難波宮跡・平城宮跡の整備のまずさ
(最終更新:2023年10月)
難波宮跡や平城宮跡の整備が進んでいますね。それ自体は良いのですが、何というか並行して余計なことも進んでいるというのが現状です。
まず難波宮跡。大阪城公園と難波宮跡の間にあったNTT西日本本社が移転したので、公園を拡張出来てええやんと思っていたら、跡地にはNTTがホテルを建てるとのことです。せっかくビルを撤去して美しい景観を創出できる機会だったのに、なんとももったいない…。
景観という面のみならず、機能的にも、国民が誰でも等しく便益を得られる公共施設としての側面と、料金を払った者のみが便益を得られる商業施設としての側面の間の隔たりは大きいものです。ましてやNTTは「国際競争力強化に資する宿泊施設」を建てると発表しているので、要は訪日外国人向けのホテルになるんですよね。
NTTにそうして儲けたお金の一部を史跡公園の維持費に充ててもらうことで、財政負担を軽減せんとするのが最終的な目的で、つまりPFIということですな。この訪日外国人が落としたお金で文化財を維持していこうという通称「儲かる文化財」理論は、観光立国政策の根本的な要素の一つですが、結局のところ儲からない文化財の保全がないがしろにされるという状況を生み出しています。
儲かる文化財はPFIなんかをやって、儲かりそうにない文化財には適切な財政支出を行えば良いだけの話ですが、全くそうなっていないのは、政策の本旨が文化財の保全ではなく、公共財を用いた金儲けにあるからと言えるでしょう。
というか、文化財のみならず、公共財全般を儲かるか否かで見たらええやん、というのが大阪維新の基本的な姿勢です。恐らく維新基準では、御堂筋・大阪城・夢洲が三大儲かるエリアになっていて、これらに公共投資を集中させている感じになっています。逆に、これら以外は徹底して節制していて、そのうち御堂筋以外の街路樹は全部切り株か雑草の放置プレイになるのではという勢いです。でも不思議なもので、テレビでは「御堂筋が綺麗になった」としか言わないから、維新すごいと思う人が大勢いるわけで、上手いことやってますわ。実は大阪と平壌は同じことをやっているのだ…。
それはそうとして、実は儲かってない公共財というのもそれなりに社会の役に立っているわけで、というか民間企業は儲からないからやらないけど社会的に必要なものを公共財として政府や自治体が供給してるんだから当たり前なんですが、それを安易に切り捨ててしまうと、例えば経済成長率が全国平均を下回ったり、人口あたりコロナ死者数が圧倒的日本一になってしまったりするんですよ(実話)。まあ維新支配が続く限り、万博とかの見世物だけ上手くいって、大阪関西の地盤沈下は不可避ですね。
話が脱線してそのまま二度と帰ってこないのではと思いましたが、話を戻して、難波宮跡ですが、実は当の大阪市が定めた保存活用計画や整備基本計画では、NTT本社の場所は史跡追加指定して公園としての環境を整備するとされています。また、東方官衙の直上にあるアネックスパル法円坂(大阪市教育会館)も、計画の上では史跡指定するべきとされていながら、建て替え工事が始まっています。「ホテルは史跡から外れているので問題ない」とする声があるようですが、歴史的価値が低いから史跡に指定されていないのではなく、建物があるから史跡指定されていないんですよね。
果たして平成24年度策定の整備構想案が実現する日は来るのでしょうか。子や孫の世代までかかりそうですね。翻って、今度は平城宮跡の話をしましょう。「奈良時代を今に感じる空間」というのが閣議決定された平城宮跡の整備方針ですが、宮跡への主要経路たる大宮通りと三条通りは典型的な米国式ロードサイドの光景が広がっており、全くもって古都にふさわしい趣を欠いています。かつてここにあった在日米軍の慰安施設を彷彿とさせますね。
それはさておき、朱雀大路の復元は良いとして、その脇にどんだけ公共施設を建てたら気が済むねん!というのが我々奈良市民の多くが抱いている感想です。難波宮跡とは打って変わって、平城宮跡はよくわからない公共施設を量産しています。本当は民間の資金をもっと入れたかったそうですが、微妙な感じになっています。なるほどここは世界遺産でありながら比較的「儲からない」場所なのだなと理解していただければ幸いです。
