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【SS】妖精のパトロール(1023文字)
本日、平和の妖精がパトロールをするのはJRの駅です。
妖精がホームに入ると、人でごった返しています。
どうやら強風の影響で電車が止まっているようです。
「おい、コラ。急いでんねん、はよ動かせや。」
「申し訳ございません。運航開始見込みは分かりかねます…。」
今にも掴みかかりそうなおじさんと、ひたすら謝り続ける駅員さんです。
妖精は魔法をかけます。
「そおれ!無抵抗者の反撃!」
魔法にかかった駅員さんはおじさんの顔をまっすぐ見据えて言います。
「いい加減にしてください。
私たちの使命はお客様の安全を守ることです。
あなたおひとりの都合を優先するわけにはいきません。」
自分に従順だと思っていた駅員さんから予想外の反撃をうけビックリしたおじさんは、すごすごと立ち去っていきました。
***
風がやみ、電車が動き始めました。
妖精が電車内に入ると、二人組の主婦が大きな声でおしゃべりしています。
「そしたらさあ、私の機嫌とれると思ったのか旦那が急にプレゼント買ってきたのよ。」
「え、それ逆にムカつかない?」
周りの乗客の迷惑そうな様子に全く気がつかないほど、おしゃべりに夢中です。
妖精は魔法をかけます。
「そおれ!子供の無邪気な一言!」
主婦たちの目の前に座っていた小さな子供が魔法にかかりました。
彼女らの顔をまっすぐ見据えて言います。
「ねえねえ、僕のママは電車では静かにしなさいって言うよ。
なんでおばさんたちはしゃべってもいいの?」
嫌味のない子供からの純粋な問いかけにビックリした主婦たちは、周りを見渡したあと恥ずかしそうにうつむきました。
***
日が暮れてきました。
妖精が改札を抜けると、目の前に喧嘩をしているカップルがいます。
デートで何かトラブルでもあったのでしょうか。
「いい加減にしてくれよ。いっつも急に不機嫌になるし意味わかんねぇ。」
「そんな言い方なくない?…もういい。」
妖精は少し考えてから、魔法をかけます。
「そおれ!大寒波!」
ふたりの間を冷たい風が通ります。
急激な気温低下に驚いたカップルは無意識に身を寄せ合いました。
そのまま顔を見合わせて、ふふっと笑い合いました。
「寒いからおでん食べたい。」
「じゃあセブン寄ってくか。今日たしか70円セールだわ。」
「やった、ラッキー。」
ふたりは手をつないで帰っていきました。
***
一日の仕事を終えた妖精も家に帰ります。
暖かい炬燵で、キンキンに冷えたビールを飲みながら、おでんをつつきます。
今日もよく働きましたね。自分に乾杯。
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