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初めての紅茶作り
当園では新茶(1番茶)しか摘まないため、例年それ以降伸びてくる茶葉は刈り捨てで茶園管理をしているのだが、2番茶の良い芽を見ているとやはり刈りたくて気持ちがざわついてくる。
かつてはうちでも2番茶を刈っていたが茶相場と工場稼働費人件費肥料代等の兼合い問題で刈らなくなって久しい。当然仕上がる緑茶の味も考慮しての判断だが、要するに作るより買った方が安い局面。
それにしても2番茶の芽が良い。今年は特に良い気がする。これを何とか利益にできないかなぁ、農業の構造的な問題だなぁ、などと茶畑を見ながら愚考し、それにしても良い芽だなぁとまた思った。そして紅茶作りは春摘み新茶よりも夏摘み2番茶の方が成分的に向くと聞くしうちで現行で売っている鹿児島産紅茶も2番茶仕上げだし上手く出来たら商売になるかもしれない、と思いまずはうちの設備でも出来るのか試しにちょっと作ってみようと思い立ち、2022年6月9日、紅茶作りに初挑戦した。
以前から紅茶作りに興味はあったので、インターネット等で大体の製造工程はリサーチ済で、一見うちの製茶機械でもやれそうだが紅茶専用の機械は一切無いし実際どうなんだろう?途中までやって上手く出来なかったら嫌だなあなどと思っていたが、今年遂にやってみる気になった。
紅茶と緑茶の違いを簡単に述べると紅茶は完全に発酵させて仕上げるお茶、緑茶は発酵させずに仕上げるお茶です。烏龍茶や萎凋茶は少し発酵させたお茶です。焙茶は緑茶を炒った茶色いお茶です。
以下、紅茶作りの基本的な工程です。今年やった事を備忘録を兼ねて記しておきたいと思います。
① 萎凋 (茶葉をしおれさせる)
② 揉捻 (しおれた茶葉をこねる)
③ 発酵 (捏ねた茶葉を発酵させる)
④ 発酵止め (熱で茶葉の発酵を止める)
⑤ 乾燥 (茶葉の乾燥)
因みに日本で作られる紅茶は”和紅茶”とか”地紅茶”といわれております。古くは明治時代から生産されていました。昭和となり戦後になると輸出する程に生産されていた事もあったようですが、昭和46年、海外産紅茶の輸入が自由化されると国産紅茶の生産量は激減の一途を辿りました。話が逸れるがこの辺りから第1次産業の構造的な問題も始まっている気が。以降は日本各地で細々と生産されていましたが、2000年代に入り海外の紅茶品評会での日本産紅茶の受賞等があって、再び脚光を浴びるようになりました。国外国内で注目度が高まるにつれ消費者ニーズも高まり、近年では生産量も増えております。
廃れたときに生産を止めないで生産製造技術を次世代に繋いでくれた先人達に大大大感謝です。
2番茶の茶の良い芽。紅茶作りにチャレンジしようと決意。まず良さそうな畑を70〜80キロくらい刈る。
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古い下っ葉や棒が入らないように浅く刈る
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萎凋
刈った茶葉を工場に薄く広げ扇風機で風を当て続け(20〜24時間)、茶葉をしおれさせる。工場に足の踏み場がなくなり他の事が出来ない笑
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作業に必要な温度湿度計購入
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約14時間後
工場にフローラル&フルーティーな萎凋香が漂いだす。時々混ぜつつ万遍なく風を当てる。
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18時間後
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約20時間後
萎凋止める。萎凋工程では茶葉水分を約半分まで減らすとの事だが、正直よく判らず、しおれた茶葉を触った感覚や香りで判断した。後述の揉捻機にかけた時の水分量を見ると、もう少し風に当てた方が良かったのかもと今は思っている。
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揉捻-粗揉機
火なしの粗揉機に茶葉を入れて撹拌。回転する"揉み手"で茶葉の細胞組織を破壊し、萎凋によって活性化した酸化酵素を外部に絞り出すことにより酵素が更に活性化。酸化発酵を促進。約10分。
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良い感じに傷んでいます。酸化も進み色も変わりました。
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揉捻-揉捻機
重しを載せて茶葉を揉みこむことにより、茶葉組織の破壊を進め、更なる酸化発酵の促進と均一な発酵を目指す。重さの強弱で茶葉が玉にならないようにコントロール。約1時間。
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途中揉捻機の下に灰汁的な水分がボトボト落ちて焦る。もう少し萎凋し、水分を減らすべきだったのかなと思う。
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発酵
揉捻機から出した茶葉。捏ねた茶葉は茶色くなる。色も均一で良い感じだと思う。発酵室で更に発酵させるのだがそんなものは無いので茶葉コンテナを密閉して利用。発酵むらが起こらないよう高さ10cm以上にならないように均一に広げる。温度25℃、湿度90%で90分。紅茶的な香りが工場に漂い始める。
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温度湿度のコントロールの難しさ。厳密にできない。途中からあまり気にしないようにした。発酵室内温度は発酵時間の長短でコントロールすればよいかなと思う。
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90分後!紅茶の香り!
