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【読了】中村文則『銃』
まず始めに、この小説の描写には、昨今の情勢と照らし合わせると不快感を催させるものがある可能性があります。
あくまでフィクションであり、2006年に発表された作品であることをご理解の上お読みください。
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フィクションの世界に「信頼できない語り手」という言葉がある。
登場人物やナレーターは、なんらかの理由で真実ではないことを語り、それにより読者のミスリードや困惑を誘います。語り手の供述と真実の間に生じる齟齬が、この手法のおもしろさです。彼らが真実を語らない理由に気づいたとき、人間心理の奥深さに感嘆するでしょう。
一人称小説『銃』の主人公である大学生は「信頼できない語り手」の一つの形ではないか。
偶然拾った拳銃の美に魅了されてしまった彼は、次第に「銃を持ち歩いている」という高揚感に支配されるようになっていく。
一見客観的に淡々と語っているように見えるが、何かおかしい。最初はただ銃身を眺め、磨くことだけに快感を覚えていた彼だが、欲求はどんどんエスカレートしていく。どこまでが彼の意識なのかわからない。狂気じみている。怖い。
中村さんの文章は、一見無機質なようで、人の心の醜さを掴んで抉り出す異様なエネルギーがある。何度も気持ち悪さを感じつつ、それでも引きずり込まれてしまう不思議。
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