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朗読のための古典怪談

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江戸・明治時代の古典怪談を、朗読用に現代語訳して書いたテキストです。どうぞお楽しみ下さい。
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2022年8月の記事一覧

雪女

雪女

昔、むかし。
北国のある山でのお話。
巳之吉という若い木樵がおりました。
巳之吉は、毎年冬になると斧を鉄砲に持ち替えて、父の茂作と狩りに出ました。
ある日、巳之吉と茂作は、獲物を探すうちに烈しい吹雪に遭ってしまいました。
親子は、やっとの思いで小屋を見つけ、
そこで嵐が去るのを待つことにしました。
そして2人は、ついウトウトと眠り込んでしまったのです。

夜。
巳之吉は、冷たい風で目を覚ましました

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牡丹堂、女の執心のこと

牡丹堂、女の執心のこと

        『諸国百物語』1677年

中国の寺には、牡丹堂という所がある。
人が死ねば、棺の中に入れる。
棺の外側には牡丹の花の絵を描き、牡丹堂に持ち運ぶ。
そして、他の棺の上に重ねて置く。

ある男が、妻に死なれた。
男は哀しみのあまり夜な夜な牡丹堂へ行き、念仏を唱えることが何日も続いた。
ある夜、その牡丹堂へ若い女がやって来た。
首に円い形の薄い鐘を掛け、念仏を唱えている。
女が来るよう

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髑髏(どくろ)、物を言う

髑髏(どくろ)、物を言う

             『新伽婢子』

今は昔の話である。
現在の兵庫県西宮市、かつての摂州丸橋というところに、たいへん欲深く人の道に外れた男が住んでいた。
ある時、近隣の里にて頼母子(たのもし)があると聞いて、そちらに出向いて行った。
頼母子とは、何人かの人が集まって金を出し合い、そこにいる誰か一人に、その金を貸すという組合の事である。

さて。そこに至る道中に、墓場があった。
男がここを通っ

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女の生き首

女の生き首

          『新伽婢子』       

今は昔の話である。
京の都に一人の若い僧がいた。
この僧、学びの途上でありながら、人の娘に恋をして深い契りを交わしていた。
ある時、師匠の僧侶から修行を深めるため関東へ下るよう仰せつかった。
女に未練があった僧は、仮病など使ってぐずぐずと出立の日を先延ばしにした。

だが、いつまでもそうしている訳にはいかない。
ある夜、女に暇乞いをして、東に向かお

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夢に妻を殺める

夢に妻を殺める

(夢に妻を害す)
          『新伽婢子』       

今は昔の話である。
都の片原というところに、一人の商人の男がいた。
他国で絹や布を買い付け、都で売る事を生業としていた。

ある夜。いつものように妻と並んで寝ていた男は、眠ったまま床から起き上がった。
夢とも現とも知れず、瞼を閉じたまま枕元に置いてあった刀を掴んだ。
そして、鞘を払うと妻に刃を振り下ろした。
それから何事もなかった

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坂田ヶ池の人柱

坂田ヶ池の人柱

いつの頃の話か、定かでは無い。
人と物の怪が共に生きていた時代の話。

下総国、坂田ヶ池にはヌシが棲んでいた。
それは、一匹の雄の大蛇だった。
梅雨の季節になると、大蛇は池から這い出して長沼に向かった。
長沼に棲む雌の大蛇に会うためだった。

雨が降りしきるなか、龍ほども大きな蛇がウネウネと池の土手をゆく。
人が作った柔らかな土の土手は、もろくも崩された。
池の水がドッ、と村に溢れ出す。
村の人々

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