Kazu

静岡生まれ静岡育ち、一応平成2桁生まれ。 ライターでもクリエイターでもありませんが、好きなこと、興味のあることについて、毒にも薬にもならない文章を気の向くままに。

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最近の記事

「浜松市秋野不矩美術館」訪問

遠州鉄道の終点・西鹿島駅からバスと徒歩で約20分、そこに現れる小高い坂道を登って行く。 木の形状をそのまま利用したテーブルや、今時都会ではほぼ見られない木製電柱を横目に楽しみながら進んでいくと、少しずつ特徴的な外観の建築物が見えてくる。 現・浜松市天竜区出身の女性画家、秋野不矩女史の業績を顕彰するための美術館。 周辺の豊かな自然と調和した独特な建築を手がけたのは、建築史家の藤森照信氏。かねてよりの憧れであり、写真などを見ながらニヤニヤしていた藤森建築、ついに初訪問! さ

    • 【読了】和嶋慎治『屈折くん』

      青森が生んだ異形のロックバンド「人間椅子」のギター&ボーカルによる自伝。 激しい劣等感に苛まれた少年時代を経て、突然舞い込んだ「イカ天」での栄光。しかしすぐにイカ天ブームは去り、代わって降りかかってくるのは厳しい極貧生活。そして現在…… 苦労に苦労を重ね続ける人生を歩みながら、それを前向きに乗り越えながら「愛」と「感謝」を知った人の佇まいの美しさ。グロテスクで禍々しい音楽を奏でながらも、その姿にどこか明るいものが垣間見える訳が少しだけわかった気がする。

      • 【読了】井上ひさし『東慶寺花だより』

        舞台は鎌倉。「縁切寺」として知られる東慶寺の門前宿。 宿に居候しながら見習い番頭として働く青年を軸に描かれる人情の機敏。 夫婦関係の終わりを司る場所というイメージで読み始めると、そこで交わされる会話のユーモラスで爽やかな様に驚かされる。 寺に駆け込んでくる女性の数だけそれぞれの物語がある。人間の縁の不思議さが、季節の情景とともに進行していく。

        • 【読了】小川洋子『まぶた』

          現実と虚構の狭間にいるような、何かもやっとした薄霧が立ち込めているような、繊細でどことなく不穏な空気が漂う、小川文学特有の美しい浮遊感を楽しめる短編集。 飛行機の中で突然最期を迎えた老婆、料理教室に現れた二人組の清掃業者、左手が固まって動かなくなった若者、登場人物たちはみんな、感情があるのかどうかも曖昧な淡々とした言動を繰り返すが、そんな彼らがふとした瞬間に、生き生きとした人間味を見せることがある。そんな感覚が小川ワールドの奇妙な幻想性をつくり出しているのかも。

          【読了】スージー鈴木『桑田佳祐論』

          甘く切ないラブバラードからナンセンスなコミックソング、現代社会を問うメッセージソングまで、幅広い内容を縦横無尽に歌い続け、日本ロックを牽引してきた桑田佳祐の歌詞世界。 なぜ彼が唯一無二の国民的ソングライターたり得たのか、作品を分析していけばいくほど見えてくる、桑田ワールドの広さ奥深さに感嘆。

          【読了】スージー鈴木『桑田佳祐論』

          【読了】大槻ケンヂ『新興宗教オモイデ教』

          突然学校を去り、しばらくしてから再会した同級生の少女に誘われ、「オモイデ教」に足を踏み入れる主人公。怪電波を操って人を狂わせる彼らの中で繰り広げられる狂気を孕んだ青春。 突拍子もない描写の連続ながら、根幹の内容は巷で多く見られる青春小説のそれと共通するのかも。凡庸な世界に憤りを抱く若者の純真。それでいて、人との関わりを断ち切ることのできない歪み。切なく、哀しい。 とはいえ、それだけ通俗的なテーマを扱っていても、作者の人間性があるのはやはり90年代サブカルの賜物。当時のアン

          【読了】大槻ケンヂ『新興宗教オモイデ教』

          【読了】町田康『バイ貝』

          働いて金を稼ぐ時に溜まる鬱。そしてそれを散じるために金を使う。また働いて鬱が溜まり、また使って発散し…… 人間の尽きない欲望の愚かさに向き合う男の奮闘。 それにしても、人間の思考というのは必ずしも一方向にだけ進むものではない。結論に辿り着くまでにあちこち寄り道し、どうでもいいことに思い至ったりしつつ、何度も軌道修正しながら終着点を目指すもの(もちろん、ゴールに辿り着かずに終わる場合も多い)。 フィクションの作品ではその過程が省略されて、より単純なルートで結論に至る場合が多い

          【読了】町田康『バイ貝』

          【読了】さだまさし『風に立つライオン』

          紛争下のアフリカで理不尽に直面する人々と真っ向から向き合う実在の日本人を描いた名曲を原作として、彼を知るたくさんの人が語る美しい人生の物語。 元になった歌は、日本に残してきた恋人に向けた、優しさと愛情の詰まった作品。そんな背景にあったのがこんなに残酷で苦しい現実だったなんて…… それでもそんな厳しい中に、人間どうしの温かい繋がりが見いだせる。主人公の医師のみならず、登場する一人一人の人間性がそれぞれ魅力的。 この世界にこんな人たちがいることが嬉しい。その存在を、歌を通して、

