【読了】筒井康隆『東海道戦争』
何の前触れもなく突然始まる東京と大阪の戦争、長年連れ添った愛車との別れ、宗教政党が政治を牛耳る独裁社会……笑いあり、ゾッとさせる描写もあり、時にホロっと泣かせるところもあり、ひたすらエネルギッシュな筒井ワールド全開の短編集。
絶対に現実にはなってほしくないストーリーなのに、軽快な筆致につられてつい楽しくなってしまう自分が怖くなる。心なしか登場人物たちも滅茶苦茶な出来事にどこか浮かれているようにも見えてしまったり。
今世界中で現実に起きている深刻な出来事も、外部の目から見るとそんな感覚かも、と気づくとまたそれが怖く思えてくる。
ちなみに個人的なお気に入りは、都市の地下深くを舞台に野良猫たちと巨大ワニの戦いを描く『群猫』。
凄惨な殺し合いの末に待つ、虚しくも美しいラストは鳥肌もの。