【金曜日のしかけ#20】この指とまれ採用
すみません!「日刊7秒しかけ」なのですが
毎週金曜日は「7秒しかけ」ではなく、フツーの会社の「すごいしかけ」を紹介します。
「すごいしかけ」とは、GoogleやAmazon等の一流企業が実践しているしかけではなく、隣の優良な中小ベンチャー企業にしかけ研究家白潟がインタビューさせてもらい発見したしかけです。
この記事ではネームバリューや業界特性ではなくすごいしかけや社長の工夫をニュートラルに読んでいただきたいので会社名は最後に紹介します。
ただ、気になるかと思いますので、社長の名前だけは先に公開したいと思います。
第20弾の「すごいしかけ」は種田(おいだ)社長の「この指とまれ採用」です。
社長、すみません!
「この指とまれ採用」ってイメージわきますか?
『この指とまれだから、私の指にとまった人を採用するってこと?』
はい、そうです。社長の指って何だとイメージしますか?
『私の指か、MVVかな?』
まさにその通りです。MVVを言語化していない社長は社長の「譲れない想い」や「大切な価値観」になります。
なので、「この指とまれ採用」というのは会社のMVVに賛同している人しか入社してもらわない採用手法です。
『白潟さん、うちはすでにMVVに合った社員しか採用しないようにしているよ!』
社長、すばらしいです。ぜひ継続してください。
ただ、今回は「この指とまれ採用」の徹底度合いが群を抜いているしかけなので紹介します。一読してもらえると幸いです!
種田社長の会社は従業員数100名ほどの会社ですが、
直近3年間で離職率1%~2%という奇跡的な数値を実現しています。
(もちろん離職率が低いことが必ずしも良いこととは限りませんが…)
社長に読んでもらった後、
『うちでもこのレベルで徹底しないとな!』
と思ってもらえたら嬉しいです。
それでは、「この指とまれ採用」を紹介していきます。
1 この指とまれ採用の内容
どのくらい、「この指とまれ採用」を徹底しているのか。
採用への考え方と実践方法の2つに分けて紹介していきます。
(1) 採用への考え方
種田社長の中核の考え方は
「人が足りないから」という理由では絶対に採用しないことです。
「人が足りない」状況で採用すると、時間の制約があり妥協して採用しがちになり、MVVに合った社員を採用することが実現しにくくなるからです。
採用の基準は常に「MVVに合っているか?」だけ。
人が足りていても、MVVに合っていれば採用します。
『白潟さん、それは理想論だけど現場はそうはいかないんじゃないの?』
はい、その通りです。
種田社長は理想論を命がけで実践している数少ない経営者だと思います。
どうして、そこまで「MVVに合っているか?」の採用にこだわり続けるのか
その理由は次の2つです。
① 合っていない人を採用すると社員が不幸になる
社員にとって「誰と働くか?」は極めて重要なことです。
考え方が合っている人と働くことができれば、
社員は幸せを感じやすいです。
一方で考え方が合っていない人と働くことは、
社員にとって大きなストレスとなります。
厚生労働省の調査によると「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者」のうち、3番目に多い約27%が対人関係のストレスを抱えています。
(ちなみに1位は仕事の量・質で56.7%、2位が仕事の失敗・責任の発生等で35%です)
やはり多いですね。
種田社長は社員の幸せために、MVVにあってる人を採用し続けています。
② 入社してもらうよりも退社してもらう方が大変
入社の際は雇用契約書にサインをしてもらうだけなので、極めて簡単です。
しかし入社してから「実はMVVに合っていない」と分かった場合は大変です。日本では解雇ができませんから、とても慎重な対応が要されます。
社労士や弁護士に相談しながら進めていく場合もあるでしょう。
「足りないから」という理由での採用は、短期的にはとても助かります。
しかし中長期的に見ると、時間的負荷も、精神的負荷も増すことになります。
(2) この指とまれ採用の実践
ここからは実践編です。
種田社長がどのように「この指とまれ採用」を実践しているのか。
肝は3つです。
① 自社の大変なところを全てオープンにする
② なぜそれをやっているのか?想いを熱く語る
③ 求職者に「耐えられるか?」と問う
順番に紹介していきます。
① 自社の大変なところを全てオープンにする
入社前と入社後のギャップ(リアリティショック)を無くすことは、極めて重要なことです。
エン・ジャパンが2023年に行った2,626名へのアンケート調査によると、
79%の方は入社前後のギャップがあったと回答しています。
さらに、そのうちの55%は入社前後のギャップが理由で、
