中世 【幻想詩】
新潟県上越市の海岸近くに
安寿姫の墓がある
その二キロ先に
親鸞聖人は漂着した
中世の波が
寄せては返す
シャッター街やイオンモールや
社宅の一室にまで
瞽女の悲しげな歌声にのって
寄せては返す
昭和初期
街なかの小さな映画館に
一匹のライオンが棲んでいた
ライオンは呪いをかけられ
銀行前の石像になった
古い映写機のフィルムが絡まり合う
100年前の映像と10年前の映像が
二重写しになる
リールがカタカタと音を立てる
上杉謙信の騎馬隊が
濛々と土けむりを上げながら
走り過ぎていく
幻想は執拗に繰り返す
いま、街を一望できる城跡には
毘沙門天と古い井戸が残っている
中世が寄せては返す
(南無阿弥陀仏)
50年前の豪雪で
この街は地上から消えたとされている
だが
地下世界に張り巡らされた根茎の中で
人々は生き永らえた
雁木通りに強い海風が吹き寄せる
(南無阿弥陀仏)
厨子王、恋いしや、ほうやれ
安寿の姫、恋いしや、ほうやれ
瞽女の歌声が聞こえる
舟は泣き別れ
板子一枚下は地獄
安寿姫の慟哭が風に消えていく
放浪記の街
南無阿弥陀仏
南無阿弥陀仏
中世の潮鳴りが寄せては返す