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そして紅!!
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これを淹れて飲んでみたら香りも味も紅茶でうける。飲んでみたところ、発酵の度合いも大丈夫そうなので乾燥へ。
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乾燥-中揉機
熱で発酵を止める。まだ湿っている茶葉の乾燥も開始。中揉機という機械。熱風を送りながら中で茶が回転。試行錯誤の結果、やり慣れたぐり茶と同じセッティングで大丈夫そう。
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乾燥-通気式乾燥機
通気式乾燥機で更に乾燥。120℃、30分位で出るように調整。これで発酵も完全に止まるはず。緑茶製造でいう荒茶が出来上がる。
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乾燥-回転式乾燥火入機
通気式乾燥機完了の状態で味も香りも紅茶になっているが、緑茶でいう荒茶の状態なのでかなり迷ったがもう少し火を入れてみる事にした。茶葉形状がしっかりしているので回転式を使う。火を入れすぎると紅茶の香りが飛んでしまうのではないかという疑念が消えず、首っ引きで匂いを確認しつつ時々出しては飲みながら火入れ終了。
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色んな温度で出して試飲。このくらいで良いという確信よりも、これ以上やるとやばいかもという焦りで火入機から出した。これを確信で出せるようになりたい。火入れが1番難しかった。今はもっと火を入れても良かったのかもと思っている。
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出来上がり!初めてにしては上出来と自画自賛。棒や下っ葉が入らないよう浅めに刈ったので形状も良いと思う。仕上機にかけなくても大丈夫そう。これを数ヶ月寝かせると味が馴染んで旨くなるとの事なので寝かせてみます。
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現状の味の感想ですが、基準としているうちで販売中の鹿児島産紅茶より少し荒々しい感じはします。現時点で謎の酸味もほんの少し感じます。途中工程で何かがベストではなかったのか?現行販売中の九州産紅茶の品種は "べにふうき" で、うちのは "やぶきた" なので、この辺も影響しているのか?現時点の味が、寝かせる事によって良い方向に変わるのか?とても興味深いです。
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自分で作ってみると他も気になる。うちで売っている鹿児島産紅茶や最近買って色々飲んでみた静岡産紅茶と比べても悪くないんじゃないのと自画自賛。ビギナーズラックの可能性も高いけど(笑)そして水出し紅茶もありです。美味しい!
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以上、初めての紅茶作りでした。茶葉70〜80キロから約9kgの自園和紅茶ができました。来年もやってみようと思います。萎凋スペースと発酵スペースの確保が出来ればもっと作ってみたいくらい面白かったです。こんなにちゃんとした紅茶が出来るならもっと早く挑戦しておけば良かったと後悔しきり。今回はタンニン・カテキンの含有量的に一番向くと言われている”セカンドフラッシュ”(2番茶 夏)での紅茶作りでしたが、摘む時期によって味も香りも変わるそうなので、”ファーストフラッシュ”(新茶 春)や”オータムミル”(秋冬番茶)の紅茶もできれば作ってみたいと思いました。今、和紅茶にめちゃくちゃ興味を持っているので、まずは先輩たちの和紅茶をいろいろ飲んでみます。
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番外編
番外編に今年の新茶の模様を持ってくる暴挙。
正直インスタグラムにその都度出来事を投稿していると、ブログの事は忘れてしまいます。楽しみに待っていて下さる変わった方(←失礼w)もいらっしゃるので何とか頑張ろうと思っております。
自社茶園の刈りはじめ4/27~5/10刈り終り。一同事故怪我なく無事完走。感謝。
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なんだかんだで例年並みに始まり例年並みの終わる。
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収穫量:約3,000kg(自社茶園分 刈番含む)
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賃加工引き受け:約7,000kg
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年々減っていた賃加工引き受け量は下げ止まった感。
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ここ10年、他の製茶工場が営業を止めた分の賃加工をうちが引き受けての毎年前年比減なので伊豆半島の茶生産量は加速度的に減っている模様。
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DECLINE!
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涙。
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中切りでもやって気分転換5/12~5/13。後半雨中決行。
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40日後の新たな芽吹き。6/22。がんばってやってればそのうち良い事もあるら!
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茶刈機の限界。30年選手だがまだ頑張ってもらわないと困るのでシーズン終了後に修理へ。修理費が想像の倍以上で落涙。良い事など無いと思う笑
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↓去年の新茶の様子。中切り含む。↓
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