退職をしたことがあると回答しています。
このことからも、入社前後のギャップを無くす重要性は分かると思います。
種田社長は実際に、
・ 入社後はとにかく勉強しないといけないこと
・ 自社の専門知識ではなく人間力も総合的に磨いていく必要があること
・ 生きている限り一生成長し続けないといけないと考えていること
などをじっくり語り「自社で働くことがどれくらい大変なことなのか」伝えています。
② なぜそれをやっているのか?想いを熱く語る
ただ大変なことを伝えるだけでは意味がありません。
重要なことは
「なぜそれをやっているのか?」という社長の想いを熱く語ることです。
種田社長はつい最近まで、会社説明会も面接も、
全ての選考プロセスに関わっていました。
ここ数年は会社説明会だけは別の社員に任せているようですが、
それでも最終面接は2時間、種田社長と候補者でじっくりと話し合います。
その場で社長の想いを熱く語るのです。
例えば、種田社長は自社の経営理念や自身が大切にしている価値観観を語ることで「なぜそれをやっているのか?」に答えています。
かなり省略していますが、こんな想いを種田社長は語っています。
すると候補者の方からいろいろな疑問や質問が来ます。
それに答えていくうちに、候補者は「この会社で働くということ」を心の底から理解できるようになります。
③ 求職者に「耐えられるか?」と問う
最終面接時に頃合いを見て、種田社長は候補者に問いかけます。
「耐えられそう?」
Yesであれば採用。Noであれば不採用です。
実際に候補者の約8割が「No」と言うそうです。
種田社長はその割合でも良いと考え受け止めています。
だからこそ離職率1%~2%という驚異の定着率を実現できています。
2 このしかけのすごいところ
① 社員の生産性が上がる
前述した通り種田社長は「人が足りないから」という理由では絶対に採用をしません。
現場で人員不足が叫ばれても、それは同じです。
すると現場は何とかして生産性を上げようと必死になります。
この必死の環境が現場の社員に知恵を出させ、根本的で劇的な業務改革を実現させるのです。
結果的に社員一人ひとりの生産性が向上するので人の補充をしなくてすみます。
会社全体の生産性向上にも繋がっていくでしょう。
② 社長の意志が固い
「この指とまれ採用」を実現するには、社長に鉄の意志が必要です。
現場が回らない、忙しくてあくせくしている、そんな状況下では
つい社員を採りたくなってしまいます。
そちらの方が断然楽に見えるからです。
しかしMVVに合っていない社員を採用すれば、マネジメントの負荷が増え
一緒に働く社員のモチベーションは下がります。
そこを冷静に判断し、猫の手も借りたい気持ちをグッとこらえて、「MVVに合っていないから採らない」という決断をする必要があります。
生半可な覚悟ではできないことだと思います。
3 自社に導入する際の工夫・注意点
① この指とまれ採用の徹底度合いは調整してもよい
今回のしかけでは「人が足りていない」という状況では絶対に採らないという徹底ぶりでした。
ただ実践が難しい場合は、緩やかな「この指とまれ採用」から試していくのも1つのやり方です。
「MVVに合っている人だけ採用する」というのではなく、「MVVに合っていない人は少なくとも採用しない」から始めていくと取り組みやすいです。
② 現場との調整が必要
今回のしかけのように、「人が足りないから」という理由では絶対に採用しないを徹底していくと、現場はどうしても苦しくなります。
現場で疲弊が重なると、社長への不信感に繋がる恐れもあります。
現場の限界が近いときは社長自ら別の案を考えたり、仕事の整理をしたり、現場へのサポートをした方がよいでしょう。
③ 一時的に離職率が高くなる可能性がある
「この指とまれ採用」を実践していくと、MVVに賛同したメンバーの比率が徐々に高まっていきます。
そうすると、今まで面従腹背していたメンバー、すわなち社内に潜んでいた「実はMVVに賛同していなかった」メンバーは徐々に居心地が悪くなっていきます。
そんなメンバーが多い会社では、一時的に離職率が上昇します。
しかし限定的な事象なので、数年も経てば非常に低い離職率を実現できているはずです。
4 すごいしかけの会社はコチラ!
すごいしかけ「この指とまれ経営」を実践されている会社は、本社が愛媛県四国中央市にある『Just in Just』を経営理念に掲げているジャスティン株式会社です!
義理人情に厚い種田社長が経営されておられる会社です。
現在、工業用のパッキン・ガスケットを主軸に製造している会社です。
「この指とまれ採用」のすごいしかけを気に入ってもらえたら、「日刊7秒しかけマガジン」のフォロー頂けると嬉しいです!
それでは、また来週!