶ関壇ノ浦に於て
源氏との最後の戦いに挑みました
敗れた平家の人々は
ことごとく海の底に沈みました
女子共に至るまで
みずから身を投げたと言います

これからお話しするのは
それから数百年後にあった話です
この赤間ヶ関に
阿弥陀寺というお寺がありました 
そこに一人

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狗神(いぬがみ)『伽婢子(おとぎぼうこ)』

狗神(いぬがみ)『伽婢子(おとぎぼうこ)』

浅井了意、1666年

今の高知県幡多郡、かつての土佐の国畑(はた)という所での話。

天正の頃、一条の殿様を滅ぼした長宗我部の殿様は、この土佐の国の主となった時、ある村を焼いた。
家来に命じて、村を囲む垣根を作らせ、誰一人村から出られぬようにした。
そして、四方から火を放った。
男も女も、一人残らず焼き込(ご)みにされた。

この村の人びとは、「狗神」というものを持っていた。

この狗神を持って

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