🇨🇳#4 灼熱の街・トルファンでこの上なく誠実な男に出会う
寝台列車に揺られること13時間半、灼熱の砂漠で有名な街・トルファンにたどり着いた。
改札を出るなり隣にいた男が警察に捕まり、パトカーに連行されるという、金八先生第2シーズンの加藤逮捕を連想する事件が起きたが、鈍行列車で砂漠や荒野を見続けたわたしは感覚が麻痺し、「まあ、そういうこともあるよな」と思って通り過ぎた。
ウイグル人の運転手さんと一路砂漠を目指す
さて、今日は一日車を貸し切ることにした。
ここからスムーズに次の目的地である敦煌へ移動する手段が飛行機しかなく、19:40の飛行機(320元=6400円)に乗る予定なのだが、トルファンの現地ツアーはどれも22:00までかかるのだ。
そこで、現地の観光会社に相談したところ、450元=9000円で、一日車を貸し切れて、しかも、わたしが希望するクムタグ砂漠にも行けるというのである。
そんなこんなでトルファン北駅を出ると、ウイグル族の運転手さんが笑顔で迎えに来てくれた。
わたし「はじめまして、白丸みそ子です」
トゥアルさん「???…し、しろ?」
わたし「お名前は?」
トゥアルさん「トゥアルスンジャン・カギアです」
わたし「???…トゥ…?」
(※)プライバシーに配慮し、名前は仮名とします
結局、お互い速攻で名前で呼ぶのを諦めて、「你(あなた)」で呼び合うことにした。
ちなみに、ウイグル族には苗字がなく、カギアはお父さんの名前らしい。
今回は便宜上、トゥアルさんと呼ぶ。
駅近くから天山山脈が見えた。
ほとんど雨が降らないため、飲水はこの天山の雪解け水が頼りなのだそう。
トルファンの主要な産業はぶどう。
8月に収穫し、そのまま販売したり、干し葡萄にして全国へ流通している。
トルファン北駅から車でおよそ1時間半、クムタグ砂漠(庫木塔格沙漠)に到着した。
新疆ウイグル自治区の北東部から甘粛省西部にかけて広がる砂漠だ。
駐車場は満車。
観光地化していて、入るのに30元(600円)、砂漠の近くへ行くカートの乗車代が30元(600円)かかった。
さらに、ラクダに乗ったり4WDに乗ると、それぞれ130〜160元(2600〜3200円)かかる。
わたしにはそんな元気もカネもないので、じっと砂漠を眺めることにした。
トゥアルさんも、薄々わたしにカネがないことには気づいていて、もはや何のオプションもすすめてこない。
二人で、ただただ砂漠を見つめた。
トゥアルさんに連れて行かれたレストランは…
砂漠ではすることがないので早々に引き上げ、トゥアルさんと昼ご飯を食べに行くことにした。
昨日、正式なウイグル料理を食べていないわたしは、多少お金がかかっても良いので地元の料理を食べたいと思い、トゥアルさんに「羊が食べたい、ご馳走するので」と告げた。
すると、トゥアルさんは早速、ウイグル語で何やら電話を始めたのである。
友達にお店をおすすめしてもらうらしい。
ガイドがお店からバックマージンをもらうのはよくあることなので、200元(4000円)くらいで済めば世界平和のために寛容でいようと思った。
車を停めて飲食店の並びを進むが、どの店も違うらしく、キョロキョロ辺りを見回すトゥアルさん。
そもそも、トゥアルさんも来たことがない店に連れて行くってどうなってるんだ…とだんだん不安になる。
通りを外れたポツンと一軒建っている店に入る。
これは、完全ぼられたかもな…と思った。
そして、メニューを見ると…。
…
「いや、逆に安すぎるだろ…」
どうやら、トゥアルさんはわたしを本気でカネがない人と思い、快餐=安い定食屋に連れてきたのだ。
わたし「トゥアルさん…この店、羊肉の串焼きないんだけど…」
トゥアルさん「あ! すみません… わたし、お願いしてみます」
こうしてわたしとトゥアルさんは辣子肉拌飯と羊肉串を二人で食べた。
二人でたった52元(1040円)である。
