アスリートがプレッシャーを力に変える時
今回は、プレッシャーを力に変える時の反応について。
今、パリオリンピックが行なわれています。
選手の方々は計り知れないプレッシャーの中、競技に挑まれていると思います。
今までの努力の成果が実を結ぶかどうか、その戦いに挑まれています。
自分の実力を十分に発揮できるかどうかは、プレッシャーに対する反応の仕方に大きく左右されます。
アスリートが実力を発揮する時にプレッシャーに対する反応のひとつ、「チャレンジ反応」が起きていると言われています。
今回は、「チャレンジ反応」についてと、どのようにして起こるのかという話です。
プレッシャーを感じた時の反応として、「闘争・逃走反応」がよく知られています。
交感神経が活性化して、臨戦態勢を取って瞬時に行動できるように体中の力を結集させる反応です。
心拍数が上がり、筋肉と脳にエネルギーが送られます。
「火事場の馬鹿力」は闘争・逃走反応です。
身の危険を感じる脅威に対して、驚くべき身体能力や勇敢さを発揮します。
「闘争・逃走反応」は、原始の頃に猛獣と遭遇した時に闘うか逃げるかして危険を逃れるために発達した反応です。
この「闘争・逃走反応」は、「脅威反応」とも呼ばれ、ストレスホルモンが出ますし、慢性化すると心身に悪影響を与えます。
そのため、悪いイメージを持たれがちです。
しかし、私たちがストレスやプレシャーを感じた時の反応は、この闘争・逃走反応の1種類だけではありません。
他にも「チャレンジ反応」というものがあり、プレッシャーを感じても危険がないと、この反応が起こります。
「闘争・逃走反応」と同様に「チャレンジ反応」も心拍数が上がり、筋肉や脳にエネルギーが送られて力が湧きます。
しかし、「チャレンジ反応」には「闘争・逃走反応」と異なる重要な点がいくつかあります。
「闘争・逃走反応」のように恐怖は感じません。
2つの反応はともにコルチゾールとDHEAというストレスホルモンが分泌されます。
DHEAは脳の成長を助ける働きがあり、コルチゾールとDHEAの割合が大事になります。
「チャレンジ反応」はDHEAが分泌される割合が高くなるのです。
「闘争・逃走反応」は脅威から身を守るためのものです。
闘いで出血を最小限にとどめるために血管が収縮します。
一方で「チャレンジ反応」は、体がリラックスして血流量は最大になり、大きな力を出せるように準備します。
アスリート、アーティスト、外科医などが、フロー状態(没頭した集中状態)にある時には「チャレンジ反応」の特徴が表れるそうです。
それでは、「チャレンジ反応」は一体どのようにすれば起こすことができるのか?
チャレンジ反応が起こる最大の要素は、「プレッシャーに対処できる自信を持てるかどうか」であることが研究でわかっているそうです。
人はストレス状況において、状況と自分の力量を天秤にかけます。
どの程度難しいだろうか。
自分には必要なスキルや強さ、勇気はあるだろうか。
そうやって状況と自分が持っている力や手段を天秤にかけて、自分の手に負えると思えると、チャレンジ反応が起こります。
そのためにやはり大事になるのは、挑戦に向けて自分がどれだけ準備してきたのか。
過去に同じような問題を乗り越えた経験はあるのかです。
アスリートならやはりどれだけ練習をしてきたのかが重要になるのでしょう。
2000年のシドニーオリンピック直前の柔道の谷亮子さんの言葉。
大会1か月前に左足首の腱を損傷し、直前の1か月間まともに練習できなかったそうです。
そのことについて大会前にテレビ局のレポーターが直撃しました。
「足首の状態はどうですか? 練習はできていないそうですが不安はありますか?」
それを聞いて谷亮子さんが答えた言葉。
「7歳の時から毎日練習してますから」
重い言葉です。
7歳の時から長い長い間積み重ねてきた練習に比べて、1ヵ月程度のブランクなど恐れるに足りない。
努力量に対する自信は半端ではありません。
谷選手は金メダルを取って当然と周りに思われていました。
金メダルを取ってもさして驚かれはしません。
金メダルを取れなければ、たとえ銀メダルだったとしても、みんなに残念という評価を下されます。
その重圧たるや想像を絶します。
この状況なら逃げ道を用意した回答しても責められるものではなかったはずです。
思うように練習できていなかったので不安ではありますが・・・など。
それにもかかわらず、谷選手は一切の言い訳をしませんでした。
「私は7歳の頃から休まずに練習してきた」という自信があったのでしょう。
結果、谷選手はシドニーで金メダルを取りました。
プレッシャーと膨大な練習量による自信とを天秤にかけた時に自信が勝ったのでしょう。
アスリートの競技に限らず、私たちはストレスやプレシャーを感じた時にそれを味方にして高いパフォーマンスを発揮する「チャレンジ反応」を起こすことができます。
今回は、プレッシャーを力に変える「チャレンジ反応」についてお話しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
【参考文献】
『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』(ケリー・マクゴニガル (著), 神崎 朗子 (翻訳) 大和書房)
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小林いさむ|公認心理師