          【読了】さだまさし『風に立つライオン』

          【読了】原田マハ『常設展示室』

          日常のふとした出会いと感動。 美術を通してそんなささやかな人生の転機を経験する女性たちの6つの物語。 美術館という空間にいつもいて、優しく待ってくれている名画の数々に対する、マハさんの並々ならぬ愛情を感じられる作品。それと同時にまた、元美術館職員ならではの美術業界のシビアでリアルな側面を垣間見せてくれるのも面白い。 すべての短編を読み終えた後、女優の上白石萌音さんによる巻末解説を読んでまたびっくり。あんなに知的で、確固とした考えを持った人だったのか!と感服。

          【読了】原田マハ『常設展示室』

          【読了】筒井康隆『東海道戦争』

          何の前触れもなく突然始まる東京と大阪の戦争、長年連れ添った愛車との別れ、宗教政党が政治を牛耳る独裁社会……笑いあり、ゾッとさせる描写もあり、時にホロっと泣かせるところもあり、ひたすらエネルギッシュな筒井ワールド全開の短編集。 絶対に現実にはなってほしくないストーリーなのに、軽快な筆致につられてつい楽しくなってしまう自分が怖くなる。心なしか登場人物たちも滅茶苦茶な出来事にどこか浮かれているようにも見えてしまったり。 今世界中で現実に起きている深刻な出来事も、外部の目から見ると

          【読了】筒井康隆『東海道戦争』

          【読了】中路啓太「ゴー・ホーム・クイックリー」

          舞台は終戦直後の日本、GHQが作成した新憲法草案を「日本の法律」としての翻訳にあたる男たちの奮闘。 GHQによる「押しつけ憲法」という側面は確かにありつつ、厳しい制限の中で可能な限り日本の国柄を守り、独立を回復するために苦心する真摯な姿に胸を打たれる。 主義主張の違いはあれど、そのすべてが新たな日本の夜明けを願うゆえ。 特定の主張に偏らず、史実を淡々と文章化する姿勢にも好感。それでいて、現場の熱気が強く伝わってくる筆致に引き込まれる。 改憲派であれ護憲派であれ、改憲議論が

          【読了】中路啓太「ゴー・ホーム・クイックリー」

          乃木坂46は日本アイドル界の「原点回帰」?

          最初に、この記事で述べる内容は、すべて僕の偏見と思いつきに基づくものです。 あくまで一つの仮説としてお読みください。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 1970年代以前まで「アイドル」は、(少なくとも女性に関しては)「歌謡曲」と不可分の言葉であったと思われる。 その音楽は切なさやノスタルジーを感じさせ、歌詞も「明るい」ものは決して多くない。 「中3トリオ」と称される山口百恵、森昌子、桜田淳子や、天地真理、あべ静江、岩崎宏美、高田みづえ等々、彼女たちが概して「大人びた」「落

          乃木坂46は日本アイドル界の「原点回帰」?

          散歩のススメ

          別に無理して毎日投稿をしようとしているわけではないとはいえ、4日も間が空くとさすがに落ち着かなくなってくるわけで…… 3連休中全く家から出ない日が続いたので、気分転換に散歩に出ることに。 僕の散歩に、決まった時間やルートはない。何も運動やダイエット目的でやっているわけではないから、スピードもリズムも必要ない。とにかく気が向いたときに気の向くほうに足を向ける。 家の周りの歩き慣れた街でも、知らなかった裏路地をふと見つけることがある。そんな道があれば、迷わず入ってみる。迷子に

          散歩のススメ

          【読了】中村文則『銃』

          まず始めに、この小説の描写には、昨今の情勢と照らし合わせると不快感を催させるものがある可能性があります。 あくまでフィクションであり、2006年に発表された作品であることをご理解の上お読みください。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 フィクションの世界に「信頼できない語り手」という言葉がある。 一人称小説『銃』の主人公である大学生は「信頼できない語り手」の一つの形ではないか。 偶然拾った拳銃の美に魅了されてしまった彼は、次第に「銃を持ち歩いている」という高揚感に支配され

          【読了】中村文則『銃』

          新興宗教3世として生きてきました

          おおっぴらに言うべきことではないと考えてずっと伏せていたが、最近この問題が予想外の形で世間を騒がせているのを見て、カミングアウトしてみようと思う。 僕は「新興宗教3世」として生きてきた(厳密には「3世」という表現で表して良いのかよくわからない宙ぶらりんの立場ですが、これについては後ほど言及します)。 その団体とは「キリストの幕屋」。よほどの宗教マニアでもない限り、この名前にピンとくる方はほとんどいないと思う。 ・「キリストの幕屋」とは?念のため言っておくと、幕屋は、反社

          新興宗教3世として生きてきました

          白鷗大学WEBフォーラム「きたやまおさむと語る 危機と日本人」聴講レポ

          7/10(日)、白鷗大学の主催により開催されたWEBフォーラムを聴講させて頂きました。 フォーク・クルセダーズのメンバーで精神科医、また同大学の学長を務める北山修さんに加え、THE ALFEEの坂崎幸之助さん、エッセイストで作詞家の松山猛さんをゲストに迎えた今回は「今よみがえる『イムジン河』~この分断の時代に~」と題し、1968年リリースの名曲をこの時代に改めて振り返る場でした。 ①きたやまおさむミニ・レクチャー冒頭ではミニ・レクチャーとして、フォークルの活動の中で4回発売

          白鷗大学WEBフォーラム「きたやまおさむと語る 危機と日本人」聴講レポ