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最初で最後の手紙…Ep8(S様)

初めて見る
真冬の夜明けの日本海は
絶壁に打ち付ける波そのもの
それはそれは
荒波で
それはこちらの懐に
入り込み
ひきずり降ろそうとするかのように

もしくは
大波の先の雫を集めて
纏わりつくように
襲い来るので

私は思わず
身をすくめて
あなたの背の後ろに
隠れました

後ろから見上げた
あなたの目は
その荒波を見つめていた
初めて見る何かに
そこに
意味を見いだそうとしているかのよう…
そして
いつもよりもっと
無口でした
今日までの日々
少しずつ
あなたのことばが
挨拶だけになっていくことが
辛く悲しかった

それは
第三者が見ていても
わかるほど
ごまかしきれない
空気とも言えて…

目の前の
嵐のような
水のうねりを
見つめながら
何を思っていたのですか?
怖かったですか?
どうして
ここにいるのかと
そう後悔…でしたか?

握った手と手は
いつまでも
冷たかったですね

暖め合った日も
確かに
あったのに…

私たちそのものが
冷たいのか
それとも
包む風が
冷たいのか

冷めていた心を
取り戻すために
空気を
変えるために
ここに来ましたが

あなたは
あなたの心は
もっと遠くに
行ってしまいました
冷たい手と手が
離れる瞬間は
こうして
わかるものですね

あなたは
やっぱり
雪も降らない国が似合う

だから
私は
祈ることにします

あの公園の
夏の
あの大きな木の
緑の葉っぱの
木漏れ陽溢れるあの場所で
また
会えることを

その時は
私の手を
握ってくれますか?