草で動く「農業用動力」ってすごくない?

雑草からエネルギーを取り出すのはなかなか難しい。
米や麦、トウモロコシのように水気の少ないデンプンになってくれるとエネルギーが濃く(エネルギー密度が高い)、バイオエタノールも効率的に作れる。ただしこれらは食料としても大事なので、バイオエタノールの原料に使うのはもったいない。

で、稲わらのような食べない部分でバイオエタノールを製造しては?という技術が開発されている。近年はCACCO法というのが開発され、効率的にバイオエタノールを製造することができるようになったらしい。それでもなかなか厳しい面があるのは、さあバイオエタノールができたとしても、

そのままでは燃料にならない。水分多過ぎて燃えない。だから焼酎を作る要領で、熱をかけてアルコールを飛ばし、それを回収する必要がある。水分を極力とらないとエンジンを傷めたりするようなので、ここをしっかり行う必要がある。この「蒸留」というステップで燃料が必要。つまりエネルギーを消耗。

こんなわけで、バイオエタノールはできても、それを燃料に加工するのにエネルギー消耗が大きかったりして、エネルギー的に赤字に陥りやすい。効率的に製造する技術開発は今後も重要だが、バイオエタノールを黒字のエネルギーとして得るには原理的に難しいという問題がある。

唯一黒字のエネルギーが得られるバイオエタノールが、ブラジルのサトウキビ由来のもの。なぜ黒字化ができるかというと、サトウキビを搾ったカス(バガス)を燃料として燃やせるから。ブラジルみたいに広大で、砂糖の生産も盛んな国は燃料を容易に手に入れられるメリットがあり、例外的に黒字。

それを例外として、軒並みバイオエタノールはエネルギー的に赤字になる。これでトラクターを動かすとなると、エンジンの動力に変える効率は3〜4割だから、さらに効率は悪化する。原料を雑草などにするとさらに効率が悪くなる。バイオエタノールで農機具を動かすのは効率的と言えるかどうか。

そこで見直したいのが、畜力。馬や牛で耕す、馬耕や牛耕。「あ、江戸時代のあれ?」と思われるかもしれない。古くて使い物にならないから滅んだんだろ?と思われるかもしれない。しかしこと雑草を動力エネルギーに変えるという点において、畜力に勝るものは他にないだろう。

彼らも雑草なら何でも構わないというわけではないようだが、それでもまあかなりいろんな雑草を食べてそれを力に変える。私もこの春、馬耕を経験させて頂いたが、そのまさに「馬力」に驚いた。ぬかるみのひどい田んぼで、2、3歩歩くだけでひどく苦労する場所でも、馬はずんずん進む。すげえ!

新潟のその田んぼは重粘土質で、機械も深みにハマって動きが取れなくなることがある。しかし馬は自らその危機を脱し、ズンズン進む。なんと!人間が工夫しなくても馬が工夫する!人工知能で動く機械でもなかなかこうはいかないだろう。

休憩時間に、馬はそこら辺の草をムシャムシャ食べていた。チガヤやクズなど、すぐそばに雑草はいくらでも生えていて、それをいつまでも食べている。そして出動。強え!草で1馬力出せる機械が、これほどエネルギー効率が高い動力が、他にあるだろうか!と、感嘆した。

私はこの馬耕、牛耕に、最新技術を組み合わせるとよいように思う。今は人が手綱を引っ張り、進路を制御する。これを人工知能と機械とである程度自動化できれば、人手を要さない優れた動力となってくれるだろう。しかも草で動く!

草をバイオエタノールに変換してから機械動力を動かす効率と、草を食べた馬や牛で耕すのと、どちらの方がエネルギー効率が高いか、研究してみる価値はある。恐らく、かなり圧倒的。しかも馬や牛自体が優れた「人工知能」。水田の草取り作業でも彼らはイネを踏まない!賢い!

馬耕、牛耕をスマート化する「スマート馬耕」「スマート牛耕」を、真面目に研究してはどうか。馬や牛を飼ったことがない人でも、ある程度研修を受けたら利用できる制度を作ってはどうか。飼育は専門の組織が行ってはどうか。などなど、研究すべき課題は多い。

それでも、機械動力に頼ってきたこれまでとは違う、圧倒的なエネルギー効率を実現できるのではないか。それを最新技術で使いやすくすることは、非常に価値がある。まさに温故知新。大きなイノベーションとなるように思うが、いかがだろうか。

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