下手をしたら日高⚪︎より安い。
そして、安いと思ってナメていたが、この羊のスープが激うまだった。
トマト味のスープにはコクがあり、塩加減がちょうど良い。肉も新鮮だ。
食事をしながら、トゥアルさんにウイグル族のマナーをいくつか教えてもらった。
手を洗ったら手をぱっぱして水をきらないで、布で拭く、食べてる時にツバを吐かない・オナラをしない、弟はお兄さんの前でタバコを吸わない…などだ。
実際、トゥアルさん自身も品がよく、礼儀正しい。
トゥアルさんに年齢を聞くと、多分50才で、身分証上は73年生まれだが、お父さんが言うには75年生まれとのこと。
※中国の田舎では逆サバ読みが結構ある。
その後、わたしとトゥアルさんは家族の話などですっかり打ち解け、わたしはトゥアルさんに「初めての日本人の友達」認定をされた。
食事後はお待ちかねの火焰山へ
わたしが人生で一度は訪れたかったのが、ここ火焔山だ。
西遊記で玄奘三蔵らが天竺を目指して通過する灼熱の山である。
実際の火焔山は、西遊記のように火こそ噴き出してはいないが、夏は気温50℃以上、地表温度は80℃にもなる。
今日は25℃だが、日差しが厳しく、ミニ芭蕉扇が欲しいくらいである。
火焰山は観光地化されている部分もあるが、トゥアルさんはわたしのクムタグ砂漠でのリアクションの低さをみて、「あなたは、ああいう作られた観光地ではなく、もっと自然の景観が好きなのでしょう。これは、ツアー外のアテンドですから、旅行社には言わないでください」と言って、無料の絶景ポイントに連れて行ってくれたのだ。
よって、わたしは火焔山の観光地の中に入っていないのだが、この景色が生涯忘れないであろうくらい、壮大で美しかったのである。
火焔山を満喫したあとは、ベゼクリク千仏洞へ。
ベゼクリク千仏洞は、ウイグルにイスラム教が広まる前に西域仏教が存在していたことを知る貴重な場所だ。
現存する洞窟は57、壁画があるのは40強で、公開している石窟は10に満たず、剥ぎ取られたり削られたりと壁画の損傷が激しいが、一部は鮮やかで、菩薩の穏やかな表情まではっきりと確認できた。
(※)入場料は40元(800円)。残念ながら壁画は撮影禁止
空港へ向かう途中、トゥアルさんが地下用水路「カレーズ」を見せてくれた。
カレーズは万里の長城、京杭大運河とともに中国古代三大プロジェクトと言われている。
一体どういう技術なのかわからないが、全長は5000キロ、1100線ぐらいあるそうだ。
天山山脈などの地下に溜まった雪解け水を、乾燥地帯で暮らす人々に届ける重要な役割を担っている。
ちなみに、トルファンにはカレーズ博物館もあるのだが、そこへは行かず、わたしが訪れたのは、トゥアルさん曰く「秘密の場所」というカレーズだ。
トゥアルさんは、体育教師のグラウンド百周してこいくらいの無茶振りで、「一緒に飲もう」という。
いや、浄水処理してるかわからないし、無理…。
しかし、せっかくの友情に傷をつけないために、一応、2ccくらい摂取してみた。
明日、わたしの腹に何かあっても、後悔しない自分でありたいと思う。
18:00、空港でトゥアルさんといつかの再会を願って別れた。
すると、少ししてから、彼が空港に入ったわたしを追ってくるのである。
何事かと思うと、先ほどわたしが少女から買った10元(200円)の干し葡萄を手に持っている。
実は下車してすぐにそれを思い出したが、荷物は既に13キロあるし、0.5キロ増えるのはしんどいので、トゥアルさんが気付いてメールをくれたら、彼にもらってもらおうと企んでいたのだ。
結果、トゥアルさんに迷惑をかけてしまった。
そして、彼はどこまでも誠実な男であった。
その後、19:30のフライトで、21:00、無事敦煌に到着。
明日は自力で莫高窟へ行く予定だ。
とりあえず、敦煌名物のロバ肉ラーメンを食べて寝ることにする。
おやすみなさい💤