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嘘つきだし正直者でもあった『六人の噓つきな大学生』浅倉 秋成【読書記録:003】
半年ぶりの投稿ということで、さっそく最近読んだ本についてご紹介します。いくぞ!
一時期めちゃくちゃ流行ってましたね。常に書店で平積みされていましたし、最近は映画化もされていたかと思います。
私は「ほんタメ」というYouTubeチャンネルで紹介されていたのをきっかけに読み始めました。
↑このチャンネル、ミステリ作品をめちゃくちゃ紹介してくれるので、とてもありがたいです。読みたい本がどんどん溜まっていきます。あとMCの齋藤明里さん可愛すぎじゃないですか???
以下感想になります。
※一部内容ネタバレあります。
まずざっくり全体の感想から。
本作は”就活”をテーマにしたミステリ小説です。ジャンルとしては結構珍しいのかな?
読み終えたばかりの感想としては、「これはミステリというよりは青春小説だな…」でした。
就活が題材と聞くと、結構重々しいイメージになりがち。しかもタイトルで「噓つき」なんて言うもんだから、私も最初は「騙し合いだらけの学生版ライアーゲームが始まるのかな?」と想像しながら読み始めました。
が、中身は決してそんなことはなく、すっきり後味良く、読後の余韻が心地よい小説だったなーと思います。(勿論、緊迫した心理戦もしっかり起きます。)
以下、もう少し細かい内容に分けて触れていきます。
ミステリ小説を読むにあたっては常にそうなんですが、今回も「犯人?余裕で当ててやるが?」と息巻きながら読み進めました。
結果から言うと、ヒントとなる伏線が揃った段階で、誰が犯人か?については見破ることができました。(勿論、読み進める度に犯人候補はしっかり二転三転…作者の掌の上で踊る踊る…)
パスワードについても、これだろうな、と思うものが正解。やったぜ。
ただ動機については…なるほど、これも若さ所以か、と感じるものになっています。
本の中でとある人物が言っていましたが、「平常時には思いついても行動できない犯行」であり、まさに就活という"人生の混乱期"だからこそ起きた若さゆえの動機、という感じで、だーいぶ尖り散らかしています。是非皆さんの目でご確認ください。
ただちょっと犯人当てまでのアプローチで1つ物申したい!
グループディスカッションにおいて、とある犯行に対し時間帯が絞られていき、その時間帯のアリバイ有無で、事件の犯人を確定させる流れになっていきます。
が、正直ちょっと強引じゃね?と感じてしまいました。仮にその時間帯にアリバイがなくても、自分以外の人間を使う等、かなり反証の余地はあったように感じたんですが、皆さんはどうでしょう?(自分が馬鹿でちゃんと分かってないだけかもです…すみません…)
ちなみに、終盤の伏線について。
とある登場人物の描写が最初から伏線になっていたのですが、ここは全然気が付きませんでした。しかも割とヒントが多かった~。
大筋に関わる訳ではありませんでしたが、小さな違和感をきれいに補正する美しい伏線だと思いました。
”就活”というテーマについて。
よく考えると、結構「青臭さ」があるんですよね、就活って。
ちょうど大人と子供の中間だからこそ、精神的に不安定な部分や人として青い部分が見え隠れするイベントです。
緊迫した雰囲気の中、雲をつかむような漠然とした不安。
何を以てすれば人事に評価してもらえるのか?身だしなみ?仕草?言葉遣い?声のトーン?目線?すべて完璧にこなさないと、スタートラインにも立てないんじゃないか?
それでいて、輝く未来への期待。高揚。慢心。「自分は何でもできる!何者にもなれる!」と思える無敵感。
正直、めっちゃ青春イベントじゃないですか?
若気の至り、なんて言葉がありますが、主人公たちの感情の輝きが自身の若い頃とも重なって、就活生特有の必死さ(と若干の痛々しさ…)に少し胸が苦しくなりつつも、とても懐かしい気持ちにさせてくれました。
また、就活生が感じる不安をこれでもかと描きつつ、この小説では、「評価する側」の不安についても触れていました。(どちらかと言えば、物語の核心はこちらな気がします。)
「就活」って何?「人を評価する」って何?ひいては「自分の価値」って何?
自分が評価したものが本当に正しいのか?
なんだか、考えるだけでそわそわしてしまいますが、しっかりそのあたりに対する登場人物たちの考え、思いも描かれております。
とても今の自分に刺さったし、就活に対する考え方の1つの答えが示されているように思います。今就活をしている方々に是非読んでほしい、そう思える小説です。
タイトルの意味。※少しネタバレあり※
正直、滅茶苦茶良いタイトルだな、と読了後に思いました。
確かに、登場する六人の大学生は皆「嘘つき」ではありました。
が、就活生なんてみんな嘘をつきます。企業だって嘘をつきます。社会はある程度の嘘で成り立っているところがあります。それが正しい・間違いじゃないのがミソです。
「嘘つき」と単純に評価して切り捨てるのではなくて、「嘘に対する善悪の評価なんて難しいんだから、社会や自分自身にはとにかく正直に向き合うことが大事」ということを、この小説は教えてくれました。
なので、彼らは「噓つき」でもありましたが、同時に「正直者」でもあったように思います。
この小説のタイトルを見て、「うわ、こいつらめっちゃあくどい奴らなんだろうな~^^」と思ってニマニマしながら読み始めた私は、まんまと勝手な評価をしたレッテル貼りということになります。
そういう痛いところをついてくる、という意味で、良タイトルだな~(ずるいタイトルだな…w)と思った次第です。