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私は自己啓発本と相性が悪いのだ

先日、就労支援センターで、数冊の自己啓発本を読んだ。
自分のメンタルケアのために、参考になるフレーズがあればメモに取っておこうと思い、自分に向いてそうな本を数冊選んだ。「HSPさんのための~」とか「心の整理をする方法」みたいな。
椅子に座り、姿勢を正して、机の上で読んだ。

びっくりするほど頭に入ってこなかった。

なんかもう、目が滑る滑る。右から左に流して~なんてもんじゃない、そもそも入ってこないのだ。何故なのか。

読書が苦手な人のパターンに、同じ行を往復する、というのがあるが、そんなレベルじゃない。目に映る文字が、こう、なんか心を掴まないというかなんというか。文字が入っては消え、の繰り返しで、結局20分もせずに読書を諦めた。

若い頃は読書家を自負した私が、こんなことでいいのか。
小説でも、相性の良し悪しがあって、読んでて途中で「あ、合わねえな」と思ったら読書を中断する、というのは何度もあったが、内容がまったく入ってこないのはやばくない?老化の始まり?と焦った。

ちょうど隣で、センター管理者から「この本を読んで感想文を書いてください」と頼まれた男性がいた。休憩時に、煙草を吸いながらその話を聞いた。

「なんか読んでてイライラしてなあ。そらあんたは出来ていいよね~、自慢かよ、て感じ」
心底うんざりしている様子だった。

その本は、うつを発症し、回復した人が書いたという内容で、私は読んだことが無いので詳しくは知らんが、多分、成功体験があって、私はこれでうつを克服した!とかそんな感じなんだろう。

ぶっちゃけて言うが、現在うつに悩んでる人間にとって、他人のうつ克服話ほど興味の持てないものはない。
オレは克服したぜ!と言われても、うるせえよこっちは現時点で悩んでんだ馬鹿野郎、て感想しか出てこない。うつ1年目の私がまさにこれで、何読んでも、
「良かったね~克服した人は(半笑い)」
「へーすっごい(棒読み)」
ぐらいにしか思えなかった。現状にイライラしてる人間にとって、他人の成功体験ほど、人の神経を逆なでするものってないんじゃないか?
「私はこうして立ち直りました!」
と言われても聞く耳が持てず、はいはいそっすか、と本屋を後にした経験が何度もあった。

その理由について考えてみた。

うつというのは、常にストレスがMAXな状態で、脳のリソースが、ほぼストレスでやられている状態である。不満、不安、焦燥感、自己否定、希死念慮。あらゆるネガティブな思考が隙間なく脳を支配している状態である。

そんなところに、他人のうつ克服成功体験の話を持ち出されても、まず聞けない。卑屈に卑屈が重なり過ぎて素直に聞ける状態じゃないのだ。
そして、常に脳を酷使しているので、活字が読めなくなってしまう。脳が常に疲れているので、文字を読むという行為が億劫になってしまうのだ。

だから、どれだけ明るく、優しく、病気について文章を綴られたところで、「知らん」「うるさい」「しんどいねん」という感情しか湧かないのだ。

そんな状態の私でも読めた本があった。過去に紹介したこの本だ。



雨宮処凛「自殺のコスト」(画像は太田出版から)

不謹慎すぎて草生える、て感じだが、これがめちゃくちゃ良かった。
当時、睡眠薬が効かず不眠状態が続き、ベッドから起きられず引きこもり、仕事も休み、親には「何してんねん!」と罵倒され、自殺することしか考えられなかった。毎日が「死にたい」という気分でいっぱいだった。地球爆発せえへんかな、とも思った。消えてなくなりたい、とずっと願ってた時に出会ったのがこの本だ。

「コスト」とタイトルに書いてあるだけあって、この自殺をするのにはこれくらいお金がかかります、というのを丁寧に説明してくれている。ちなみに昨今流行っている処方薬ODだが、現在、私が服用している「デュロキセチン」は、三環系抗うつ薬でも比較的新しく、2010年に発売されたので、2002年に発行されたこの本にはデータが乗ってなかった。

