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書評:スティーヴ・キーン『次なる金融危機』

新古典派経済学の陥穽とポスト・ケインズ派経済学の座標軸

今回ご紹介するのは、スティーヴ・キーン『次なる金融危機』という著作。

近年、特にリーマンショック以降であろうか、約30年に渡ってマクロ経済学の領域で権威を誇った新古典派経済学(いわゆるニュー・ケインズ派)、および当該経済理論に基礎を置く政治思潮である新自由主義の綻びが盛んに議論されるようになった。

端的に言えば、リーマンショックのような経済恐慌を回避できなかったことに端を発すると言って良いだろう。

そしてそれらに変わるマクロ経済的主張として俄かに脚光を浴びてきたのが、ポスト・ケインズ派と呼ばれる経済学派である。

実はポスト・ケインズ派は最近になって生まれた学説ではなく、新古典派経済学の隆盛の裏で脈々と研究が続けられ、その理論を磨き続けてきた歴史がある。

本著は、新古典派経済学の陥穽の本質を穿ちつつ、ポスト・ケインズ派の理論的中核を示す良書である。

新古典派経済学は、ミクロ経済学から直接導かれたDSGEモデルをマクロ経済学の本丸としてモデル構築を行ったが、ここには社会科学が言うところの「合成の誤謬」に対する危機感が欠落していたこと、つまりはミクロの積み重ねが必ずしもマクロの最適を保障するものではないことを見落としていたとする。

そしてこうした思考に陥った思考的原因は、従来西洋が伝統的に準拠してきた要素還元主義的に求められると批判する。

対してポスト・ケインズ派経済学については、通貨発行と金利の仕組みを中核にマクロ経済の動力を紐解いていく。

なお本著は、本文のみならず訳者赤木昭夫氏による解説がまた名文で、現代マクロ経済学の座標軸と座標点を提供してくれる点も見逃せないだろう。

主流派経済学の裏には国際金融権力ありなどという陰謀論がまことしやかに語られることもあるが、学術的な主張の違いを押さえれば良いし、その為には本著は最適だろう。

これからのマクロ経済学の主流争いにおいて、必ず脚光を浴びる主張になるはずのポスト・ケインズ派経済学について、クイックにレビューするには最適な著作だ。

読了難易度:★★☆☆☆
新古典派経済学の問題点指摘度:★★★★★
ポスト・ケインズ派経済学のポイント紹介度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★★

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