ウェーバーの合理化とその問題点


ついに20世紀の思想家の回になりました。今回はマックス・ウェーバーです。

ウェーバーは「リベラルなナショナリスト」と評されています。彼の課題は祖国ドイツが抱える道徳的・政治的諸問題を近代西欧総体の問題の一部として普遍的な視野から捉え直すことでした。

具体的には、人間の疎外(本来持っている力が外的に抑えられていること)を自らの思想的課題にしています。ウェーバーは疎外を経済から論じたマルクスやキリスト教を批判したニーチェに影響を受けていました。

主知主義的合理化

ウェーバーを理解するキーワードは「主知主義的合理化」です。

・世界の脱魔術化

・決定不可能性の除去

などと言い換えることが出来ます。

世界の脱魔術化は呪術と宗教の差異に見ることが出来ます。呪術と宗教には違いがあるのです。

呪術は神強制です。上位の存在であるはずの神を呪術でコントロールできるからです。雨ごいなどが典型でしょう。

神強制によって、人間と神の関係が決定不能になります。呪術から決定不能性を除去すると宗教になります。

宗教は神奉仕と言って、神は人間に対して絶対的に超越しており、人間が神に影響を及ぼすことは出来ないという考え方です。この考えを突き詰めたのがカルヴァン派の予定説です。「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という著書で考察されています。

予定説とは、誰が救済されて誰が地獄に行くかは神によって予め決定されているので、それを後から覆すことはできないということです。

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』が面白いのは、予定説が資本主義的人間像を生み出したという主張です。この主張は一見奇妙に映ります。誰が救われるか(お金持ちになれるか)が予め決まっているならば、頑張っても頑張らなくても同じであるはずだからです。

ウェーバーはそこでお金持ちになろうと頑張るのがカルヴァン派の発想だと言います。

繰り返しますがカルヴァン派は予定説を採用していますので、自分がキリスト教カルヴァン派の教えに目覚めたことさえ、神によって定められたと考えます。もし自分が神に選ばれているならば、神の教えに逆らいません。だから、目の前の快楽を禁欲します。その代わり、労働に励み隣人愛を実践するのです。労働は誰かのためになるので隣人愛の実践だと言うのです。このカルヴァン派の禁欲を理念型としてプロテスタンティズムが強い国から資本主義が始まったとされています。

主知主義的合理化との関連で言えば、カルヴァン派が神の予定を信じる合理的な理由は説明されていません。これは、神の選択への根拠なきコミットメントを表しており、価値へのコミットメントは価値合理性によって説明されるとしています。それに対して、目的を達成するために働かせられる理性を目的合理性と呼びます。

主知主義的合理化の問題点とその解決策

ウェーバーは主知主義的合理化が持つもう1つの側面として官僚制を挙げます。

官僚制については『職業としての政治』という講演で語られています。

官僚制とは、「明示的な規則の体系によって、予測可能性、計算可能性、支配可能性という諸原理が、政治や行政はもちろん、企業、大学、政党、労働組合、軍隊などの諸組織において具体的な制度となる」ものとして規定されています。

主知主義的合理化の計算可能性や予測可能性の面にピッタリ当てはまりますね。

だからウェーバーは官僚制を賛美したというわけではなく、そこにはらむ問題点をあぶり出そうとしていました。

それは、いわゆる官僚が政治家の命令に盲目的に従うことを最大の価値としていることから分かるように、社会の官僚化はパターン認識による「鉄の檻」をつくり、個人の内発的な力を奪ってしまうということです。

官僚制はルールや規則が定まっています。民間で言えばマニュアルです。それに基づいた行動ばかりをしていると、自分の意志や感情に基づいた動きが出来ず、人間疎外を引き起こし、不測の事態に硬直するというのがウェーバーの考えでした。

官僚制が引き起こす問題の解決策に関して、ウェーバーは理想の政治家像を提示します。心情倫理と責任倫理を兼ね備えた政治家です。

・心情倫理:燃えるような情熱と崇高な目的

・責任倫理:政治的な結果を果たすこと

政治とは、正統化された暴力の独占の取り扱いについて意思決定を行うプロセスです。心情倫理は突き詰めると改革のためには暴力を使うことはできないという結論を招きかねませんので、政治家が心情倫理だけを持っていても仕方ありません。それに対して、ただ権力闘争に勝てるだけというのも社会の官僚化から逃れられるとは思えません。

ウェーバーは燃えるような政治信条に発しながら、その全行動においてすべての結果責任を引き受け、なおかつ必要とあらば、予測不可能な状況のなかで自己の信念・心情に従って大胆に決断・行動をする人間を理想的な政治家像として提示しました。

参考文献
坂本達哉 社会思想の歴史 2014 名古屋大学出版会
大澤真幸 社会学史 2019 講談社

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