同じ三環系抗うつ薬で「アモキサン(10㎎)」で、625錠(5,438円)飲めば、致死量に至る、と書かれている。うつ病に効く抗うつ薬だが、発がん性の恐れがあるとして、2023年2月に出荷停止となった。
著書内で、一番コストが低い催眠・鎮静剤「バルビタール(1g)」は、5錠~20錠(56円~224円)で致死量に至るとされているが、強力な為、基本的に医者が処方することがない。

現在、処方されている睡眠薬「フルニトラゼパム(サイレース1㎎)」は6万錠(30万2,000円)が致死量と言われている。私も現在服用しているが、高いよね。

市販薬だと、咳止め液や風邪薬が有名で、「パブロンS(アセトアミノフェン1錠300㎎)」だと44包~83包(6,765円~12,761円)で致死量に至る。割と現実的な金額で市販薬だしお手頃と言えばお手頃か。その気になれば死ねる、てことで、

死ねる(⁉)市販薬の王道アセトアミノフェン

と堂々と紹介されていた。

え、こんな本紹介していいの?とお思いの人もいるだろうが、薬物に関してはどの内容も「楽には死ねない」と書かれている。4~5日悶絶して死、だの、胃洗浄されて未遂に終わっただの、治療費にえらい金が掛かったなど、成功したケースより失敗したケースの方が多かった。致死量も人それぞれで、結果論でしか出せないし。ちなみに明らかに自殺目的と判断された場合、治療費は保険適応外である。昔の映画のように「眠りながら死ぬ」ようにはいかないのが現実である。

こうなるともう、自殺の参考、というよりデータの面白さで読んでしまったのである。どのデータも著者が様々な資料や取材を参考にした上で書かれており、科学的にも信頼できる。しかも雨宮処凛、元は小説家で自伝も出してるだけあって文章が上手い。面白い。

結局、本なんてね、面白けりゃいいんですよ。

ちなみに様々な自殺方法とそれに掛かるコストが紹介されているが、共通して怖いとされているのが、失敗した時の後遺症である。
確実に死ねるであろう首吊りや飛び降りでも、失敗して脳に後遺症が残れば、身体不随で車いす生活を余儀なくされるケースもある。
そして、飛び降りや飛び込みで他人を巻き込んだ場合、損害賠償も発生する。自殺した本人が何故か生き延びて、巻き込まれた他人が死んだケースもざらにある。こうなってしまっては生き地獄としか言いようがない。

実はこの書物、自殺を推奨しているように見えて、「自殺するときの状態」や「自殺が失敗した時のリスク」、また「自殺した後の死体の状態や処理」「賠償問題」など、デメリットの方が強く書かれていて、むしろ自殺を防止する役目を果たしているのである。

「自殺するのって、相当覚悟いるし、面倒くさい」

そう思わせてくれる書物である。個人的にはクレゾール石鹼液を飲んで自殺した女性の描写がエグくて印象に残った。劇薬は確実に死ねるが、即死はなく、一週間もだえ苦しみながら「悶死」する。死ぬために飲んだのに、思わず助けを求めるほどの激痛に苛まれる。ああ怖い。


まあ、結局、何が言いたいのかというと
「サブカルクソ女に真っ当な自己啓発本は相性が良くない」
ということか。読書感想文を求められた男性もその傾向が強いらしく、



筒井康隆「現代語裏辞典」(画像は文藝春秋から)


筒井康隆の話で盛り上がってたから、多分、毒のある要素が無いと楽しめないタイプの読書家だと思う。


そんなサブカルクソ女で捻くれた私でも読めた自己啓発本がこちら。

堀田秀吾「図解ストレス解消大全」(画像はSBクリエイティブから)

1項目2ページでイラスト付きで読みやすい。分かりやすい。科学的根拠の裏付けも込みでよくここまでコンパクトにまとめたな。1ページ目から読む必要もなく、目次から気になった項目へ行けばいいので、単純に文章を読むのがしんどい人におすすめの「真っ当な自己啓発本」である。
堀田秀吾さん。そういやNHK番組『チコちゃんに叱られる』に出演されていた。陽気な人だった。サブカル要素はないので、いろんな人にお勧めしたい。

久々に書いたら長くなった。ではこの辺で。


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