ちなみに平城宮跡は国営公園の部分と県営公園の部分があって、流石にインフラは国営部分がかなり優れていますが、維持管理は長年のノウハウがある県の方が得意らしく、県営部分は綺麗なのに国営部分は草刈りの頻度をミスって雑草が伸び放題になっていたりします。当然、ホームページも2つ用意してございます。きっちりと縦割り行政の弊害が現れている点は清々しささえ感じますね。お前らちょっとぐらい協力しろや…。
朱雀大路付近の公共施設群ですが、現時点で建物が5棟もあります。国の展示施設兼管理施設と、県の管理施設、飲食店、物産店、団体客用待合室の計5棟です。正直、2棟でいけると思います。1つの公園に国と県で2つの管理施設を建てるなんて、芸術点が高すぎますよ。飲食店と物産店は、隣接していながら双方トイレ完備で、なおかつ明らかに持て余している空間があります(行けばわかる)。そして団体客用待合室は、建物内にトイレと自販機と修学旅行生が入るには少し狭い中途半端な空間しかない、謎に包まれた施設です(行けばわかる)。そしていつの間にやら物産店は飲食店の横に移転し、それまで物産店が入っていた建物は空っぽになりました。というわけで、2023年現在では実働3棟となっています。
更に、公共施設の整備はまだまだ続きます。今後、朱雀大路東側地区と平城宮跡南側地区の整備が行われる予定で、東側地区には正倉院正倉を模した歴史体験学習館が建設されます。東側地区の更に東には、現在創価学会の奈良会館がありますが、これも買収して公園になる予定です。南側地区は、朱雀大路の延伸用地の他は暫定的に駐車場になっていますが、何を建設するかは未定です。ホテルとか市役所とか色々な話が出たり消えたりしています。南側地区の整備検討委員会は、「未成熟な情報を公にすることにより、県民等の誤解や憶測を招くおそれがあるため」非公開になっているという迷走っぷりを見せています。
結局、南側地区は芝生広場を主体とする公園にすると決められましたが、2023年5月に奈良県知事に就任した維新の山下さんが東側地区と南側地区の双方を白紙撤回しました。知事は有効活用したいと述べているようですが、具体的な情報は全然出てきていません。個人的には、朱雀大路の部分だけきちんと整備してくれれば後は何でもいいのですが、中心部の再開発で無党派層の票を得てきた維新が、このような郊外の土地をどう活用していくのかは気になるところです。
それで、この朱雀大路周辺の一連の開発について、より深く考えていくと、日本の土地利用の問題に直面します。かつてここには在日米軍の慰安施設があったと述べましたが、米軍が撤退した後、跡地は工場となり、最近になってその工場が移転するというので、平城宮跡と一体で整備しようと奈良県が土地を取得したのが、この朱雀大路の周辺の土地なんですね。戦前まで、奈良市街地はもっと東にありましたが、戦後になって徐々に西進し、今日では平城宮跡の南一帯は郊外型の大型店が立ち並んでいます。
だから、平城宮跡の存在が事態をややこしくしていますが、問題の本質は、これから衰退していくであろう郊外のロードサイドをどうしていくのか、という点にあります。ロードサイドのみならず、郊外の住宅地なんかも含めて、元々農地や森林だった場所を、戦後一貫して開発してきたわけですが、いよいよ人口減少が本格化するにつれて、それらは余剰となる運命にあります。正しい筋道としては、中心市街地や交通結節点から遠い場所から順に農地・森林に戻していくことが考えられますが、現行制度ではそんな状況は全く想定されていません。
今回の土地は、積水化学の所有地だったので、工場撤退後は積水ハウスが住宅地にするという計画になっていましたが、立地から奈良県が公共施設を建てるという結末になりました。しかし、これがよその土地ならどうだったか。住宅地にするのは、中心市街地の空洞化が叫ばれ、なお空き家が急増していく現在、全く不適切な開発です。最近では太陽光パネルを敷き詰めるという手法も流行していますが、再エネ補助金があるから事業者は儲かるのであって、土地利用としては悪手でしょう。太陽光パネルは屋上か壁面か砂漠のみに限定すべきです。
とにかく、人口は減るし、産業のIT化も進むので、特に地方や郊外の土地はどんどん余っていきます。だから、その土地は農地や森林にして、自民党は全くやる気がないと思われる食糧安全保障や環境対策などを進めていくべきです。そのためには、現行の土地、都市計画、財政、税制など、色々抜本的に改める必要があるでしょう。
なんか雑な運びでしたが、難波宮跡や平城宮跡の整備から、もっと大きな問題を論じてみたという話でした。おわり